施設研究ニュース

2021年3月号

既存鉄道コンクリート高架橋柱の耐震補強設計指針の改訂と設計プログラムの更新のお知らせ

1.はじめに

 鉄道RCラーメン高架橋柱に対する耐震補強工法として,施工の省力化を図り狭隘部での作業を可能とした「プレキャストパネルと高強度繊維補強モルタルによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法1)(以下,繊維補強モルタル巻立て工法)」を,鉄道総研と東急建設(株),(株)ホクコンで共同開発しました.耐震補強設計法や施工法を整備し,「既存鉄道コンクリート高架橋柱の耐震補強設計指針」(以下,補強指針)に反映,改訂しました.また,補強指針改訂に対応して,耐震補強された鉄筋コンクリート柱の性能照査支援プログラム「VePP-Retrofit」と,静的非線形解析プログラム「JRSNAP」の更新を行いましたのでお知らせします.

2.補強指針の改訂内容

 今回の改訂では,これまで補強指針としてまとめられていた8工法に,新たに繊維補強モルタル巻立て工法を追加し,耐震補強設計法や施工法をまとめました(図1).繊維補強モルタル巻立て工法は,耐震補強のプレキャスト化を目的に,プレキャストパネルを埋設型枠として接続鋼材とともに既設柱の周囲に配置し,既設柱との隙間に高強度繊維モルタルを充填して一体化させる巻立て工法です(図2).本工法は,補強の目的をせん断補強,じん性補強としており,せん断補強の場合,既設柱の全長に接続鋼材(type-S)を設置し,じん性補強の場合,既設柱の塑性ヒンジ区間に接続鋼材(type-D),それ以外の区間は接続鋼材(type-S)を設置する仕様としています.安全性や復旧性の照査に用いる設計せん断耐力や変形性能は,実験結果2),3)に基づき,鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)4)に準じた算定式を提案しました.これらは,接続鋼材と繊維補強モルタルの諸元に応じて算定できる方法です.また,本工法特有の接続鋼材や接続ボルト等の仕様や構造細目を取りまとめるとともに,設計において想定した耐震補強効果を確実に得るため,施工に関する留意事項を付属資料に記載しました.

3.設計プログラムの更新

 補強指針の改訂に対応して,VePP-RetrofitおよびJRSNAPの更新を行いました.これらは,地震時における安全性と復旧性の照査に対応しています.VePP-Retrofitでは,繊維補強モルタル巻立て工法により補強した柱の設計せん断耐力や変形性能の算定,接続鋼材に関する照査の前提についての確認ができます(図3,4).また,JRSNAPでは,VePP-Retrofitを内蔵し,地震応答解析と照査が可能となっています(図5).

4.おわりに

 本指針の改訂版を2020年12月に発刊しました.また,本指針の改訂に対応したVePP-RetrofitとJRSNAPのバージョンアップ版を2021年2月にリリースしました.補強指針は研友社,設計プログラムはジェイアール総研エンジニアリングから販売しています.
 本指針および設計プログラムが鉄道構造物の耐震補強の一助となれば幸いです.

参考文献

  • 1) 鉄道総合技術研究所:プレキャストパネルと 高強度繊維補強モルタルによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法,施設研究ニュース,No.323,2017.7
  • 2) 笠倉亮太,黒岩俊之,田所敏弥,宇治公隆:高強度繊維補強モルタルにて巻立て補強したRC部材のせん断耐力に関する実験的検討,コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,vol.18,pp.203-208,2018
  • 3) 笠倉亮太,黒岩俊之,田所敏弥,宇治公隆:補強鋼材と高強度繊維補強モルタルにより巻立て補強したRC部材の変形性能に関する実験的検討,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),Vol.76,No.3,pp.229-238,2020
  • 4) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善,2004

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 石橋奈都実
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中田裕喜

車両の特性を考慮した周期的水準変位の管理法

1.はじめに

 鉄道事業者は,列車が安全に走行できる状態を保持するために,車両や軌道の状態を定期的に検査しています.しかし,これらの検査結果は全て管理値以内であるにも関わらず,車両の振動特性に影響する軌道変位により,輪重や横圧が大きく変動して走行安全性が低下することがあります.例えば,1963年に発生した鶴見事故に代表される貨車の競合脱線は,水準変位と通り変位が同じ波長で逆位相に繰り返し存在する区間で,車体がローリング共振を起こし,走行安全性が低下して発生することが明らかになっています.そこで,貨車の最高速度が45km/hよりも速い線区では,競合脱線を防止するために,図1に示す複合変位(複合変位=|通り変位-1.5×水準変位|)の整備基準値が設定されて管理が行われています.
 このような車両の振動特性が関係して走行安全性が低下する事例として,近年では,貨車の積載条件等によっては,周期的な水準変位の波長と速度から求まる加振振動数と車体のローリング固有振動数が近くなり,車体がローリング共振して輪重減少率が大きくなって乗り上がり脱線が発生することがあります1).そこで,この脱線の防止を目的に,周期的な水準変位の管理法を検討したので紹介します.

2.車両特性を考慮した軌道変位の検討

 車両特性を考慮した水準変位管理を検討した際のフローを図2に示します.

(1) 軌道変位の特徴の分析

 車両の特性が関係する脱線が発生した区間の軌道検測車のデータを分析して,水準変位の特徴を把握しました.脱線事象発生の2週間前と4ヵ月前に測定された水準のパワースペクトル密度を図3に示します.図のように,事象2週間前の水準は,4ヵ月前に比べて波長12.5m(定尺レールの1/2の長さ)のピークが大きく,事象前にはこの波長の水準変位が多く存在していたことを確認できました.

(2) 車両の振動特性の把握

 車両運動のシミュレーションを用いて,車両の振動特性を把握しました.作成した車両モデルについては,現車を使用した走行試験や加振試験による実測値と,これらの試験における軌道変位を入力としたシミュレーション結果とを比較して,妥当性を検証しました.

(3) 軌道変位と車両の振動特性との関係分析

 妥当性を確認した車両モデルを用いて,周期的な水準変位を入力条件として,車体のローリング振動による輪重減少率と水準変位の周波数と波数の関係をシミュレーションした結果を図4に示します.図のように,検討対象とした車体のローリング振動の共振周波数は1.3Hz程度であることがわかりました.ここで,脱線事象発生時の車両の走行速度は58km/h (=16.1m/s)であったことから,水準変位の波長に換算すると12.5mと求まり,上記(1)で把握した事象発生区間に存在していた水準の波長12.5mと一致しています.よって,類似の事象の発生を防止するには,波長12.5mの周期的な水準変位を管理することや車両の走行速度を変更することが有効であることがわかりました.

3.周期的な水準変位の管理値の検討

(1) 周期的な水準変位の抽出

 軌道検測車による水準の測定値から波長12.5mの周期的な水準変位を抽出する方法の概念を図5に示します.まず,水準の測定値にはカントが含まれるため,これを除去する一方,波長12.5mの帯域を含むようにバンドパスフィルタ処理を行い,水準の変位成分のデータを作成します.
 次に,波長12.5mの周期的な水準変位の抽出フィルタとして,6.25m間隔で「1」と「-1」が交互に存在し,それ以外は「0」の数字で構成したフィルタを作成して,水準の変位成分のデータに対してフィルタ処理を行います.図6に,2波抽出と5波抽出のフィルタを示します.このフィルタ処理は,波数に応じた変位振幅の足し合わせ(以下,「周期的な変位振幅の和」という.)であり,例えば,2波抽出フィルタの場合は,図中の④~⑧までの5点のデータを加算することになります.
 図5においては,周期的な変位振幅の和は,水準の変位成分の振幅が小さくて波長12.5mの周期性がない区間Aでは小さくなりますが,波長12.5mの周期性がある区間Bでは大きくなります.また,区間Bでは,抽出フィルタの波数を2波から5波にすると,周期的な変位振幅の和は大きくなることを確認できます.したがって,本手法は周期的な水準変位の存在区間の把握方法として有効であるといえます.

(2) 管理値の検討

 周期的な水準変位の管理の目的は,車体のローリング振動による輪重減少を抑えることです.そこで,輪重減少率を指標として,水準変位の波数ごとに検討車両の輪重減少率60%(速度向上マニュアルにおける静的輪重減少率の目安値),70%,80%(同動的輪重減少率の目安値)に相当する周期的な変位振幅の和を求めた結果を図7に示します.この結果を基に,各波数に対して周期的な水準変位の管理値を設定し,管理値を超過した区間を整正することで,走行安全性を確保することができます.

4.おわりに

 本稿では,車両の特性を考慮した周期的水準変位の管理法を紹介しました.周期的な水準変位の抽出方法は,軌道保守管理データベースシステム「LABOCS」に実装し,水準変位の波長,波数を指定すると,適切な抽出フィルタの設計・処理をして指定区間の周期的な変位振幅の和を算出します.周期的な水準変位管理を効率的に行うことが可能となりますので,現場でご活用いただけると幸いです.

参考文献

  • 1) 国土交通省鉄道局企画課「貨物列車走行の安全性向上に関する検討について」:https://www.mlit.go.jp/common/001365440.pdf

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 坪川洋友
担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 三和雅史

のり面工が施工された切土のり面における表面波探査の適用性検証

1.はじめに

 のり面工が施工された切土のり面は,のり面工背面の地盤の劣化が風化等の影響により著しく進行すると,のり面に顕著な変状が生じていなくても崩壊する場合があります.こうした切土のり面を維持管理する為には,のり面工背面地盤の劣化状態を正しく把握する必要がありますが,そのための調査方法が確立されていないという課題がありました.そこで本研究では,物理探査の一種である表面波探査ののり面工背面地盤の調査への適用性を検証しました.

2.現地試験内容

 現地試験の対象斜面(図1)は風化花崗岩が分布する切土のり面です.2018年に近傍の斜面が崩壊しており,試験対象箇所ののり面工施工箇所でも風化の進行が懸念されています.のり面工の種別は「モルタル吹付工」で施工から約45年経過しています.のり面高さは28.6m,斜面長さは36.6m,勾配は1:0.8です.吹付工には明瞭な亀裂などの変状は確認されていません.
 本試験では物理探査として表面波探査を実施しました.表面波探査はのり面工の断面の1側線について,1mピッチで受信器をのり面工上に設置し,2m毎にハンマーにより打撃して複数回データを計測し,これらの計測データの表面波を分析することでS波弾性波速度(以下,Vs)の断面分布を推定しました.測定の際はのり面工表面に開けた深さ約10mmの孔に受信器の尖端部を差し込み,受信機を固定しました.表面波探査は,理論上,のり面工上で計測される表面波を利用した場合でも深度方向のVs分布を推定できるとされます.また比較のためにPS検層と,採取したボーリングコアを用いた室内でのP波弾性波速度(以下,Vp)の測定を行いました.PS検層については表面波探査を行った側線付近の天端,中段の2箇所のボーリング孔を用い,ダウンホール法により深度0.5m毎にVpとVsを計測しました.室内における弾性波速度測定では,ボーリングコア(直径66mm)に対して,採取深度100mm毎にコアの側面方向を透過するパルス波の走時差からVsを求めました.

3.調査結果

3.1 Vs(S波弾性波速度)の比較

 図2に表面波探査解析結果を示します.表面波探査の解析結果より,斜面天端部の強風化のまさ土の領域は,Vsが300m/s程度と低速度で表れています.また,距離程15~20mの地表面付近は700m/s程度,距離程25m付近よりのり尻側では400m/s程度の速度を示しています.既往の文献によると,一般的な花崗岩のVsは2,100~3,300m/s3)とされます.本試験箇所では850m/s以下の領域が大半を占めていますので,当該地山は全体的に亀裂や風化等の影響を受けているものと評価されます.
 図3に表面波探査とPS検層から得られたVs分布の比較を示します.図3の表面波探査のVsは,図2の表面波探査解析結果から得られたもので,連続的な速度変化のグラフとして表しています.両者を比較すると,表面波探査はPS検層に比べ深度が浅い領域(深度2m程度)では,Vsが過大評価になっています.

3.2 Vp(P波弾性波速度)の比較

 図4に天端における各物理探査により得られた深度方向のVp分布を示します.天端地表から約1m付近の表層部に着目すると,柱状図の岩種区分(電研式)に示すように,まさ土が1.5m程度堆積しています.当該深度付近では,PS検層にてVp=約300m/sが得られており,既往文献3)からも沖積層の表土に相当するVpの値となっています.一方で,表面波探査結果から解析したVsをVpに換算(参考文献2を参考にVsを1.7倍)した値は,700m/s程度の値となっており,PS検層から得られるVpの約2倍の値となりました.天端の2m以深のVpに着目すると,表面波探査より得られるVp(Vsから換算値)は約800m/s~1,300m/s,PS検層はVp=860m/s~1,510m/sとなり,ほぼ同程度のVpを測定出来ています.採取したボーリングコアに対する弾性波速度試験から得られるVpは,深度2~4mでは上記2手法と同程度のVpを得られていますが,深度4m以深では,2,000m/s~4,000m/s程度の大きな値となりました.ボーリングコアを用いた室内試験の場合,PS検層や表面波探査と比較して,岩盤内の亀裂の影響を受けにくいため相対的に高いVpとなったと考えられます.

4.まとめ

 表面波探査から得られたS波弾性波速度はPS検層の結果と概ね一致し,表面波探査はのり面工背面地盤の弾性波速度の分布を面的に計測するために活用できる可能性があると考えられます.一方で地表から深度1~2m前後の斜面表層部で表面波探査が弾性波速度を過大評価する傾向がありました.今後は,本観測事例の分析をさらに進める予定です.

参考文献

  • 1) 国土交通省国土地理院:地理院地図(電子国土Web),https://maps.gsi.go.jp, 2020
  • 2) 物理探査学会(SEGJ):図解 物理探査 地下を探る先端技術,物理探査学会,pp.212,1989
  • 3) 日本応用地質学会:若き技術者のための地盤の地質工学的評価と分類,古今書院,2016

執筆者:防災技術研究部 地盤防災研究室 藤原将真
担当者:防災技術研究部 地盤防災研究室 高柳剛,布川修

発行者:小林 裕介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:増田 雄輔 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 鋼・複合構造】