施設研究ニュース

2022年12月号

トンネル内漏水箇所のレール折損の原因調査

1.はじめに

 トンネル等の湿潤環境下のレールは,腐食によって疲労強度が低下し,繰り返しの列車通過に伴い折損に至る可能性があるため,レール底部の腐食量に着目したレール管理が行われています1).一方で,軽微なレール腐食であってもレール折損が発生することがあります.そこで,折損発生箇所の調査を行うとともに,列車通過時に発生するレール曲げ応力(以下,レール応力という)を測定し,その結果を基にトンネル内漏水箇所のレール折損メカニズムおよび当該折損を防止・管理するための健全度指標を提案したので報告します.

2.レール折損状況の調査

 近年,実際に折損したレールの外観観察および軌道検測データの分析結果を以下に示します. (a) レールが折損した現場では,いずれも漏水が確認された.一方,図1(a)の写真に示すように腐食による断面減少やレール底部の顕著な減肉が見られないにもかかわらず,レール底面を起点に進展するき裂が認められた. (b) レール頭頂面が局所的に摩耗し,数mm 程度の顕著な頭頂面凹凸が生じていた(図1(b)). (c) 折損箇所近傍では浮き量10 mm 以上の浮きまくらぎが発生していた(図1(c)). 以上,破壊起点となったレール底面の腐食状態は軽微でしたが,1m 弦の頭頂面凹凸および浮きまくらぎの影響で列車通過時に著大なレール応力が発生し,折損したものと推定されました.

3.頭頂面凹凸および浮きまくらぎ発生箇所における列車通過時のレール応力測定

 営業線において,大きな頭頂面凹凸および浮きまくらぎが発生している箇所を軌道検測データから抽出し,列車通過時のレール応力を測定しました.頭頂面凹凸や浮き量によるレール応力への影響を評価するため,①頭頂面凹凸および浮きまくらぎが存在している状態(補修前),②レール交換および浮きまくらぎを補修した状態(補修後)の2 ケースで測定しました.
 図2 に測点の位置,表1 に各測点で実測した頭頂面凹凸および浮き量(各測点に隣接する2 本のまくらぎの浮き量の平均値)の各値を示します.測点は浮きまくらぎが連続的かつ著大に発生している区間を選定し,起点方から終点方へ測点1~5,そこから終点方へ約8m 離れた健全部を測点6 として,輪重およびレール応力を測定しました.なお,測点4 近傍を中心に計7 本の浮きまくらぎが連続的に存在し,測点4 でその区間の最大値である 12mm の浮き量が認められました.表2 に測定箇所の軌道条件を,表3 に車両条件を示します.レール応力を測定するためのひずみゲージの設置位置は,外軌のまくらぎ間の中心とし、レール底部の軌間外側と軌間内側にそれぞれ設置しました.なお,レール応力は,軌間外側と軌間内側の平均値で評価しました.

 図3 に,ある車両の1 台車(2 輪軸)が走行した際の測点4,6(補修前)におけるレール応力の波形を示します.測点4 では,0.3~0.5 秒において,2 つのピークが表れており,0.6~0.8 秒における測点6 のピークと比較して明らかに大きなレール応力が発生していることがわかります. 図4 に各測点の輪軸通過時のレール応力のピーク値の平均値を示します.ここでは,計8 列車の各輪軸が通過した際のピーク値の平均値を示しています.補修前においては,測点4 の値が最も大きく,測点4 から離れるに従って小さくなっていることから,頭頂面凹凸,浮きに伴い,レール応力が大きくなることが示唆されます.図5 に輪重とレール応力の関係を示すように,測点4(補修前)と測点6 の差は100 MPa 以上になっており,同じ輪軸が走行しても,軌道状態の違いで発生するレール応力が大きく異なっています.また,軌道の補修後は,補修前と比較してレール応力が明らかに小さくなり,最大でも60 MPa 程度のレール応力となっています.

4.レール折損原因および健全度指標の提案

 ここで,トンネル内漏水箇所でのレール折損の発生メカニズムを整理します.漏水箇所では,局所的な頭頂面凹凸と浮きまくらぎが発生し,その影響でレール応力が増大します.また,主に本報告で対象としているのは腐食が軽微なものでありますが,漏水箇所では腐食が進行し,疲労強度が低下することも知られております1).そのため,頭頂面凹凸と浮きまくらぎによるレール応力の増大と,腐食による疲労強度の低下が複合して,トンネル内漏水箇所でレール折損を発生させると考えられます.そこで,レール応力と疲労強度に対応した健全度指標fh を以下のように定義しました. fh=1-σm/σc   (1)

ここで,σm はレール応力,σc は疲労強度 この健全度指標をレール管理に用いることで,処置すべきレールの優先順位を決めることができます.また,任意の箇所におけるレール応力の推定方法2)や腐食量に応じた疲労強度1)も別途提案しています.

5.まとめ

 トンネル内漏水箇所におけるレール折損状況の調査およびレール応力を測定し,レール折損メカニズムの推定および当該折損を防止・管理するための健全度指標を提案しました.

執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 細田充 担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 相澤宏行,山本隆一     

レール継目による鋼橋の疲労への影響評価

1.はじめに

 鋼橋ではレール継目(図1)近傍において疲労き裂が発生しやすい傾向があります.この疲労き裂は,列車の車軸通過時におけるレール継目での衝撃によって発生する桁全体や部材局部の振動が原因と考えられています.
 レール継目での衝撃によって振動しやすい部材や,その振動が疲労へ及ぼす影響度および影響範囲を解明することは検査精度の向上や予防保全対策の計画・実施のために重要になります.
 そこで,効果的な予防保全対策の計画・実施に資する知見を得ることを目的に,軌道等の条件の違いによるレール継目の衝撃による鋼橋の疲労への影響を評価しました1),2)ので,その概要を紹介いたします.

2.レール継目の形式・状態が衝撃に与える影響

 モーターカーによる走行試験(図2)にて応力を測定し,レール継目の形式の違いや,段差または遊間といった軌道条件による違いが,レール継目での衝撃に与える影響を調べました.なお,本検証では,上路鈑桁において疲労き裂が多く発生する補剛材上下端を対象としています.その結果,継目形式についてはかけ継ぎよりも支え継ぎ(図3)が,軌道条件については遊間よりも段差(図4)がレール継目での衝撃に大きく影響を与えることを明らかにしました.

3.レール継目での衝撃が鋼部材の疲労に与える影響

 箱形断面の橋りょうを対象として,応力測定および固有値解析により,レール継目での衝撃が鋼橋の各部材に与える影響を調べました.応力測定では,疲労き裂が多く発生している縦リブ・横リブ交差部を対象としています.その結果,本橋りょうにおいては,レール継目有りでは,比較的低い周波数である桁全体のたわみや床組のたわみに加えて,高い周波数(350Hz以上)で横リブが大きく振動していることを明らかにしました(図5)

 次に,高い周波数の振動による応力が鋼橋の疲労に及ぼす影響を調べるために,累積疲労を求めました(図6).その結果,レール継目有りでの累積疲労はレール継目無しのものと比較して30倍以上になることを明らかにしました.特に,本橋りょうの縦リブ・横リブ交差部においては,横リブの面外振動の影響が支配的であり,設計で考慮していない高い周波数の振動が疲労に大きな影響を与えていたことが考えられます.

4.おわりに

 本稿では,軌道等の条件の違いによるレール継目の衝撃による鋼橋の疲労への影響を評価した結果を示しました.また,横リブの面外振動といった高い振動数が鋼橋の疲労に大きな影響を与えていることを明らかにしました.本成果が鋼橋の保守管理の一助となれば幸いです.

参考文献

1)井上太郎,小林裕介:レール継目での衝撃が箱断面上路鈑桁床組の疲労に及ぼす影響,構造工学論文集,Vol.67A,pp.555-565,2021.3 2)金島篤希,井上太郎,蒲原浩平,松岡弘大,小林裕介:レール継目の衝撃が上路鈑桁の補剛材上下端の応力性状に及ぼす影響,構造工学論文集,Vol..67A,pp.566-577,2021.3

執筆者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 上山裕太 担当者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 小林裕介

中規模地震の影響を考慮した 鉄道構造物の復旧性照査法

1.はじめに

 現在の鉄道構造物の耐震設計1)では,新幹線鉄道や大都市旅客鉄道の構造物のような重要構造物において,震度7 程度の大規模地震に対して早期に修復可能な損傷に留めるという性能(復旧性)が要求されます.一方で,近年頻発する震度5 強~6 強程度の中規模地震に対する構造物の要求性能は明示されておらず,例えば2018 年大阪府北部地震などにおいて,被害状況の把握やその後の復旧作業などに時間を要し,早期運転再開や早期復旧の観点で課題が浮き彫りとなりました.このような課題に対応するために,中規模地震の影響を考慮した鉄道構造物の復旧性照査法を構築しました.

2.復旧日数を照査指標とした復旧性照査法

 提案手法の設計フローを図1に示します.本検討では,「原則的な手法」と設計実務を想定して手順を簡略化した「実務的な手法」の2つを提案しましたので,それらについて示します.最初に原則的な手法について,図1および作業の概念図(図2)を用いて説明します.基本的な手順は図1のフローに示すように「①要求性能の設定」,「②設計地震動の設定」,「③断面諸元等の設定」,「④応答値の算定」,「⑤性能照査」という通常の耐震設計と同じですが,各所に工夫がなされています.まず,地震後の運転再開までの時間が課題となっている背景を踏まえ,「復旧日数」を要求性能として設定します.ここで,復旧日数とは,設計耐用期間内に想定される地震によって生じる被害で復旧にかかる日数の期待値を意味します.次に,期待値を算定するためには,確率論的な評価が必要となりますので,設計地震動は「建設地点で想定される全て地震動」を発生確率も含めて設定します(図2(A)).このことにより,通常の耐震設計では,設計地震動に対する構造物の応答値はひとつに決まりますが,本手法では,多数の設計地震動に対する応答値の発生確率として算定されます(図2(B)).このとき,軽微な損傷であれば復旧日数は短く,大きな損傷の場合には復旧日数は長くなるはずです.そのような傾向を反映させた評価として,応答値に応じた復旧日数に関するデータベース2)を組み合わせることで,応答値の確率から復旧日数の確率を算定し(図2(C)),それを基に復旧日数の期待値を算定します.最後に,算定された復旧日数の期待値が目標とする日数より小さいかどうかで性能照査を行います.
 上述した原則的な手法では,発生確率を有する多数の設計地震動や,これを用いた構造物の応答値の算定,復旧日数の評価等を実施する必要がありますが,これらは煩雑なため,実務的であるとはいえません.そこで,実務的な手法として「復旧性照査用ノモグラム」(以下,ノモグラム)の使用法を提案しました.ノモグラムとは,あらかじめ幅広い条件(地域や構造物)に対して原則的な手法の作業を実施し,目標とする復旧日数を満足できる構造物特性(等価固有周期,降伏震度)を整理したものです.この場合,設計者は建設地点,要求性能に応じたノモグラムを選択し,対象構造物の降伏震度が選択したノモグラムよりも大きいことを確認することで性能照査を行います.実務的な手法では,原則的な手法で煩雑であった設計地震動の設定や構造物の応答値・復旧日数の算定といった作業が,既に用意してあるノモグラムから適切なものを選ぶという行為に集約されます.また,性能照査に必要な構造物の等価固有周期や降伏震度といった指標は,通常の耐震設計においても算定しますので,実務的手法は通常の耐震設計の作業量をほとんど増やすことなく実行可能です.
 図3にノモグラムの例を示します.本図より,同じ仙台地区でも要求する復旧日数が短いほど必要な降伏震度が大きくなることや,同じ復旧日数5日を要求する場合でも地震活動度が比較的小さい札幌地区では必要な降伏震度が小さくなる,といった傾向が確認できます.このように,地域や要求性能に応じたノモグラムを選択して照査することで,ある復旧日数を目標とした構造物が設計可能となります.

3.おわりに

 震度5 強~6 強程度の地震発生時の運転再開に時間を要するという課題に対して,復旧日数を照査指標とし,中規模地震の影響を考慮した鉄道構造物の復旧性照査法を提案するとともに,実務的な手法まで整備しました.本手法により,地域,要求性能に応じた新設構造物が設計可能となります.また,既設構造物についても,復旧日数の観点からの要注意箇所の抽出や対策の優先順位付けなどに活用できると考えています.なお,本研究は国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

参考文献

1) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計,丸善出版,2012 2) 名波健吾,和田一範,坂井公俊:構造種別・損傷レベルに応じた鉄道構造物の地震後復旧日数の算出,第42 回地震工学研究発表会,2022.

執筆者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 名波健吾 担当者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 坂井公俊,和田一範

発行者:中村 貴久 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】 編集者:辻江 正裕 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 軌道力学】