第363回 鉄道総研月例発表会

日時 2023年11月15日(水) 13:30~17:25
場所 日本工業倶楽部会館2階 大会堂
主題 防災技術および鉄道地震工学に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

13:30~13:45
気象災害に関する最近の研究開発

 未曾有の強雨による土砂災害や大型で強い台風の上陸による強風災害など、近年気象災害が激甚化する傾向がみられる。災害対策は、設備等により災害を生じさせないハード対策と災害発生は許容するが列車の安全を確保するソフト対策に分けられるが、激甚化する気象災害に対してすべてハード対策で対応することはコスト面から現実的ではない。そこで本発表では、これまで以上に重要性が高まると考えられるソフト対策を支援する様々な災害要因の評価手法に関して、鉄道総研で現在進めている研究開発の概要を報告する。

発表者
防災技術研究部長 布川 修

13:45~14:10
気象庁の風速情報と気流解析を活用した沿線風速の評価手法

 近年、台風の強大化などに伴い、より強い風がより広範囲な場所で吹く事象が増えており、沿線の離散的な風速計で観測された強風データを補間する必要性が高まっている。そこで、気象庁の風速情報を活用することにより、将来的に低コストで広範囲かつきめ細やかな強風監視を実現することを目的として、気象庁の風速計で時々刻々観測される「点」の実況風速と気流解析で得られる「面」の風速分布を組み合わせて、沿線の実況風速を評価する手法を開発した。本発表では、開発した手法の概要と精度評価結果を報告する。

発表者
防災技術研究部 気象防災研究室 主任研究員(上級) 荒木 啓司

14:10~14:35
老朽化のり面工を対象とした簡易背面地盤調査法および補修補強工法

 近年、鉄道沿線斜面ののり面工の老朽化が問題となっている。特にのり面工背面地盤が風化している場合、将来的に崩壊に至る可能性があり、背面地盤状態を簡易に評価する手法が求められていた。本発表では、のり面工背面の土砂化の程度を簡易に調査できる手法として考案した「自由打撃簡易貫入試験」について説明する。さらにハンマドリルの掘削エネルギーに着目した新たな岩の劣化度評価方法、および老朽化吹付工の対策工として開発した吹付受圧版工法の概要について報告する。

発表者
防災技術研究部 地盤防災研究室 主任研究員 髙柳 剛

14:35~15:00
鉄道沿線斜面上の岩石における割れ目進展に対する気象条件の影響の評価

 岩盤斜面の安定性や落石の発生リスクに関する評価のためには、岩石中の割れ目の進展を考慮することが重要である。割れ目の進展には、繰り返し載荷による疲労の寄与が知られているが、鉄道沿線の野外に存在する岩石で実際にどのような割れ目進展作用が発生しているかは明らかになっていない。そこで、気象条件の変化による繰り返し作用に着目して、温度と湿度の変化に対する応力の応答に関するモデルを作成し、実際に温度条件と乾湿条件を変化させた場合の岩石供試体での測定結果との整合性を確認したので報告する。

発表者
防災技術研究部 地質研究室 研究員 久河 竜也

15:00~15:30
休憩

15:30~15:45
地震に対する安全性向上に向けた取組み

 東北地方太平洋沖地震や2021年、2022年と連続して発生した福島県沖の地震など、兵庫県南部地震以降、日本においては地震が多発し、鉄道においても被害が生じている。いつ、どこで起こるかわからない地震に対して鉄道の安全・安心を保つためには、地震に向けた持続的な対応が求められる。
ここでは鉄道総研が取り組んでいる持続的な地震への対応について概説するとともに、地震に対する備えとしての研究成果の活用法について報告する。

<参考文献>
 RRR Vol.76 No.3「地震情報とシミュレーションで被害を即座に予測する」
 RRR Vol.80 No.5「鉄道における地震との闘い ~いくつもの大地震を経験して~」

発表者
鉄道地震工学研究センター長 小島 謙一

15:45~16:10
PLUM法による震度予測情報を活用した地震時列車運転制御

 現在、多くの鉄道事業者において気象庁の緊急地震速報を活用した早期地震警報システムが運用されている。緊急地震速報は地震時列車運転制御に対して優れた情報である一方、巨大地震時には震源域の広がりを適切に反映できず震度を過小予測する場合がある等の課題を有する。この技術的課題の改善として気象庁が新たに開発し2018年から配信している「PLUM法」による震度予測情報を、鉄道の地震時列車運転制御へ適用するための手法とその導入効果の検討、ならびに実用化事例について報告する。

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震解析研究室 研究員 森脇 美沙

16:10~16:35
長大橋りょうの地震後即時被害推定手法の開発

 地震発生後の構造物被害の即時的な推定によって、点検の効率化や早期運転再開の実現が期待される。一般的な鉄道橋りょう・高架橋については、構造物の地震被害推定ノモグラムを用いることで、即時の被害推定が可能である。一方で、長大橋りょうのような複雑な構造物については、前述のような手法が存在しないことから、このような構造物を対象とした地震後の即時被害推定手法を開発した。開発手法により、支承や部材などの箇所毎の応答の大小を適切に表現した地震被害推定が可能となったので報告する。

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室長 坂井 公俊

16:35~17:00
位相最適化手法に基づく地震時性能に優れた構造物形状の探索手法

 鉄道構造物には安全性や経済性などの性能が要求されるが、現在の構造形式は設計者の経験に基づいて各種性能の観点で適切だと考えられるものが選択されている。そのため、設計者の主観による前提条件下での局所最適となっている可能性も考えられる。そこで、前提条件を可能な限り排除して、地震時性能に優れた構造物形状を探索する手法を開発した。開発手法を用いた構造物形状の探索を試算した結果、地震時性能の向上と建設コストの削減を両立した新たな鉄道構造物の実現可能性を確認したので報告する。

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室 研究員 月岡 桂吾

17:00~17:25
地震時における盛土の滑り破壊前の損傷を考慮した性能照査手法

 鉄道盛土の耐震設計では、円弧滑り破壊を前提としたニューマーク法により算出した滑動変位量を用いて地震時の性能照査を行っている。この方法は、実際の被害を再現出来ない場合があることや、滑り破壊に至るまでの損傷状態の評価が困難で滑り破壊に対する安全性を評価できないことなどの問題がある。そこで、遠心模型実験により滑り破壊に至るまでの盛土の損傷過程を明らかにするとともに、この過程を再現可能な有限要素法を用いた地震時性能照査手法を提案したので報告する。

<参考文献>
 RRR Vol.79 No.2「弱点箇所を見極めた設計により盛土の地震時安全性を高める」
 鉄道総研報告 Vol.35 No.5「損傷過程を追跡可能な盛土の耐震性能評価手法」
 QR Vol.63 No.1 "Seismic Design of Embankments in Consideration of Damage Process during Earthquakes"

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室 研究員 伊吹 竜一

※本発表会の資料の著作権は鉄道総研に帰属します。
 不許複製 ©2023 Railway Technical Research Institute