第360回 鉄道総研月例発表会

日時 2023年05月17日(水) 13:00~17:00
場所 日本工業倶楽部会館2階 大会堂
主題 軌道技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

関係研究部 軌道技術研究部

13:00~13:05
軌道のメンテナンス技術に関する最近の研究開発

 少子高齢化による労働力不足およびコロナ禍による旅客の減少を背景に、軌道のメンテナンスにおける省力化および低コスト化は喫緊の課題となっている。軌道のメンテナンス技術に対する研究開発は、デジタル技術の活用による検査の省力化・低コスト化と、効果的な補修技術の導入による低コスト化に分けられ、これらはどちらも非常に重要な研究開発課題となっている。ここでは鉄道を将来にわたって持続させるために必要な、軌道のメンテナンス技術に対する研究開発の方向性について概説する。

発表者
軌道技術研究部長 桃谷 尚嗣

13:05~13:25
防除効果および施工性に優れた蒸気除草手法

 鉄道用地での雑草防除では刈払いが広く行われている。刈払いは雑草を一時的に除去できるが、比較的短期間で再生する状況にあった。また、刈払い機の使用においては振動障害防止のため、1日の作業時間が制限されている。そこで、蒸気の熱により雑草のタンパク質に熱変性を起こして枯死させる方法に着目した。施工速度を刈払い以上に向上させ、防除効果にも優れた蒸気を用いた雑草防除手法を開発したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 副主任研究員 谷川 光

13:25~13:45
列車前方画像を用いた軌道材料状態評価手法の性能検証と適用拡大

 徒歩で行う線路巡視や軌道部材検査は、作業が広範囲にわたるため多くの労力と時間を必要とする。一方で、検査を自動化する場合、高額な検査装置はコストの負担が大きく、簡易かつ低コストの検査手法が求められる。そこで、4K以上の解像度を有するビデオカメラを用いて列車前方より撮影した画像から、木まくらぎの劣化度を評価するとともに、レール締結装置の脱落を検知する手法を開発した。本発表では、開発した手法の性能検証を行うとともに、噴泥箇所の抽出などその他軌道部材への適用拡大を検討したので紹介する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.37 No.4「列車前方画像を用いた木まくらぎ劣化度判定システム」

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 副主任研究員 加藤 爽

13:45~14:05
線路周辺画像解析エンジンの暗所撮影への適用

 列車前頭画像を用いて、列車巡視において目視で確認される建築限界支障物や沿線環境変化を検知するための線路周辺画像解析エンジンを開発してきた。本エンジンは、日中の画像撮影を想定して開発しており、夜間やトンネル内の撮影(暗所撮影)への適用可能性は未知数であった。そこで、本エンジンの暗所撮影への適用可能性を調べるため、近赤外線照明を用いた夜間撮影試験を行い、取得した画像を用いた3次元復元や差分検知の精度検証を行った結果を紹介する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.36 No.3「列車巡視支援のための線路周辺画像解析エンジンの開発」

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 主任研究員 清水 惇

14:05~14:25
モニタリングデータ等を用いた軌道保守計画策定支援システムの機能拡張と活用法

 軌道の各種保守計画作成を支援する「軌道保守計画策定支援システム」において、取得できるモニタリングデータの多様化に伴い、軌道保守計画システムにおいて小型機械(バックホウタイタンパ等)の使用を考慮できる計画の汎用性拡大に加え、レール削正システムにおいてレール扁平度を考慮する機能の追加、PC まくらぎ化計画システムのWEB アプリ化、組み合わせ保守計画システムの在来線への適用等の改良を行ったので報告する。また、各種システムの機能を活用した軌道状態の予測精度の検討を行ったので紹介する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.30 No.10「レール削正と軌道変位保守の同時期実施を考慮した軌道保守計画法」
 RRR Vol.74 No.9「木まくらぎ軌道のPCまくらぎ化計画を支援する」

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 研究員 昆野 修平

14:25~14:45
通り変位データを用いたロングレールの座屈安定性の評価方法

 現行の軌道座屈に対する管理では、座屈が生じ得るレール温度上昇量の理論上の下限値を指標として安全側の管理をしている。一方で、理論上の上限値である座屈発生温度との間には少なからず温度差があるため、下限値を管理指標とすると必要以上に安全度の余裕が生じている可能性があり、保守コストの観点から合理的ではない。本研究では、上記の温度差を管理指標に反映するための一環として、軌道検測車で測定した通り変位データに基づき、ロングレールの座屈発生温度を簡易に推定する方法を検討したので紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 研究員 山岡 大樹

14:45~15:00
休憩

15:00~15:20
ガイド波によるレール頭部横裂検知手法の検討

 レール折損につながる頭部横裂は探傷車による検知が困難なため、多大な労力をかけて手作業で検査されている。そこで車上から非接触で検査可能なガイド波による頭部横裂検知の可能性を検討するため、水平裂や横裂を再現したFEMレールモデルを用いた超音波伝播解析を実施するとともに、同様のき裂を加工したレールを構内試験線に敷設し、ガイド波センサを搭載した車両の走行試験を実施した。その結果、ガイド波の受信強度により水平裂および横裂の存在状況が評価可能であることを確認したので紹介する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.36 No.3「軌道回路に代わる車上式レール破断検知システム」

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 研究員 小納谷 優希

15:20~15:40
新幹線高速区間に適用可能なテルミット溶接法

 施工コストがエンクローズアーク溶接法より低廉で、施工性が高いテルミット溶接法を新幹線高速区間における現場溶接法として実用化するために、モールド形状の改良などにより作業性に影響を及ぼすことなく曲げ疲労強度を20%向上可能な施工法を開発した。さらに、テルミット溶接部の早期折損につながる「凝固割れ」の発生メカニズムを概ね解明し、これを防止する施工手順を考案したので紹介する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.35 No.4「曲げ疲労強度の向上が可能なテルミット溶接工法の開発」

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室長 寺下 善弘

15:40~16:00
非金属材料を主材料としたレール締結装置の開発と性能評価

 レール締結装置は、一般的にレールとまくらぎの間で所定の電気絶縁性を確保する構造となっている。しかし、鋼橋上など、敷設環境によっては電気絶縁性が低下し、地絡や短絡などの輸送障害が生じた例が報告されている。本研究では、レール締結装置の電気絶縁性に起因する輸送障害の発生リスクの低減を目的として、電気絶縁性に優れる非金属材料を主材料としたレール締結装置の実現可能性を検証したので報告する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.37 No.5「非金属材料を主材料としたレール締結装置の開発と性能評価」

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 研究員 松尾 淳史

16:00~16:20
新幹線用レール鋼製ノーズ可動クロッシングの在来線軌道における性能確認

 超音波探傷検査が可能であり、保守コストの低減を目的として鉄道総研が開発した新幹線用レール鋼製ノーズ可動クロッシングは、これまでに車両基地内で新幹線車両が基準線側を30km/h 程度で走行する状況下において、各種性能に問題がないことを確認している。そこで、本研究では、車両基地以上の通過速度における挙動確認および長期耐久性を検証するため、旅客・貨物列車が80km/h 程度で走行する在来線軌道の一般区間で約2 年間試験敷設を行ったのでその結果について報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 研究員 佐藤 弘規

16:20~16:40
新幹線用PC まくらぎの荷重環境の実態調査と耐荷力評価

 設計耐用年数50年を迎えるPC まくらぎが近年増加している。本研究では新幹線用PC まくらぎを対象として、輪重や曲げモーメントに関する現地試験やJISに規定される曲げ試験等を実施した。その結果、新幹線用PCまくらぎの荷重環境は設計限界値に比べて余裕があること、営業線敷設の経年PCまくらぎはJISの曲げ破壊荷重の規格値を満足すること等がわかった。これらの結果により経年50年程度のPCまくらぎは一般的な環境下では交換の緊急性が低いことを実証したので報告する。

<参考文献>
 RRR Vol.72 No.10「PCまくらぎ」

発表者
鉄道力学研究部 軌道力学研究室長 渡辺 勉

16:40~17:00
噴泥箇所に適用するSFCてん充道床軌道の性能評価

 既設のバラスト軌道を低コストで省力化軌道に更新するため、グラウト材に浸透性の高い超微粒子セメント(SFC)ミルクを用いることで注入前の道床交換を不要とした「SFCてん充道床軌道」を開発している。これまでに開発したSFCてん充道床軌道では、噴泥したバラストにはSFCミルクを注入できなかったため、泥土化したバラストを部分的に交換することで施工を可能とする方法を提案した。ここでは、実物大軌道の繰返し載荷試験による沈下特性の評価とともに、営業線における試験施工の結果について紹介する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.36 No.3「噴泥したバラスト軌道を対象としたSFCてん充道床軌道の性能評価」
 RRR Vol.79 No.7「適用範囲の広い道床バラストの固化技術」

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 主任研究員 渕上 翔太


関係研究部

  軌道技術研究部