第369回 鉄道総研月例発表会
日時 | 2024年07月18日(木) 13:30~16:35 |
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場所 | 日本工業倶楽部会館2階 大会堂 |
主題 | 人間科学に関する最近の研究開発 |
プログラムと発表内容
関係研究部 人間科学研究部
鉄道総研人間科学研究部分野では、鉄道システムに関わる人間に着目し、安全性、利便性、快適性の向上を目指したヒューマンファクターに関する研究を行っている。ここでは、最近の取り組み全体を概観しながら、鉄道従事員のヒューマンエラー防止をはじめ、鉄道利用者の安全・安心、衛生環境向上などに関する取り組みなどの代表的な成果について報告する。
<参考文献>
・水上直樹:鉄道における最近の人間科学研究,鉄道総研報告,Vol.36,No.1,pp.1-4,2022
・水上直樹:鉄道総研の研究開発最前線 人間科学研究部,RRR,Vol.81,No.1,pp.2-6,2024
・小美濃幸司:鉄道における最近の人間科学研究,鉄道総研報告,Vol.35,No.2,pp.1-4,2021
- 発表者
- 人間科学研究部長 水上 直樹
人口減少による働き手の減少の影響により、運転士不足の問題が顕在化しつつある。解決策の1つとしてシニア運転士の活用が注目されている。活用に際しては、加齢による体力や認知機能の低下を補完する対策が求められる。本研究では対策検討の基礎データとして、加齢の認知機能変化により影響を受ける運転士の作業を明らかにすることを目的とした。運転士を対象としたアンケート調査やエキスパート評価により、加齢の影響を受ける運転士の作業とその負担感の増加に影響する認知機能を明らかにしたので報告する。
<参考文献>
・中村竜,佐藤文紀,増田貴之,北村康宏,藤道宗人,斎藤綾乃:加齢による運転⼠の作業の負担感の増加と関連する機能,鉄道総研報告,Vol.38,No.6,pp.37-43,2024
- 発表者
- 人間科学研究部 安全心理研究室 主任研究員 中村 竜
適切なフィードバックがパフォーマンスを向上させることが知られており、安全教育分野でも、課題成績を対象者に伝えることで自らを省みる契機とする体験型教育が行われている。しかし、体験前には思っていなかったにもかかわらず「前からそう思っていた」と考える後知恵バイアスが強い場合、そのフィードバックによる教育効果は低減する可能性がある。そこで、本研究では、リスク認知を対象に、あらかじめ自分の後知恵バイアス傾向を把握するための評価手法を開発し、生理学的な妥当性を検証したので報告する。
- 発表者
- 人間科学研究部 安全心理研究室 主任研究員 北村 康宏
第5世代の移動体無線通信技術など、超高周波数帯の電波を用いる新技術の社会実装が進み、鉄道においてもそれらの活用が進められている。この超高周波数帯電波の人体防護体系は熱作用からの防護が主となっている。一方、それ以外の生体影響の評価については十分な知見が蓄積されているとはいえない。そこで、超高周波帯電波の性質を踏まえた生体影響評価を行うため、人の皮膚構造を再構築した3次元皮膚組織モデルを用いて行った超高周波帯電波の影響評価について報告する。
- 発表者
- 人間科学研究部 快適性工学研究室 主任研究員 吉江 幸子
駅トイレにおける不快臭を低減することは、快適なトイレ空間を実現するうえで重要である。そこで、不快臭の代表的な原因物質の一つであるアンモニア(NH3)の発生源を探索するための可搬型の測定機(高感度アンモニア測定機)を開発した。当該測定機は、従来のNH3検知管に比べて約20倍感度の高いNH3センサ素子を搭載し、NH3検知管では不可能であった連続測定を可能とする。本発表では、高感度アンモニア測定器機を用いた駅トイレの臭気低減対策の効果検証を行ったので報告する。
<参考文献>
・川﨑たまみ,京谷隆,潮木知良,吉江幸子:清掃方式の違いによる駅トイレ床面の細菌の定量・定性評価,鉄道総研報告,Vol.35,No.2,pp.35-40,2021
- 発表者
- 人間科学研究部 快適性工学研究室 主任研究員 京谷 隆
視線配分データを活用した教育を充実させるために、運転操作中の視線配分について検討した。視線配分データの分析から、推奨参考となる指導操縦者は基本動作で確認することが定められている信号や標識だけでなく、運転士の裁量で確認することになっている駅ホーム等にも頻繁に視線を向けていることが分かった。そこで、視線配分データをシミュレータ訓練で活用するために、訓練運転士の視線配分と推奨参考データを可視化し比較できる訓練システムを提案したので報告する。
- 発表者
- 人間科学研究部 人間工学研究室 主任研究員 鈴木 大輔
鉄道運転士の勤務は深夜早朝帯を含む不規則不定形の交替制勤務であり、生体リズムに起因すると思われる眠気の訴えも確認されている。現在、自動車分野を中心として、ドライバーの眠気を顔画像から検知し、警報を発出するシステムが実用化されているが、脇見運転を警報の対象とするなど、鉄道の運転業務にそのまま採用できるものではない。そこで、AIモデルによる鉄道運転士の動作範囲や挙動を考慮した眠気推定手法を開発するとともに、覚醒レベル低下を検知した際に覚醒に効果的な警報音を開発したので報告する。
<参考文献>
・澤貢,山内香奈,鈴木綾子,村越暁子,鈴木大輔:貨物列車運転士の眠気の発生要因,鉄道総研報告,Vol.26,No.1,pp.5-10,2012
- 発表者
- 人間科学研究部 人間工学研究室 主任研究員 鈴木 綾子
※本発表会の資料の著作権は鉄道総研に帰属します。
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