施設研究ニュース

2022年3月号

構造物種別における地震時走行安全性の比較

1.はじめに

 鉄道事業者では,将来的な大規模地震に備えて,土木構造物の耐震対策に加えて,車両,軌道,土木分野等の鉄道システム全体で脱線対策が行われています.脱線対策を効率的に実施するためには路線全体を俯瞰して脱線の起こりやすさを評価して,対策を優先する構造物を選定していく必要がありますが,構造物種別における地震時走行安全性を定量的に比較した例はありません.そこで,本研究では,橋りょう,盛土,トンネルの構造物種別間における地震時走行安全性を比較しました.

2.構造物種別毎のモデル化

 構造物上の地震時走行安全性は,車両/構造物間の動的相互作用解析を行い,脱線時の入力加速度の最大値である脱線限界入力加速度PGAlimを用いて評価します.
 図1に,橋りょうの力学モデルを示します.鉄道構造物は一般的に標準設計によるものが多く,その動的挙動は1自由度系モデルで表現できます.構造物のモデル化にあたり,構造物の振動特性の統計調査を行いました.
図2(a)に,橋りょうの振動特性の分布を示します.設計図書から実際の線区における固有振動数と降伏震度の値を抽出し,統計分析して構造物のパラメータの確率密度を算出しました.図から,実際の構造物が存在する降伏震度khyは0.3~0.7,固有振動数feqは0.5~2.5Hzの範囲とし,2次元正規分布に基づき橋りょうをモデル化しました.
 盛土についても橋りょうと同様に等価な1自由度系モデルで簡易に表現しました.図2(b)に,盛土の高さの実データの確率密度を示します.盛土の高さは,実データの盛土高さ分布をもとに平均0.8,標準偏差0.6となる対数正規分布に基づくものと仮定し,盛土をモデル化しました1).盛土高さ6mの固有振動数は10Hz程度であり,橋りょうに比べて高い傾向があります1)
 トンネルは,ほぼ均一な地盤中や安定した地山に位置するものとして仮定し,図1に示す構造物ばねを十分剛な線形要素としてモデル化しました.
時刻歴応答解析は,橋りょう,盛土に対しては,路線全体の平均的な地盤を想定してL2地震動スペクトルI(G3 地盤)を,トンネルに関しては基盤波に近いL2地震動スペクトル I(G1地盤)を用い,加振振幅を 50~5000 galの範囲で100分割として解析を行っています.

3.構造物種別間の地震時走行安全性の比較

 図3(a)に,橋りょう区間における脱線限界入力加速度と固有振動数の関係を示します.図から,降伏震度が0.7,0.5の場合はPGAlimが概ね同程度である一方,降伏震度が0.3の場合はPGAlimが全体的に増加する傾向にあることが分かります.また,図3(b)には,トンネルのPGAlimの値もプロットしています.本検討ではトンネルの線形ばねを十分剛としたことからPGAlimは12m/s2となりました.
 図3(c)に,盛土区間における脱線限界入力加速度と高さの関係を示します.図から,盛土のPGAlimは,高さ5mまでは高さが増加しても9m/s2程度であり,5m以上の領域では7 m/s2まで緩やかに低下する傾向にあり,盛土の高さが脱線限界加速度に与える影響が小さいと考えられます.
 図4に,脱線発生の確率密度および累積確率密度を示します.図の横軸はPGAlimを示します.橋りょう区間の場合,不同変位の影響により脱線限界が低下するため,解析により得られた限界値を10%低減させました1).図から,橋りょう,盛土,トンネルの順に,PGAlimが増加します.確率密度に着目すると,脱線発生の確率密度は,橋りょう区間ではPGAlimが300gal程度,盛土区間ではPGAlimが900gal程度,盛土区間ではPGAlimが1200gal程度で大きくなることが分かります.脱線発生の累積確率密度は,橋りょう区間では入力加速度が370gal程度の時,盛土区間では入力加速度が900gal程度の時,トンネル区間では入力加速度が1200gal程度の時に50%を超過することが分かります.

4.まとめ

 本研究は,路線内の橋りょう,盛土,トンネル区間の地震時走行安全性の比較を目的として,数値解析に基づく検討を行いました.その結果,脱線限界にいたる地震動の大きさは,盛土区間は橋りょう区間の3倍程度,トンネル区間は橋りょう区間の4倍程度大きくなることが分かりました.

〈参考文献〉

1) 成田顕次,徳永宗正,坂井公俊:鉄道運行情報を用いた地震時の高速車両の脱線確率,鉄道工学シンポジウム論文集,No.24,pp.17-pp.24,2020.

執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 成田顕次
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 池田学,徳永宗正

劣化したバラストを低強度安定処理した
沈下対策工の開発

1.はじめに

 バラスト軌道は,列車の繰返し載荷やタイタンパによるつき固め補修によりバラストの細粒分の混入率が高くなると,つき固め補修を行っても沈下が生じやすくために,経年とともに保守頻度が増大します.保守量低減のためには,細粒分の混入率が高いバラストを新品に交換する必要がありますが,道床交換は施工コストが高いことから,列車間合いで施工可能で補修効果が持続する低コストな沈下対策が求められていました.そこで,超速硬セメントおよび高分子系固化材を用いた補修材(図1)をタイタンパのつき固め補修時にバラストに混合して安定処理することで,沈下を抑制する軌道補修方法(以下,低強度安定処理工法)を開発しました.本補修材は混合してすぐに高分子固化材が見かけの含水比を低下させるとともに,超速硬セメントの水和反応により中長期にわたって強度を増加させることができます.本稿では,実物大模型の繰返し載荷試験および試験施工により沈下抑制効果を確認した結果を報告します.

2.低強度安定処理工法の実物大試験

 まくらぎ1本の実物大バラスト軌道模型を用いて低強度安定処理工法の沈下抑制効果を確認しました.実物大模型の条件を図2に示します.バラストは,経年劣化が進行して噴泥が生じた現地のバラストを想定して、バラスト、クラッシャラン、カオリン粘土を混合して作製しました(図3)。まくらぎ種別はPCまくらぎ3Hとしました.載荷条件は,載荷回数30万回,載荷周波数5Hzとし,載荷荷重は軸重160kNにまくらぎ1本の荷重分担率0.5を考慮して,荷重振幅80kN(最小荷重5kN、最大荷重85kN)としました.
 低強度安定処理工法の施工手順を図4に示します.まず,つき固め位置においてタイタンパでまくらぎ下まで削孔し(図4(a)),そこに補修材を投入します(図4(b)).次にバラストを埋め戻してつき固め補修を実施し,バラストを安定処理します(図4(c)).無対策の条件で載荷試験を実施した後に,本工法で安定処理して載荷試験を2セット実施し,さらに通常のつき固め補修を行って載荷試験を実施しました.本工法の施工時およびつき固め補修時のまくらぎのこう上量は10mmとし、補修材の添加量は3%としました.
 図5に繰返し載荷回数とまくらぎ沈下量の関係を示します.無対策の条件では,載荷開始から沈下が急進し,補修材を添加することで無対策の沈下量が約80%低減しました.再度,補修材を3%添加して安定処理すると無対策と比較して約87%沈下が低減しました.また,載荷試験後の安定処理された供試体に対して,通常のつき固め補修を実施し,載荷試験をさらに実施したところ,無対策の20%程度の沈下量であったことから,安定処理後も問題なく通常のつき固め補修ができることが確認されました.

3.低強度安定処理工法の試験施工

 冠水によりバラストに外部から土砂が流入する被害を受け,その後噴泥が生じた区間(以下,土砂流入区間)とバラストの経年劣化により噴泥が生じた区間(以下,経年劣化区間)の2区間において,本工法の沈下抑制効果を検証しました.土砂流入区間ではハンドタイタンパ(以下,HTT)を使用して,継目部前後のまくらぎ15本分の延長を施工したところ(図6),施工4カ月後の軌道状態は良好であることを確認しました(図7(a)).経年劣化区間ではマルチプルタイタンパ(以下,MTT)を用いて,継目部前後のまくらぎ6本分の延長を施工しました(図8).ここで,HTTに比べてMTTではまくらぎ下のバラストに補修材を十分に混合できない可能性がありました.そこで,MTTのタンピングツールを予めまくらぎ幅よりやや広い程度に狭めて挿入し,補修材をまくらぎ下のバラストと混合しやすくするように工夫しました.施工の結果,施工4カ月後の軌道状態は良好であることを確認しました(図7(b)).

4.まとめ

 本研究より,経年劣化したバラストに低強度安定処理工法を施工することで沈下を抑制できることを確認しました.今後は,低強度安定処理工法に用いる補修材を製品化して適用拡大を図ります.

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 中村貴久
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 桃谷尚嗣,景山隆弘

泥質軟岩の含水比変化が
ロックボルトの付着力に与える影響

1.はじめに

 泥質軟岩の強度は,乾燥とその後の吸水による含水比の変化によって低下することが知られています.このような泥質軟岩の含水比の変化は,地山の変状対策工のひとつであるロックボルトの付着力,すなわち地山とロックボルト定着材(モルタル)の間の周面摩擦抵抗力(以下,RB付着力)にも影響を及ぼす可能性があります.ただし,その影響程度は十分には明らかになっていません.これが明らかになれば,含水比の変化を加味したロックボルトの設計が可能となります.そこで,室内試験によるRB付着力の評価方法を新たに考案し,泥質軟岩の含水比の変化がRB付着力に及ぼす影響について検討しました1)

2.対象とした地山

 新第三紀の泥岩地山におけるトンネルの斜坑で,図1のように下向きボーリングを4本掘削し(A~D孔),コアを採取しました.各コアとも深さ0~1mはインバートコンクリート,それ以深は泥岩で,深さ1~1.4m程度の浅部のコアは特に軟質もしくは岩片状でした.

3.RB付着力に関する原位置試験

 原位置でのRB付着力を把握するため,A~C孔にロックボルトを打設し(図1),引抜試験を実施しました.RB付着力は引抜試験で得られた最大荷重を定着面積で割ることで求めました.
 引抜試験の結果を表1に示します.ロックボルトをより深部まで定着させたボーリング孔ほどRB付着力が大きく,定着深さが最も浅いA孔のRB付着力はB孔よりも1桁小さいことが分かりました.

4.RB付着力に関する室内試験

4.1 押抜試験の方法

 ボーリングコアを用いた室内試験によってRB付着力を評価する方法を考案しました1).まず,ボーリングコアを長さ25mm程度に切断した円柱状の岩石試料を作製し,その周囲にモルタルを打設したものを供試体とします(図2).モルタル硬化後,載荷試験機を用いて岩石試料の上面に1mm/minの変位速度で載荷し,岩石試料とモルタルとの付着切れが生じるまで岩石試料を押抜きます(図3).最後に,試験時の最大荷重を岩石試料とモルタルとの付着面積で割ってRB付着力を求めます.この試験方法を「押抜試験」と称します.

4.2 含水比の変化を与えた押抜試験

 押抜試験に用いる岩石試料を異なる含水状態で養生することで,含水比の変化がRB付着力に及ぼす影響を検討できると考えました.そこで,2章に記述したボーリングコアから作製した岩石試料を表2に示す4つの条件で養生した後にモルタルを打設し,押抜試験を実施しました.
 その結果,モルタル打設前に乾燥させた岩石試料(条件1,2で養生した試料)は乾燥させなかった岩石試料(条件3,4で養生した試料)に比べてRB付着力が小さい傾向にあることがわかりました(図4).

5.考察

 引抜試験の結果と,自然含水比(条件3)での押抜試験の結果を図5に比較します.その結果,最も浅いA孔での引抜試験で得られたRB付着力は,地山浅部の軟質なコアを用いた試料3-1の押抜試験でのRB付着力と同程度でした.また,B,C孔のRB付着力は,試料3-2のRB付着力と試料3-3のRB付着力の間の値を示しました.このように,押抜試験で得られたRB付着力は引抜試験でのRB付着力と同程度であることから,押抜試験の方法および結果は妥当だと考えられます.
 乾燥させた試料の周囲にモルタルを打設すると,岩石の表面がモルタルの水分によって湿潤し,含水比が増加します(図6).条件1および条件2で養生した試料は,このような含水比の低下と上昇を経験することで岩石が劣化し,RB付着力が低下したと考えられます.

6.おわりに

 本稿では,室内試験によるRB付着力の評価方法と,含水比の変化がRB付着力に与える影響について紹介しました.今後,これらの研究内容をロックボルトの設計に活用できるよう,さらに検討を進めたいと考えています.

〈参考文献〉

1) 西金佑一郎,浦越拓野,嶋本敬介,今泉光智哲:泥質軟岩の含水比変化がロックボルトの付着力に与える影響,鉄道総研報告,Vol. 36,2022(掲載予定)

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 西金佑一郎
担当者:防災技術研究部 地質研究室 浦越拓野
    構造物技術研究部 トンネル研究室 嶋本敬介,今泉光智哲

発行者:荒木 啓司 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:三木 広志 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 建築】