施設研究ニュース

2021年10月号

RCラーメン高架橋梁のせん断耐力算定式

1.はじめに

 鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)に示される設計せん断圧縮破壊耐力Vddは単純支持された鉄筋コンクリート(RC)梁の実験結果に基づいており,Vddを用いた照査によると,横梁等において鉄筋が過密になることがあります(図1,図2(a)).一方,RCラーメン高架橋を構成する梁部材はその両端が固定されていますが(図2(b)),この支持条件の違いにより,せん断スパンaと有効高さdの比a/dが小さい場合に,同一の断面諸元であっても損傷状況やせん断耐力が異なることが指摘されていました1).これに対応して,両端固定支持されたRC棒部材の設計せん断耐力算定式を「橋梁および高架橋耐震照査の手引き~静的非線形解析による照査(平成29年3月)」にVyd’として提示しましたが,今回,適用範囲を拡大するとともに,両端固定支持されたRC梁特有の耐荷機構に立脚した算定式を再提案しました.

2.両端固定支持されたRC梁のせん断耐力算定法

 両端固定支持されたRC梁の実験結果に対し,設計せん断圧縮破壊耐力Vddを適用すると,安全側となる傾向にはあるものの,過少に算定されます(図3).両端固定支持されたRC梁のせん断破壊の特徴として,a/d=1.0であってもせん断補強鉄筋は降伏することや,部材の両端を結ぶように圧縮ストラットが形成されること等があげられます1)(図4).そこで,両端固定支持RC梁の設計せん断耐力Vasudは,修正トラス理論を踏襲して,式(1)~(3)で示すこととしました.

 ただし,pw・fwyd/f'cd≦0.1とするのがよい.
 Vsd:せん断補強鋼材により受け持たれる棒部材の設計せん断耐力

ここに,Aw:区間ssにおけるせん断補強鉄筋の総断面積,fwyd:せん断補強鉄筋の設計引張降伏強度で25f'cd(N/mm2)と800(N/mm2)のいずれか小さい値を上限とする,αs:せん断補強鉄筋が部材軸となす角度,ss:せん断補強鉄筋の配置間隔,z:圧縮応力の合力位置から引張鋼材の図心までの距離で一般にd/1.15とする,γb:部材係数で一般に1.1とする.

 focd=17.4 fvcd,fvcd=0.2(f'cd1/3 ≦0.72(N/mm2),βd=(1000/d)1/2≦1.5,βp=(100pc1/3≦1.5,
 βp=-30(pw・fwyd/f'cd2+1.3 ただし,βw<1.0 となる場合は 1.0 とする.
 tanθc=hc/L ただし,L/h<1.5hとなる場合はL=1.5hとする.

 ここに,bw:腹部の幅(mm)、hc:圧縮ストラットの断面方向の幅で0.5hとする,f'cd:コンクリートの設計圧縮強度(N/mm2),d:有効高さ(mm),pc:せん断引張鋼材比(pc=As/(bw・d)),As:引張側鋼材の断面積(mm2),h:断面高さ(mm),L:部材長さ(mm),pw:せん断補強鉄筋比(pw=Aw/(bw・ss)),γb:部材係数で一般に1.3とする.
 Vod:せん断補強鋼材以外が受け持つ棒部材の設計せん断耐力(N)

 せん断補強鉄筋を多量に配置,あるいは高強度のせん断補強鉄筋を用いると,せん断補強鉄筋が降伏する前にコンクリートの圧縮破壊が生じ,RC梁はせん断破壊に至ります.この現象に対応するため,Vsdにはせん断補強鉄筋の量および降伏強度のそれぞれに対して上限値を導入しています.Vodは,両端を結ぶ圧縮ストラットの幅hcや角度θcをモデル化したものです(図4).さらに,せん断力の最大値を表現するために,実験結果から定式化したβwを導入しています.Vasudは実験結果を概ね包含し,Vddと比較して精度よく算定できることがわかります(図5).矩形中実断面,pw≧0.15%,曲げモーメント分布が概ね逆対称であること等が前提となりますが,一般的なラーメン高架橋の横梁などで適用が可能です.なお,提案式Vasudは,標準的な諸元の範囲において,耐震照査の手引きのVyd’と概ね同等の値となることを確認しています.

3.提案するせん断耐力算定法の適用効果

 Vddを用いて設計された地中梁の断面に対し,提案式Vasudを適用した場合のせん断耐力の違いを試算しました(図6).pw>0.3%程度でVasud/Vdd>1.0となっており,例えばpw=1.0%,a/d=1.5ではVasud/Vdd=1.28です.Vddによる照査を適用した場合,必要となるせん断補強鉄筋の量が多く,配置が困難となるため,横梁等のせん断破壊形態を許容せざるを得ない場合がありました.このような場合でも,Vasudによる照査によりVddよりせん断耐力を大きく見込むことで曲げ破壊形態と判定し,曲げ降伏を許容できる可能性があります.このように,Vasudの適用によって,横梁等の鉄筋量の削減が可能になります.

4. おわりに

 提案した設計せん断耐力算定法は,改訂予定の鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造編)に導入される他,設計プログラムや手引き等において整備を進めています.

〈参考文献〉

1)渡辺健,田所敏弥,谷村幸裕,黒川浩嗣:逆対称曲げが作用したディープビームの破壊性状に関するせん断スパン比の影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.29,No.3,pp.691-696,2007.

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中田裕喜
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 渡辺健

マッシブなコンクリートに埋め込まれた鉄筋の定着長算定式

1.はじめに

 土木学会コンクリート標準示方書[設計編]1)(以下,示方書)では,マッシブなコンクリートに埋め込む鉄筋に対し,付着応力-すべり関係2)を用いて定着破壊を照査できますが,煩雑な計算が必要となります.そこで,設計実務での簡易な定着破壊の照査を目的として,フーチング等のマッシブなコンクリートに埋め込む橋脚や柱,杭の軸方向鉄筋を対象とした基本定着長算定式の定式化を行いました3)

2.マッシブなコンクリートに埋め込まれた鉄筋の基本定着長算定式の定式化の検討条件

 鉄筋の定着は,埋め込むコンクリートの状態により,力学的機構や破壊性状が大きく異なります.図1のように,フーチングに埋め込む鉄筋コンクリート橋脚(以下,RC橋脚)の軸方向鉄筋には,地震時等の橋脚の傾きに伴い,フーチングから引き抜かれる力が作用します.フーチング等のマッシブなコンクリートに埋め込まれた鉄筋に引張力が生じると,鉄筋が降伏・破断して破壊に至るか,コンクリートに内部ひび割れが生じて「定着破壊」に至ります.RC橋脚の設計で期待している,軸方向鉄筋の降伏強度を発揮するためには,定着破壊に至らないように,十分な定着を確保する必要があります.

 図2に,付着応力-すべり関係による基本定着長の計算方法を示します.マッシブなコンクリートに埋め込まれた任意の長さの鉄筋に対し,鉄筋先端のすべり量S0を指定すると,付着応力-すべり関係に基づき,鉄筋先端から順にすべり量,付着応力,鉄筋応力を計算することで,載荷端(定着の起点)の鉄筋応力σsdが求まります.既往のRC柱の交番載荷実験結果5)に基づき,十分に定着されているとみなせるS0と載荷端の座屈開始時のσsdを決定し,その時の定着長を基本定着長としました3)

3.マッシブなコンクリートに埋め込まれた鉄筋の基本定着長算定式の定式化

 マッシブなコンクリートに埋め込まれた鉄筋の基本定着長ld01の算定式において,材料強度の影響を考慮するため,材料強度とld01の関係を求めました.コンクリートの圧縮強度18~50N/mm2,鉄筋種別SD290~SD685とし,鉄筋間隔csは十分に大きいものとしました.図3に,ld01と鉄筋とコンクリートの材料強度の比fsyd/f'cd(fsyd:鉄筋の設計降伏強度,f'cd:コンクリートの設計圧縮強度)の関係を示します.csが十分に大きい場合,ld01とfsyd/f'cdは線形関係であり,式(1)で表すこととしました.

 次に,csの影響を考慮するため,材料強度とcsをパラメータとしてld01を求めました.cs=2~20φとし,鉄筋間隔による付着応力の低減1)を考慮しました.図4,図5に,鉄筋間隔による付着応力の低減前後のld01の比k1を示します.k1は,材料強度によらず概ね一定で,φ/csと線形関係であることから,マッシブなコンクリートに埋め込む鉄筋のld01は,式(2)および式(3)で表すことができます.

4.マッシブとみなせないコンクリートの定着長との比較

 鉄道構造物等設計標準・同解説[コンクリート構造物]6)(以下,RC標準)で用いられている鉄筋の基本定着長の算定式は,マッシブなコンクリートとみなせないコンクリートに埋め込む鉄筋を対象としており,式(4)で算定されます.

 なお,ld02:鉄筋の基本定着長,他はRC標準と同じです.図6に,マッシブなコンクリートの場合とマッシブとみなせないコンクリートの場合の基本定着長+付着力の無効区間l’を比較しました.マッシブなコンクリートに埋め込む場合のl’は5φ1)としましたが,マッシブとみなせないコンクリートに埋め込む場合のl’は一般に10φであり,マッシブなコンクリートの基本定着長+付着力の無効区間は,マッシブとみなせないコンクリートより短くなりました.

4.おわりに

 本稿では,フーチングなどのマッシブなコンクリートにおける基本定着長算定式の定式化の方法を示し,マッシブとみなせないコンクリートの基本定着長+付着力の無効区間よりも短くなったことを確認しました.今後,RC標準改訂での反映を予定しております.

〈参考文献〉

1) 土木学会:2017年制定 コンクリート標準示方書(設計編),2018.3
2) 島弘,周礼良,岡村甫:異形鉄筋の鉄筋降伏後における付着特性,土木学会論文集,No.378/V-6,213-220,1987.2
3) 堂内悠吾,田所敏弥,渡邊忠朋:マッシブなコンクリートに埋め込む鉄筋の定着長算定式,令和2年度土木学会全国大会第75回年次学術講演会,V-626,2020.
4) 後藤幸正,大塚浩司:引張異形鉄筋周辺のコンクリートにおける内部ひび割れ,コンクリート工学年次講演会講演論文集,第1巻,pp.277-280,1979.6
5) 渡邉忠朋,谷村幸裕,瀧口将志,佐藤勉:鉄筋コンクリート部材の損傷状況を考慮した変形性能算定手法,土木学会論文集,No.683/V-52,31-45,2001.8
6) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説[コンクリート構造物],平成16年4月

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 大野又稔
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 田所敏弥
             基礎・土構造研究室   佐名川太亮

鉄道沿線樹木等の3D形状測定とそのレール温度予測モデルへの適用

1.はじめに

 レール温度が過度に上昇すると,軌道座屈の危険性が高まります.軌道座屈は脱線に繋がる重要な問題であるため,レール温度を予測して精度良く管理することが望まれています.図1に示すレール温度予測モデル1)では,DSM(Digital Surface Model,周辺地物(地形,建物,樹木等の総称)の高さを含む標高)データを使用した日射量解析を行い,日陰を考慮してレール温度分布を推定することが可能です.都市部では,3D都市モデルの整備とオープンデータ化が進められていますが,山間部では市販のDSMデータの購入が必要です.また,山間部のDSMデータの更新頻度は数年程度であるため,植生の変化に対応できない可能性があります.そこで本稿では,線路周辺の樹木等の3D形状を車上カメラと画像解析技術を用いて簡易に測定し,レール温度予測モデルに適用する手法を提案します.

2.沿線樹木等の3D形状測定

 図2(a)に示すように,鉄道総研の所内試験線にて試験車両を走行させ,車上カメラにより車両の前方と側方(曲線内側)の周辺地物を連続的に撮影し,SfM多視点ステレオ写真測量ソフトウェア3DF Zephyrを用いて撮影した画像から3D形状モデルを作成しました.さらに,3D形状データを点群データとして出力し(図2(b)),汎用GISソフトウェアArcGIS Proの内挿ツール3)とジオリファレンスツール3)により緯度経度を付与することで,DSMデータに変換しました(図2(c)).

3.3D形状測定結果を使用したレール温度推定試験

3.1 試験条件

 前章の形状測定結果(図2(c))を用いてレール温度を推定し,レール腹部に設置した熱電対による測定値と比較します.レール温度の測点は,図2(c)に示す点1,点2,点3です.レールはJIS 50kgNレール,まくらぎは6号PCまくらぎで,気象データには点1付近で測定した値(図3)を使用しました.日時は2020年10月29日です.

3.2 試験結果

 図4に,日射量解析より,図2(c)のDSMデータから算出した日射量分布を示します. 図4(a)より,点1付近は14時頃に樹木Aの日陰(法線面直達日射がゼロ)となり,点2付近は8時時点では樹木B等の日陰となっています.また,点3は樹木Bによる日陰と日向の境界に位置し,8時頃に日向となることが分かります.図4(b)より,樹木Aと樹木B,およびその他建物によって散乱日射の一部が遮れるため,470m<x<600mの範囲では,周囲よりも散乱日射が低下することが分かります.図5に,点1, 2, 3のレール温度の比較を示します.図5(a)より,点1の測定結果では,樹木Aの陰により13時以降でレール温度が低下しました.また,点2と点3は,日出直後(7時頃)暫くは樹木Bにより日陰となりますが,点2では日向となる時刻(レール温度が急激に上昇を始める時刻)が10m離れた点3より約1時間遅く,午前中のレール温度が点3より低くなりました(図5(a)).図5(b)に,市販の地図データから作成した,地形と建物のみの標高データ(樹木の高さを含まない)による推定結果を示すが,測定で見られた樹木による温度変化の傾向は再現できていません.図5(c)より,3D形状測定結果(樹木の高さを含む標高データ)を用いたレール温度の推定値では,測定値との間で若干の差が生じましたが,上述の樹木A,樹木Bによる影響については測定値と同様の傾向が得られました.以上より,提案した樹木の形状測定法を適用することで,レール温度の再現性を向上できることが分かりました.

4.まとめ

 試験線のレール温度は樹木等の陰により場所毎に差が生じたが,本稿で提案した3D形状測定法を適用することで,これら温度差を含むレール温度の再現性を向上できることが分かり,提案手法の有効性を確認できました.今後は,3D形状測定,市販およびオープンデータを活用したレール温度の詳細な予測により,夏季の特別巡回や運転規制等,管理の効率化の検討を行う予定です.

〈参考文献〉

1) 浦川文寛,渡辺勉,木村成克:GISデータを使用した広域レール温度予測法,鉄道総研報告 – 軌道技術 – ,Vol. 34,No. 4,pp. 53-59,2020

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 浦川文寛
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 箕浦慎太郎,渡辺勉

発行者:荒木 啓司 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:栗原 璃  【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 気象防災】