電力ニュース

2018年8月号

電車線柱振動による電車線設備への影響検討

 列車通過による高架橋などの土木構造物の振動により、一部の電車線柱では線路平行方向に大きな振動が発生し、電車線柱が支持する線条類の断線や架線金具の摩滅等の被害が発生しています。そこで、列車通過時の電車線柱の振動が線条類や架線金具へ与える影響を調査するとともに、装柱を模擬した支持物の振動試験も実施したので報告します。

 列車通過時に線路平行方向に大きく振動している高架橋上の電車線柱について、振動変位を測定した結果、線路平行方向の変位は全振幅で約20~47mm(約2.8Hz)でした。この測定結果を基に、装柱を模擬した電車線支持物の振動試験を行い、線条類に発生するひずみと、部材連結部の摩滅量の測定を行いました。試験は、線条類(き電線、保護線、架空地線)を60m径間の引留柱に架設し、振動試験台に設置した供試架線金具で径間中央付近の線条を支持し、供試架線金具は治具を介して加振機に接続されており、治具を加振することで支持物の振動を模擬しました。試験条件は、ひずみ測定では加振振動数2.4~3.2Hz、加振振幅20~60mmとし、摩滅量の計測では加振振動数2.8Hz、加振振幅20mmと40mmとしました。

 図1に加振振動数毎の加振振幅と観測された線条類のひずみの最大値を示します。ひずみの最大値は、加振振幅とともに大きくなる傾向にありました。観測されたひずみの大きさは、108回の振動(1時間当たりの列車走行本数を6列車、営業時間を15時間とした場合、15年程度に相当)を想定した疲労限度に対して最大でも15%程度であり、十分な余裕があることがわかりました。図2に、試験前、加振回数25万回、50万回、70万回後のき電線取付金具の摩滅量を示します。振幅40mmの70万回の振動での摩滅量は0.28mm、振幅20mmの70万回の振動での摩滅量は0.04mmでした。振幅40mmは20mmと比べ、振動回数が増加するとともに摩滅量の増加が大きいことがわかりました。したがって、振幅20mmを超える箇所では、振動低減対策が必要な場合があると考えられます。

(記事: 電車線構造 以倉 慶子)

画像・IT研究室のご紹介

 鉄道総研では、平成29年12月1日、信号・情報技術研究部に「画像・IT研究室」を新たに設置しました。これまでそれぞれの分野で蓄積してきた画像処理技術とITの活用に関する知見を結集し、強力かつスピーディーに研究開発を進めるため、鉄道総研の様々な研究分野の研究者を、兼務として画像・IT研究室のメンバーとする体制となり、電力技術研究部からも集電管理研究室1名、電車線構造研究室1名の計2名が画像・IT研究室兼務となっています。ほかにも、車両構造、車両制御、構造物、軌道、人間科学の各分野からメンバーが集まり、本務者2名、兼務者12名となっています。

 画像・IT研究室では、「鉄道に活用するための画像解析技術およびITの高度化」に取り組むとともに、「施設の状態監視や列車運行時の乗務員支援等への画像解析技術の適用」や、「保守の効率化や列車の運行制御等へのITの適用」に関する研究開発を実施します。「鉄道に活用するための画像解析技術およびITの高度化」ではCCTVカメラのインテリジェント化や運転支援のための信号機の認識、顔画像解析による運転士の眠け度推定、「施設の状態監視や列車運行時の乗務員支援等への画像解析技術の適用」ではAIを適用したトンネル覆工面のひび割れ検出、「保守の効率化や列車の運行制御等へのITの適用」では鉄道におけるビッグデータの収集・蓄積・分析やAIを適用した列車前方障害物検知などの課題に取り組んでいきます。

 集電管理研究室では、従来から画像処理による電車線非接触測定技術の研究開発を進めてきました。すでに実現しているトロリ線やちょう架線などの線条の位置測定だけでなく、ハンガやコネクタ、ダブルイヤー、わたり線装置といった各種電車線金具の検出およびそれらの異常検知の高精度な実現には、画像解析技術のさらなる深度化やAIの適用の検討が必要です。今後は分野間の垣根を越え、各分野のメンバーが集まる画像・IT研究室と連携して電車線非接触測定技術の研究開発を進めていきますので、集電管理研究室ともども画像・IT研究室をよろしくお願いいたします。

(記事: 集電管理 画像・IT兼務 松村 周)

BTき電回路地絡時のレール電位上昇

 BTき電回路は、通信誘導障害を抑制する交流き電回路方式の一つです。レール電流を吸上変圧器(以下、BT)と吸上線によって負き電線(NF)へ吸い上げることによって、レールから大地に漏洩する電流を低減し、直接き電方式と比較して通信誘導障害を大幅に抑制することができるという特徴があります。

 BTき電回路に地絡故障(以下、地絡)が発生した際に、信号機器等が損傷する事象が報告されています。地絡時は、地絡点付近から大地に流出した故障電流が大地やレールを介して吸上線に至り、NFへと吸い上がります。その際に吸上線の周辺で大きなレール電位が発生し、場合によってはその付近に設備された信号機器が損傷します(図1)。地絡に起因した信号機器の損傷防止のための適切な対策を講じるためには、レール電位の定量的な把握が重要となります。しかしながら、レール電位は特にレール対地漏れ抵抗の大きさに左右され、その値は軌道構造、線路配線といった設備形態、地質や天候といった環境条件によって大きく異なることから、シミュレーションを行う際にはその点を十分考慮する必要があります(図2)。

 そこで、適切なシミュレーションモデルの構築を目的として、実路線において地絡時のBTき電回路を模擬的に構成し、低圧人工地絡試験によって沿線に発生するレール電位の測定を行いました。この試験結果をもとに、実路線の区間ごとにレール漏れ抵抗を詳細に同定した計算モデルを作成しました。この計算モデルを使用して各種パラメータを変化させた時のレール電位の変化を計算したところ、各種試験条件において地絡故障時のレール電位を実測値に対して誤差20%程度で再現可能であることがわかりました。さらに、レール漏れ抵抗が大きく変化する雨天時と晴天(乾燥)時を想定して、レール漏れ抵抗の分布を実測値 ρ01/3倍(ρ0/3:雨天時相当)および3倍(3ρ0:晴天時相当)とした場合のシミュレーションを行った結果、レール電位が大幅に変化することを確認しました(図3)。これは地絡点が同じであっても、レール漏れ抵抗が大きくなる条件下ではレール電位上昇が大きく、信号機器に代表される低圧設備が絶縁破壊に至る可能性が高まることを示唆しています。

 この計算モデルを活用することによって、様々なき電回路条件を想定した場合のレール電位の分布を精度よく計算することが可能となりました。今後は、信号機器に代表される沿線の低圧設備の地絡事故に対する適切な保護対策の評価にも活用する予定です。

(記事: き電 平川 慎太郎)

パンタグラフの頂点カバーへの多孔質材適用による空力音低減

 新幹線のさらなる高速化を実現するうえで、パンタグラフの舟体・舟支え部から放射される空力音を低減することは重要な課題となっています。電力ニュース101号(平成28年8月)では舟体・舟支え部の形状改良による空力音低減手法について紹介しました。本項では、形状改良以外の手法として取り組んでいる多孔質材の適用に関する研究結果について紹介します。

 多孔質材とは、図1(a)に示すような連続気孔を有する部材です。過去の研究では、多孔質材をパンタグラフのカバー類の表面に取り付けることで流れ場が変化し、空力音が低減することを風洞試験で確認しています。また、金属製多孔質材を用い、取り付け強度等の検討を行ったうえで現車に搭載し、空力音の評価を実施しています。今後の実用化に向けては、多孔質材の更なる取り付け強度の向上および効果的な適用領域の選定が重要であり、本研究では、取り付け方法を改良し、かつ、取り付け領域を必要最小限の領域に限定した場合の空力音低減効果について確認を行いました。取り付け方法については、図1(b)に示すような、カバー表面に多孔質材を貼り付ける従来の方法ではなく、図1(c)に示す多孔質材をカバー表面に埋め込んで適用する方法を検討しました。この取り付け方法によって端部からの多孔質材の剥がれを防止し、取り付け強度を向上できると考えています。

 図2は、大型低騒音風洞において、実機パンタグラフの頂点カバーに対して樹脂製多孔質材を適用した場合の空力音低減効果を確認した結果を示しています。なお、風洞試験では、舟体として鉄道総研で提案している平滑化舟体の模型を搭載した条件下で試験を実施しています。図2より、多孔質材を頂点カバーの陵角部に限定して埋め込み適用した場合(図2中央)と、多孔質材を全周にわたって適用した場合(図2右)とで、ほぼ同程度の空力音低減効果が得られていることがわかります。この結果から、空力音低減効果を維持したまま、多孔質材の埋め込み適用によって取り付け強度を向上し、かつ、適用領域を縮小できる見込みがあることがわかりました。今後は、本適用方法による取り付け強度の評価など、現車への適用に向けた検討を進める予定です。

(記事: 集電力学 光用 剛)