施設研究ニュース

2021年12月号

可動式ホーム柵支持部の構造設計に用いる風荷重と設計法

1.はじめに

 可動式ホーム柵(以下,ホーム柵)は,旅客のホームからの転落や列車との接触を防止することを目的に設置が進められています.一方,ホーム柵を支える補強桁等の支持部(以下,ホーム柵支持部.図1参照)の構造設計法については,技術基準等で定められたものがなく,乗換跨線橋設計指針1)を準用する等,鉄道事業者の判断で設計法が選定されているのが実態です.また,ホーム柵支持部の風荷重は,上記指針等を準用した周辺条件等によらない一律の値が用いられるケースが多くあります.しかし,ホーム上家の壁や防風スクリーンのような遮蔽物がある場合は,これらの影響によって風荷重が変化すると考えられます.
 そこで,遮蔽物の影響を考慮した風荷重の設定方法を提案するとともに,実際の使用環境等を踏まえたホーム柵支持部の構造設計法を提案したので紹介します.

2.遮蔽物が風荷重に与える影響

 遮蔽物がホーム柵支持部の風荷重に与える影響を定量的に検討するため,縮小模型(縮尺1/40)による風洞試験を実施しました.風洞試験状況を図2に示します.検討条件は,上家の形状(片流れ屋根,翼型屋根,上家の有無),遮蔽物(ホーム上家の壁,防風スクリーン)の有無で,ここでは示しませんが,この他にホームの立地条件の違い(地平ホーム,高架ホーム)やホーム間距離の違い等も検討しています.風洞気流は,一般の建築物の風洞試験に用いる自然風を模擬した気流を用いて所定の時間を送風し,風向角は一部条件を除き15~90度までの15度刻みとしました。風荷重は,ホーム柵の表裏に設けた圧力孔により,ホーム柵の線路平行方向の圧力分布として測定しました.測定した圧力の時間平均値から,ホーム柵支持部に作用するせん断力を求め,これをホーム柵天端高さにおける速度圧とホーム柵面積で除した風力係数を算出しました.そして,各風向角から得られる風力係数の最大値を検討条件毎に求めました.ここで,風力係数が大きい(小さい)とは,風荷重が大きい(小さい)ことを意味します.

 地平ホームの風洞試験結果の例を図3に示します.全体的に,ホーム端部からの距離が大きいと風力係数が小さい傾向となりました.また,ホーム上家の壁の有る条件では,壁の無い条件に比べて風力係数が小さく,ホーム上家の壁による遮蔽効果があることが分かりました.一方,ホーム柵端部からの距離が小さいと,ホーム上家の壁の有無による差が小さいことから,ホーム柵端部では気流が回り込むため,遮蔽物による遮蔽効果が小さいことが分かりました.また,上家の有無が風力係数に与える影響が小さいことも分かりました.

3.ホーム柵支持部の設計用風荷重

 風洞試験結果から,風力係数への影響の大きな条件であるホーム柵端部からの距離や遮蔽物の有無の条件は区別し,これ以外の条件については区別せずにまとめ,これらの最大値を包絡する2直線により設計用風力係数を設定しました.提案した設計用風力係数を図4に示します.また,設計用風力係数を用いて建築基準法の算定方法により風荷重を計算しました(図5).その結果,遮蔽物が有る場合は,従来から用いられている3.0kN/m2に比べて,ホーム中央における風荷重を約9割低減できることが分かりました.

4.ホーム柵支持部の構造設計法

 冒頭でも述べた通り,従来のホーム柵支持部の構造設計法は,乗換跨線橋指針が準用される等,事業者によって対応が様々で,統一されていませんでした.そこで,実際の使用環境等を踏まえたホーム柵支持部の構造設計法を提案しました.主な特徴は以下の通りです.
・ 様々な構造形式のホーム柵支持部への適用等,設計の自由度の高い性能照査型設計法を基本としつつ,従来から用いられている許容応力度法も適用可能としています.
・ 作用の特性値・組合せを,周辺工作物の設計条件等を勘案し,実際の使用環境等を踏まえて設定できます.風荷重については前述の通りです.旅客推力については,日常的な旅客の行為や電動車いすの衝突などを勘案して設定することとしています.
 図1に示す盛土式ホームのホーム柵支持部(杭:φ216.3×6,L=5m,受け桁:H-200×200×8×12)に対して,提案した設計法を適用し,杭に作用する曲げ応力度の試計算を行いました(図6).ここで,風荷重は,遮蔽物が有る条件で計算しています.その結果,作用力が従来に比べて約5割低減できることが分かりました.これにより,ホーム柵支持部の実態に応じた合理的な設計が可能になると考えます.

5.おわりに

 ホーム柵支持部に作用する風荷重の試験的検討および設計風荷重の設定について紹介すると共に,ホーム柵支持部の構造設計法について概説しました.設計法については,国土交通省鉄道局と共催する有識者等からなる検討会の審議を経た後に,鉄道事業者へ周知する予定です.

〈参考文献〉

1) 鉄道総合技術研究所:乗換跨線橋設計指針,1987.9

執筆者:構造物技術研究部 建築研究室 清水克将
担当者:構造物技術研究部 建築研究室 山本昌和
    構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 笠原康平
    環境工学研究部 車両空力特性研究室 鈴木実

弾性波速度を指標とした切土のり面の安定性評価ノモグラム

1.はじめに

 鉄道沿線に敷設されたのり面工では,風化の進行等よる背面地盤の不安定化に起因して変状が生じることがあります.のり面工背面地盤の安定性を評価するためには,詳細な原位置調査を実施し,必要に応じて斜面安定解析等を実施するのが望ましいものの,維持管理の実務において多数の現場で上記の調査や解析を実施するにはコストの観点から困難であることが想定されます.そこで,容易に計測可能なのり面工背面地盤の表層のP波速度Vp,のり面勾配θ,斜面高さHの情報から,のり面工背面地盤の安定性を評価するノモグラムを作成し,この適用性を現地試験により検討しました.

2.ノモグラムの作成方針

 鉄道総研では,これまでにのり面工背面地盤の弾性波速度(P波速度Vp)を計測する手法について報告しており1),この物理探査手法による結果を用いることで,切土のり面の安定性評価ができるノモグラムを作成することとしました.ノモグラムは,1)粘着力cとのり面勾配θをパラメータとした安定解析と,2)室内実験で明らかにした地盤の粘着力cとP波速度Vpとの関係から作成しました.

3.斜面安定解析

 のり面の安定性を保つために必要(安全率F<sub>s</sub>>1.0)な粘着力cとのり面勾配θとの関係を試算することを目的として斜面の安定解析を実施しました.解析モデルの切土のり面部分は図1に示す様に均一な断面構造とし,湿潤単位体積重量および内部摩擦角は,鉄道沿線で採取した風化花崗岩のデータを参考に表1に示す値を設定しました.斜面高さHを複数設定して土の粘着力cとのり面勾配θをパラメータとして定義したパラメトリックスタディを実施した結果を図2に示します.この図を用いることで,各斜面高さHと勾配θののり面が安定性を保つために必要な斜面の粘着力cを試算しました.

4.粘着力-弾性波速度関係

 現地で採取した風化花崗岩および真砂土の試料を利用して,室内試験により土の粘着力cとP波速度Vpとの関係を検討しました.この関係を求めるためには,多数の力学試験と弾性波速度の計測事例を収集する必要がありますが,本研究では力学試験の実施数が十分でないため,針貫入試験(現地から採取したボーリングコアを針で貫入したときの力を測定することで土の強度を把握する試験)を組み合わせてデータの補完を試みました.のり面工背面地盤で採取した花崗岩のボーリングコアのP波速度Vpと針貫入試験の針貫入強度Npの関係を図3,針貫入強度Npと粘着力cの関係を図4に示します.ここで,図4に示すNp-c関係結果に基づいて,図3のVp-Np関係をVp-c関係に変換した結果を図5に示します.今回は安全側の判断とするため,図5に示すVp-c関係の近似式で評価されるcを0.1倍し,すべての実測プロットの粘着力cを下回る換算式(式1)を設定しました.

c = 1.66 × 10-8・Vp3.08・・・・・・・・・・・(式1)

ここに,c:風化花崗岩の粘着力(kN/m2),Vp:P波速度(m/s) 
 ここで,P波速度Vpから斜面の安定性を評価するためのノモグラムとして利用することを想定し,図2の関係と式1を用いてVp-c関係に換算します(図6).現地調査結果が,ノモグラムの左上にプロットされる場合,当該斜面は相対的に安定性が低下している可能性が高いと判断されます.

5.現地試験による適用性の検討

 鉄道沿線のり面工背面地盤のP波速度Vpを測定し,提案するノモグラムを用いて評価結果の適用性を検討しました.
今回測定したのり面は2箇所です.試験箇所①は,花崗岩(D~CL級),のり面高さ36.6m,のり面勾配51°であり,のり面工に変状はありません.試験箇所②は,花崗岩(岩盤等級不明),のり面高さ22m,のり面勾配68°であり,のり面工に開口ひび割れ等の変状があります.試験箇所①では720m/sec,試験箇所②では600m/sec,が得られました.一般的に,沖積層の表土や花崗岩のマサ化風化部では,P波速度Vp 250m/s~700m/sが得られることから2),いずれの試験箇所も風化が進行した花崗岩であると判断されます.
 現地計測結果を図6にプロットします.図より,いずれの風化が進行したのり面も,変状の有無にかかわらず不安定側に判断されていることが分かります.したがって,提案したノモグラムでは,変状として現れないものの,背面地盤の安定性が低下している箇所を不安定側に評価することが可能です.

6.まとめ

 本研究では検証事例数は限られるものの,風化が進行した不安定なのり面を選定するという点において,提案するノモグラムの一定の有用性を確認しました.今後は現地試験数を増やし,さらなる検証を進めていきます.

〈参考文献〉

1) 藤原ら:地盤表層の風化領域把握を目的とした小型弾性速度検層の開発,第75回土木学会年次学術講演会,2020
2) 日本応用地質学会:若き技術者のための地盤の地質工学的評価と分類,古今書院,2016

執筆者:防災技術研究部 地盤防災研究室 大谷 礼央
担当者:防災技術研究部 地盤防災研究室 高柳 剛,藤原 将真,深野 雄三

噴泥したバラスト軌道に適用可能なSFCてん充道床軌道

1.はじめに

 沿岸部に敷設されたバラスト軌道においては,強風によって海砂が道床内に混入し堆積することで道床噴泥(以下,噴泥)を生じている事例が報告されています.これまでに筆者らは,砂路盤上に敷設された噴泥を生じる前のバラスト軌道に対してSFCてん充道床軌道を適用し,実物大軌道の繰返し載荷試験により省力化軌道として十分な沈下抑制効果を有することを確認しています1).本稿では,噴泥したバラスト軌道に適用可能なSFCてん充道床軌道の構造を検討するとともに,実物大試験により軌道の沈下特性を評価した内容2)についてご紹介します.

2.営業線におけるバラスト軌道の調査

 適用対象とした営業線(年間通トン:3.1百万トン)においてバラストおよび砂路盤の粒度分布を確認しました.図1に現地のバラストおよび砂路盤の粒径加積曲線を示します.同図には後述する実物大試験において現地の砂路盤やバラスト軌道を再現するために用いた東北5号珪砂および試験バラストに加え,新品バラストの粒径加積曲線も併せて示します.なお,現地バラスト(1,2)については,図2に示すように噴泥箇所においてまくらぎ下の泥土化したバラスト層(厚さ約100mm)よりも下部の固結したバラスト層から採取したものです.現地バラストは砂が混入したことにより,いずれも粒径0.3~0.5mm程度の含有率が高くなっていました.

3.噴泥箇所に適用するSFCてん充道床軌道

 従来のSFCてん充道床軌道の施工法は,噴泥を生じていない既存の道床内に超微粒子セメント(SFC)ミルクを注入しててん充道床を構築するものでした(通常工法).一方,噴泥を生じている場合は,前章の調査結果から,まくらぎ下の泥土化したバラストのみ部分的に道床交換してからSFCミルクを注入するとともに,道床下部のバラストはセメント安定処理(道床下部安定処理工法)もしくは強固に締め固め(道床下部締固め工法)を行う施工法を提案しました(図3参照).

4.実物大軌道供試体の繰返し載荷試験

 前章で示した噴泥箇所に適用するSFCてん充道床軌道について,実物大軌道供試体の繰返し載荷試験により,軌道の沈下特性を確認しました.図4に供試体の概要を示します.本試験では同図左側の供試体①を道床下部安定処理工法で,右側の供試体②を道床下部締固め工法で作製しました.表1に試験ケースを示します.本試験ではSFCミルクの若材齢時および散水下における影響を考慮した載荷を行いました.まくらぎへの載荷荷重は設計軸重160kNに対して,レールによる荷重分散および継目部における速度衝撃率を考慮して100kN(最小荷重5kN)とし,載荷周波数は10Hzとしました.なお,全載荷回数170万回は2章に示した現地の年間通トンから,8.8年分に相当します.

 図5に試験結果として,材齢3日以降の試験ケースにおける載荷回数と最大変位の関係を示します.なお,いずれの供試体も若材齢(CASE1-1,CASE2-1)におけるまくらぎの最大変位は0.5mm以下となり,初期沈下量はほとんど生じませんでした.また図5より,供試体②の道床下部締固め工法の方がまくらぎの最大変位はやや大きくなったものの,散水による影響は小さく,最終沈下量は1.5mm程度でした.ここで,適用対象区間における高低変位の整備目標値は11mmであり,これに対してSFCてん充道床軌道の沈下量は十分に小さい結果となりました.

5.おわりに

 本稿では,噴泥したバラスト軌道に適用可能なSFCてん充道床軌道を提案し,実物大試験によって既設線省力化軌道として十分な沈下抑制効果を示すことを確認しました.

〈参考文献〉

1) 渕上翔太:砂路盤上におけるSFCてん充道床軌道の適用,施設研究ニュース,No.364,2020.12.
2) 渕上翔太,高橋貴蔵,中村貴久,桃谷尚嗣:砂路盤上におけるSFCてん充道床軌道の適用に関する研究,土木学会第74回年次学術講演会概要集,Ⅵ-903,2019.

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 渕上翔太
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 中村貴久,高橋貴蔵

発行者:荒木 啓司  【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:箕浦 慎太郎 【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道管理】