施設研究ニュース

2019年10月号

スラグを用いたのり面工の開発

1.はじめに

 近年,産業副産物の有効活用や建設工事のコスト縮減の目的から,様々な材料が地盤構造物の構築に活用されるようになってきております.鉄鋼スラグは鉄鋼の生産工程において生成される副産物であり,省資源・省エネルギーの観点から注目を集めており,地盤材料としての利用検討が進められています.
 鉄道盛土や自然斜面ののり面においては,降雨時の浸透や侵食防止の観点からのり面工が施工されることが多くありますが,スラグ材料には水との反応で硬化するため防草対策しての活用に加えて,十分な遮水性能が確認されるのであれば,降雨浸透を抑制するのり面工としての活用が期待されます.
 本稿では,スラグを遮水性能を有するのり面工として適用することを目的として,室内透水試験,降雨散水実験,および試験施工・長期計測を行った事例を紹介します.

2.スラグの透水性の把握

 本研究では,以降で述べる各種実験や試験施工において,製鋼スラグと高炉水砕スラグを重量比で8:2の比率で配合したスラグ材料1)を用いることとしました.エージング処理がなされ膨張性が抑制されています.物理試験や含水比(w)・締固め密度比(Dc)を変えた力学試験を実施しており,その結果を表1・2に示します.
このスラグ材料を用いて,室内透水試験を行いました.供試体の作製後の養生日数は28日としています.試験により得られた透水係数を図1に示します.本図は,横軸が含水比,縦軸が締固め密度比となっており,供試体作製条件が透水係数の大きさに及ぼす影響を表しています.含水比および締固め密度比が大きいほど小さな透水係数が得られることがわかります.特に,最適含水比に近い11%程度で十分な締固めを行うことで,材料の細粒分含油率が極めて小さいにも関わらず,10-8m/sオーダーの小さな値が得られることを確認しました.

3.スラグを使ったのり面工の降雨散水実験

 盛土等ののり面にスラグをのり面工として適用した場合の遮水性能を把握するために,降雨散水実験を実施しました.構築した模型の概要を図2に示します.地盤(のり面)には珪砂6号を用いており,Dc=95%で構築を行いました.スラグ材料よりも粒径が粗く,大きな透水係数を示します.この地盤上に厚さ15cmのスラグを打設しました.スラグの含水比および締固め密度比については,上述の室内透水試験の結果を踏まえ,含水比を11%,締固め密度比をDc=90,95および99%の3つに変えて構築しました.与えた降雨強度は20・50・90mm/hの3つとし,定常状態となるまで降雨散水を行いました.本降雨実験で使用した土槽は底面に100mm間隔で仕切り板が設けられており,地盤内に浸透した水を集水できる構造となっております.
 20mm/hの降雨散水で得られた遮水率の経時変化を図3に示します.Dc=90%のケースでは,のり面工がない場合と同様に降雨のほぼ全てが浸透しますが,Dc=95%では約半分の降雨を,また,Dc=99%ではほぼ全ての降雨を遮水することができています.

4.スラグのり面工を使った降雨散水実験

 実際に盛土等ののり面ののり面工としてスラグが施工可能であること,また実際に遮水性能が得られることを確認する目的で,盛土ののり面にスラグを用いたのり面工の試験施工を行いました.施工を行ったのり面の状況を図4に示します.試験施工は冬季(2月)と春季(4月)の2期に分けて実施し,養生時の外気温がのり面工の仕上がりに及ぼす影響を把握することといたしました.スラグ材料は,あらかじめ最適含水比付近になるように加水を行い,バケットでのり面に撒き出しを行います.その後,斜面上においてプレートもしくはバケットを使って転圧を行いました.いずれの方法を用いても平滑にのり面工を構築できることを確認いたしました.また,冬季施工のものに比べ春季施工のものの方が綺麗な仕上がりとなり,スラグの施工時の外気温によって仕上がり状態が変わることを確認いたしました.
 また,構築後ののり面工の遮水性能を把握するために,盛土内部に土壌水分計を設置し,飽和度変化の計測を半年に渡り行いましたが,降雨散水実験と同様に,スラグのり面工によって盛土内部の飽和度上昇を抑制できていることを確認いたしました.
 なお,構築したのり面工のブロックサンプリングを行い,締固め密度比を測定したところDc=88~94%程度であることがわかりました.

5.おわりに

 一連の実験および試験施工から,水との反応で硬化するスラグを用いることで遮水性能が得られ,降雨浸透を抑制できるのり面工としての適用が可能であることがわかりました.今後は実際の施工を行えるようマニュアルを整備する予定です.適用をご検討の場合はご相談ください.なお,本研究は日本製鉄(株)との共同研究により実施いたしました.

参考文献

1) 柏原司, 澄川圭治, 原良治, 金子敏行, 和田信一郎, 森下智貴, 佐野博昭, 新井清人, 菅原敬介, 高野良広: 環境調和型簡易舗装材カタマSP の開発,新日鉄住金技報第399 号, pp.26-35, 2014.

執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 松丸貴樹
担当者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 中島進

コンクリート片等の剥落対策に係る手引き

1.はじめに

 橋りょう,トンネル等は,基準や法令等に基づき定期的に検査を実施することにより,列車の安全な運行が確保されています.一方で,鉄道構造物には経年を経た構造物も多く,コンクリート片の剥落事故も発生している現状があります.本稿では,最近のコンクリート片等の剥落事例について紹介するとともに,剥落事象の防止のために国土交通省鉄道局から鉄道事業者に対して発出された「コンクリート片等の剥落対策に係る手引き」の概要について紹介します.

2.最近のコンクリート片等の剥落事例

 図1に,近年報告された橋りょう・高架橋における剥落の発生部位を示します.コンクリート・モルタル片の剥落は,片持ちスラブ,高欄,端横桁,主桁,桁受け梁などで発生しています.また,図にはありませんが,凍結融解が発生する寒冷地域で多く発生し,水切り不良箇所,防水工や目地材の劣化による滞水の影響等から剥落が発生していることもわかっています.
 図2に,同様にトンネルにおける剥落事例数を示します.補修材,トンネル本体(覆工・躯体等),添架物の剥落が発生しています.トンネルは1999年にトンネル本体の剥落事故が相次いで発生したことから検査の体系が見直され,最近は規模の大きなトンネル本体の剥落は起きていませんが,一方で,補修材の剥落が多く発生しています.補修材としては,覆工表面のモルタル,打ち継ぎ部のモルタル,断面修復材に大別され,特に,覆工の補修(漏水防止・表面劣化防止・剥落防止等)を目的とした薄いモルタルを使用した補修材の剥落事例が多くなっています.また,橋りょう・高架橋と同様,漏水がある箇所における剥落は漏水がない箇所に比べて多いこと,寒冷地で凍結融解の影響を受ける場所で剥落が多いこともわかっています.

3.剥落の手引の概要

 以上のような剥落の現状をふまえ,平成27年2月に,国土交通省,鉄道事業者,鉄道総研等からなる「コンクリート片等の剥落対策に係る手引き作成勉強会」が設置され,検査担当職員の参考となるよう,橋りょう,トンネル等における剥落事象に特化した手引きが策定され,平成29年11月に各鉄道事業者への事務連絡として発出されました.図3に手引の目次を示します.目次は,高架橋とトンネルとで概ね共通になっています.
 第2章 検査の留意点では,剥落事例の紹介,剥落が生じやすい条件/箇所,調査の留意点,健全度の判定の留意点を示しました.高架橋については,鉄筋腐食により剥落が生じやすい箇所として,かぶり不足,水切り不良(図4),雨掛かり等を挙げています.また,建設年代から剥落しやすい条件として,設計かぶり,塩分総量,アルカリ総量に関する基準の変遷を示し,それぞれ,写真と表で整理しています.トンネルについては,山岳トンネル,開削トンネル,シールドトンネル別に,剥落が発生しやすく留意が必要な場所を図で整理しました.山岳トンネルの例を図5に,開削トンネルの例を図6に示します.剥落事例で多く見られた,補修箇所,劣化箇所周辺,漏水箇所に加え,以前から要注意箇所として認識されている,打ち継ぎ目周り,要注意のひび割れ(覆工面に対して鋭角なひび割れ,閉合ひび割れ等),かぶりコンクリート不足箇所等を図示しています.

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室  野城一栄
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 渡辺 健

PCまくらぎの打音調査による損傷検知手法

1.はじめに

 PCまくらぎは1950年代から我が国の鉄道で導入され,膨大なストックを形成しています.導入から50年を超え,劣化やひび割れなどの損傷も顕在化しつつあり,状態に応じて適切かつ効率的な管理を行う必要があります.ただし,PCまくらぎのひび割れは,車軸通過時に曲げモーメントが極大となるレール部断面の下部で生じる傾向にありますが,バラスト軌道ではこれを目視で確認できません(図1).このような目視で確認できないひび割れを有したPCまくらぎを検知するために,本研究では打音によるPCまくらぎの損傷検知手法について検討しました.

2.振動による損傷検知手法の検討

 PCまくらぎなどの構造部材の固有振動数はその硬さと重さから決まります.重さに変化がないとすれば,ひび割れなどの損傷により変化する硬さを固有振動数の変化から検知できる可能性があります.本研究はさらに打音から固有振動数を推定することで,PCまくらぎにセンサを設置せずに損傷検知を行う手法を開発しています.
 図2にPCまくらぎの衝撃加振試験と得られた加速度のフーリエスペクトルを示します.スペクトルからPCまくらぎの振動モードに対応するいくつかのピークが確認できます.振動数が低い方から1次,2次および3次曲げモードであり,これらの振動モードに損傷が及ぼす影響を,実路線から回収した損傷PCまくらぎの衝撃加振試験により調査を実施しました.

 図3は実路線から回収した損傷PCまくらぎの1次から3次モードの固有振動数を示します.固有振動数は衝撃加振時の加速度応答から同定しました.JIS3号PCまくらぎを対象に,健全なもののほかに片側・両側レール部にひび割れを有するものなどを調査しました.固有振動数100~150Hzの1次モードと約400Hzの2次モードは,損傷レベルと固有振動数の低下が明確でない場合があります.一方,損傷を有するPCまくらぎの3次モードの固有振動数は,健全なものよりも低く,損傷の程度に応じて固有振動数の低下量が大きくなります.なお,バラストおよび軌道パッドなど他部材の影響は主に1次モードと2次モードで大きく,3次モードでは小さいことがわかっています.したがって,3次モードの固有振動数は損傷に対して感度が高く,他軌道部材の影響が小さい,損傷検知に適した指標であることがわかります.

3.打音による損傷検知手法の検討

 PCまくらぎの数は膨大であり,測定作業の効率化が重要です.そこで,センサ設置が不要な打音による損傷PCまくらぎの検知手法を検討しました.PCまくらぎを叩いた際に発生する3次モードの振動を伝播した打音から推定します.
 図4に打音の適用性を検討した試験結果の一例を示します.加速度計と騒音計で同時に測定した加速度と打音のスペクトルおよび3次モードに対応したピーク振動数は良好に一致します.したがって,マイクによる打音測定により設置の手間なく3次モードの固有振動数を推定できます.また,この知見をもとに製作した試作機および使用状況を図5に示します.長尺のハンマーとズボンの裾に取り付け可能なマイクを用いることで,立ったまま効率的に作業を進めることが可能です.
 実環境における提案手法の有効性を検証するため,在来線PCまくらぎを対象に,打音試験と損傷PCまくらぎ検知を行いました.測定した打音から推定したPCまくらぎの3次モードの固有振動数を図6に示しますが,まくらぎ番号11の固有振動数が他のまくらぎよりも低いことが確認できます.このまくらぎ番号11周辺のバラストをかき出しひび割れ状況の確認を行った結果,まくらぎの拡大写真に示すように,レール下断面下部に微細なひび割れが生じていました.以上より,提案手法により少なくとも損傷PCまくらぎを実路線でも検知できることが確認できます.

4.まとめ

 本稿では,目視では確認できない損傷PCまくらぎを打音で検知する手法について検討しました.まず,実損傷を有するPCまくらぎの振動試験によりPCまくらぎの3次モードの固有振動数が損傷検知に適した指標であることを示し,この固有振動数が騒音計により打音としても測定できることを明らかにしました.そのうえで実路線での打音試験を行い,調査結果の相対比較でひび割れを有したPCまくらぎが検知できることを確認しました.今後は,JIS3号まくらぎ以外の品種への対応,気温や天候など環境条件の影響評価を行い,適用範囲拡大と精度向上を進める予定です.

執筆者:鉄道力学技術研究部 構造力学研究室 松岡弘大
担当者:鉄道力学技術研究部 構造力学研究室 渡辺勉,箕浦慎太郎

発行者:楠田 将之 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:木下 果穂 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 トンネル】