施設研究ニュース

2024年8月号

洗掘被災橋りょうの緊急診断法

1.はじめに

 河川橋脚では,豪雨時に発生する洗掘による根入れの減少や底面の露出にともなう基礎の支持力減少により,安定性が著しく低下します(図1).豪雨後の衝撃振動試験により,固有振動数の変化から根入れの減少程度は推定可能ですが,基礎底面の露出範囲の推定は困難です.また,洗掘後の支持力の推定方法が確立されておらず,現状では列車の運行再開のために,現地で実施する載荷試験により橋脚の安定性を直接評価しています.このため,変状が軽微でも運行再開までに数か月を要する場合があります.そこで,衝撃振動試験の拡張により底面の露出範囲を推定し,さらに洗掘の影響を反映した支持力計算式を用いて机上で洗掘被災橋りょうの診断を行う方法を提案したので,その概要を紹介します.

2.底面露出率の推定法

 衝撃振動試験は,橋脚天端を水平に打撃し,橋脚の水平応答から固有振動数を同定し,固有振動数を指標として橋脚の安定性を前回の計測結果や初期値との比較により,相対的に評価する試験法です.根入れ深さは固有振動数と良好な相関がありますが,基礎底面の露出に対する固有振動数の変化は感度が鈍く,現場で底面露出を確認するためには,瀬替え等により基礎周辺をドライアップして目視により確認するか,潜水士が直接目視・計測する以外に有効な方法がないのが実情でした.しかし,豪雨後にこれらの調査を行うことは容易ではなく,底面露出の有無を検知し,かつ定量的に推定する方法の整備が望まれていました.
 そこで,衝撃振動試験において橋脚天端の上下流側で鉛直応答を計測し,両者の振幅比から基礎の回転中心を求め底面の露出率を推定する手法を提案しました(図2).天端を水平打撃すると橋脚にはロッキング(回転)振動が発生しますが,提案手法では,ロッキング振動により生じる鉛直応答の振幅から図2に模式的に示すように回転中心を推定します.回転中心がわかると,基礎の有効幅が評価可能なため,底面の露出範囲も推定可能です.
 提案手法を,高さ0.6mの小型模型,高さ2.2mの中型模型,高さ4.0mの大型模型の模型実験により検証した結果を図3に示します.模型実験では,橋脚基礎を掘削して洗掘を模擬し,実際の露出比(=露出幅/基礎幅)と,図2に示す手法で推定した露出比を比較しました.提案手法で評価した推定露出比は,実測値と概ね良好に整合しており,提案手法の妥当性が確認できました.

3.洗掘された基礎の支持力評価法

 洗掘により基礎底面が露出した場合,基礎に残留変位が生じていない状態であっても,図4に示すように①基礎幅の縮小,②荷重の偏心,③支持地盤の傾斜化の影響により,支持力が減少します.これらの影響は,個別には「鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物(平成24年版)」により評価可能です.そこで,これらの影響を重ね合せて支持力の残留率を基礎底面の露出比との関係として図5の様に整理しました.
 図5は実態調査結果を踏まえ基礎寸法と底面露出比を変化させたモンテカルロシュミレーションにより,支持力残留率を求めた結果を示しています.得られた結果を安全側に評価し,下限値を近似するように,砂質土,粘性土それぞれについて,露出比と支持力残留率の関係を露出比の関数として近似しました.この結果から,前述した方法により,底面露出比を現場で推定し,支持力残留率を求めることで洗掘後の基礎の極限支持力を推定することが可能となります.なお,橋脚に残留変位が生じている場合,前述した①~③の支持力低下要因に加え,残留変位による偏心の影響なども考慮する必要があります.このため,この支持力評価法は橋脚に残留変位が生じていない条件を対象としている点に注意が必要です.
 提案する支持力推定法を検証するために,アルミ棒積層体を模擬地盤とした模型実験,砂質土を支持地盤とした模型実験において,底面露出比や基礎幅を変化させた支持力実験を実施しました.模型実験で確認した露出比ごとの支持力残留率を図5に示した砂質土の提案式との比較結果を図6に示します.極限支持力について,提案式は実測値を概ね安全側に評価していることが確認できます.一方,基礎幅の1%時の沈下量における載荷時の剛性は,極限支持力の低下よりも顕著となっている傾向があります.このことは,極限支持力が十分と判断される場合でも,剛性が不十分で列車通過時などに比較的大きな変位が生じる可能性があることを示唆しています.

4.おわりに

 本研究では,洗掘被災橋りょうの緊急診断を行うために必要な洗掘範囲の推定法と極限支持力の算定法について紹介しました.これにより,従来は載荷試験に依存していた洗掘後の基礎の安定性評価を机上で迅速に行うことが可能となります.これらの技術をさらに発展させ,引き続き,洗掘被災橋りょうの診断技術・補強技術の開発に取り組み,鉄道事業者の支援に取り組んでいきます.

執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 中島進
担当者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 佐名川太亮,小松灯

令和5年鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)に対応した手引きおよび設計計算例

1.はじめに

 令和5(2024)年1月に,「鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)」(以下,コンクリート標準)が改訂されました.このコンクリート標準は,「第Ⅰ編 基本原則」,「第Ⅱ編 橋りょう」,「第Ⅲ編 コンクリート構造」,「第Ⅳ編 支承構造」で構成されています1).コンクリート標準に対応した設計計算例と手引きを改訂,公開しましたので,その概要を紹介します.

2.手引き・設計計算例の一覧と意見照会について

 現在,公開/販売されている手引きと設計計算例を表1に示します.従前に発刊していた手引き・設計計算例の改訂版に加え,No.6「設計計算例 プレストレスコンクリート単純I形桁(案)」を新たに作成しました.No.1~6は,鉄道技術推進センターの会員用ウェブサイトにて公開しており,意見照会を行っております.

3.手引き・設計計算例の改訂の概要について

 手引き・設計計算例の主な改訂の概要を説明します.

(1) 共通事項

・令和5年版コンクリート標準の要求性能,性能項目および限界状態に基づく照査方法等を示しました.
・一般的な設計条件に対し,従来と同様に,骨組解析を用いてすべての部位・部材が照査を満足することを確かめる方法の例を示しました.

(2) 手引き

・「性能照査の手引き」(表2)では,コンクリート標準による照査方法の補足事項を示しました.鋼材の腐食に関する検討を満足する設計かぶり(4章)や,棒部材の設計せん断耐力式の適用に関する補足,ラーメン高架橋の上層横梁のスラブの効果の考慮方法,場所打ちコンクリート杭の杭頭部せん断耐力(7章),ゴム支承およびその周辺の桁座・桁端の照査,ストッパー周辺の桁座・桁端の照査と損傷の抑制に関する検討(11章)等について,新たに追加,更新しました.
・「配筋の手引き」では,一般的なコンクリート橋りょうに対する配筋方法を示しました.SD390を超える高強度鉄筋の配筋方法や,マッシブなコンクリートに埋込む鉄筋の定着,部材接合部の帯鉄筋の配置,機械式定着工法の適用方法,RC壁部材の横方向鉄筋の配筋方法,ゴム支承およびストッパーを用いた支承部の配筋方法等について,新たに追加,更新しました.また,「鉄筋フレア溶接継手設計施工指針」について,配筋の手引きの付属資料に集約しました.

(3) 設計計算例

コンクリート標準や関連する設計標準,手引きに準拠した設計計算例を示しました(例えば図1).

4.おわりに

 鉄道総研では,公開しました手引き,設計計算例(案)(表1)に対するご意見をお待ちしております.ご意見を踏まえた手引き・設計計算例は,2025年度初に発刊予定です.設計実務に活用して頂けましたら幸いです.

【参考文献】

1) 渡辺健,田所敏弥,池田学,岡本大:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)の改訂概要,鉄道総研報告,Vol.37,No.11,pp.1-5,2023
2) 公益財団法人鉄道総合技術研究所:「変位制限標準」性能照査の手引き(改訂版),施設研究ニュース,No.403,pp.3-4,2024.3.1

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中田 裕喜
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 渡辺 健,轟 俊太朗

線路下横断工法における弾性波探査を用いた沈下予測手法

1.はじめに

 近年,踏切解消や河川拡幅などを目的として,線路下を低土被りで横断するカルバートが数多く建設されています.この工事には「線路下横断工法」と呼ばれる特殊トンネル工法1)が採用されており,施工中の安全な列車走行を確保するため,鋼管を並べて掘進して軌道を防護したのち,トンネル内空部分を掘削するという特徴があります(図1).しかしながら,鋼管掘進時には少なからず軌道沈下が発生する可能性があります.そのため,軌道の自動変位計測に基づく施工管理が行われていますが,この管理方法では,軌道沈下発生後の対応しかできないため,常に軌道整備人員を配備しておく,推進前の地盤改良を手厚く実施するなどの対応も合わせて必要になっています.
 そこで本研究では,鋼管掘進から軌道変位の発生までには時間的な遅れがあることに着目し,鋼管掘進時に弾性波探査を行うことで,遅れて現れてくる沈下量を予測する手法を構築したので,紹介します.

2.弾性波探査を用いた沈下予測手法

 鋼管掘進に起因した軌道沈下は,掘進時に生じた地盤内の緩みが列車荷重の繰返しを受けて突き固められることで遅れて発生します.そこで本研究では,掘削前後の弾性波の到達時間差を計測して,地盤の緩みを弾性波速度の低下率で捉え,評価曲線と照合することで沈下量を予測する手法を構築しました(図2).また,この沈下予測を現場で簡易に行うことができる専用の探査システムも制作しています(図3).

3.評価曲線の検証例

 評価曲線については,既往理論に基づく仮定のもとで弾性波速度と掘削地盤面の応力解放率の換算式を構築しており,この応力解放率を用いた掘削解析を行うことで作成することができます2).この検証にあたっては降下床実験,実物大掘削実験を実施しました.降下床実験とは,土槽内に模型地盤を構築したのち,土槽底面の一部(降下床)を静的に降下させることで,トンネル掘削に伴う周辺地盤挙動を再現する実験方法です3).本研究では,降下床を段階的に降下させながら,地盤の緩みの進行と相関のある降下床にかかる土圧を測定するとともに,降下床と地表面間の弾性波探査を実施しました(図4).また,実物大掘削実験では,実際の工事で用いられる角型鋼管を埋設した盛土を作製のうえ,鋼管前方への掘削と,鋼管と地表面間の弾性波探査を繰り返し実施しました(図5).
 図6に,前述した評価曲線の作成に用いる弾性波速度と応力解放率の換算式による計算値を,実験結果と比較した結果を示します.計算値は実験結果より上方で同様の傾向を描いていることがわかります.応力解放率は小さいほうが掘削解析で得られる沈下量は小さくなるため,この結果から,計算値は実験結果を安全側に評価できるものであることが確認できました.

4.まとめ

 線路下横断工事において,掘削後に現れる沈下を精度良く予測する手法を紹介しました.今後は現場適用事例を増やし信頼性を向上させていく計画です.

参考文献

1) 土木学会トンネル工学委員会技術小委員会 特殊トンネル工法に関する技術検討部会:特殊トンネル工法 道路や鉄道との立体交差トンネル,トンネルライブラリー第31号,2019.
2) 仲山貴司,三輪陽彦:地盤の緩み検知装置を備えた線路下横断工法の情報化施工システム,JREA,vol.67,No.6,pp.50-53,2024.
3) 足立紀尚,木村亮,岸田潔,伊藤浩志:降下床実験によるトンネル掘削過程を考慮したトンネルおよび周辺地盤の力学挙動の解明,土木学会論文集,Vol.694,2001.

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 仲山貴司
担当者:構造物技術研究部 トンネル研究室 山下雄大,石井貴大

軽量型スラブ軌道用打音試験装置および教師なし機械学習を用いた軌道スラブ下隙間判定プログラムの開発

1.はじめに

 スラブ軌道は,プレキャストコンクリート製の軌道スラブをCA(セメントアスファルト)モルタル製のてん充層で支持する軌道構造であり(図1),新幹線における主要な軌道構造として安全な高速走行を支えています.一方で,1980年代以前に敷設された寒冷地の路線では,主に凍害を主要因とするてん充層の劣化によって,軌道スラブ-てん充層間の隙間(図2)やてん充層の欠損を生じることがあり,てん充層の補修はスラブ軌道の維持管理において重要な要素となっています.軌道スラブ-てん充層間の隙間は,外気温や列車荷重の影響を受けやすい外周部から内部に向かって進行し,レール直下付近まで隙間が広がると軌道スラブにひび割れが生じる可能性があります.そこで本稿では,特に外部から視認することが難しい軌道スラブ-てん充層間の隙間の範囲を定量的かつ簡易に評価する,軽量型スラブ軌道用打音試験装置および教師なし機械学習を用いた隙間判定手法を紹介します.

2.打音試験装置の概要

(1)打音試験装置の開発経緯

 打音試験とは,対象物をハンマで打撃し,発生した打撃音から内部にある欠陥を検知する非破壊検査手法の一種です.打音法はトンネルや橋梁等で用いられており,熟練した点検者が行うことで精度良く欠陥を検知することができます.しかし,スラブ軌道ではこれまでに実務で打音検査を実施したことがないため,スラブ軌道の打音検査に熟練した点検員はいませんでした.そこで,打撃音の時間・周波数・音圧をスペクトログラムで分析し,その音響特性から効率的に隙間の有無を判定する装置を開発しました(図3).

(2)打音試験装置の構成

 打音試験装置は,軌道スラブ上面をハンマで打撃する「打撃ユニット」,打撃音をマイクで収録する「集音ユニット」,レール上を走行する「車体装置」で構成されます.2021年度に開発した打音試験装置(プロトタイプ)(図4(a))は,各ユニットの数が多いためコスト面で課題があり,さらに,打撃に際して大型のコンプレッサを用いるため総重量が約150kgと重くなることから,可搬性に課題がありました.そこで,軌間内の打撃・集音ユニットの数を削減し,打撃方法を空圧式から自由落下式に変更することで低廉化するとともに,車体装置を簡素化して約1/3の軽量化を図りました(図4(b)).

3.軌道スラブ-てん充層間の隙間判定手法

(1)機械学習による隙間判定

 機械学習とはAI(人工知能)の一種で,大量のデータ(学習データ)から見出した傾向に基づいて,分類や予測を行う技術です.教師なし機械学習は,既知の入力データのみからそのデータの傾向を見出す学習手法であるため,隙間の無い健全なスラブ軌道のデータさえあれば学習モデルを構築できます.軽量型スラブ軌道用打音試験装置には,畳み込みオートエンコーダを用いた教師なし機械学習によって隙間を検知するプログラムを組み込んでいます1)

(2)隙間の判定例

 機械学習を用いない方法(音圧のピーク値を比較する方法)による判定例を図5(a)に,教師なし機械学習による隙間の判定例を図5(b)に示します.ここでは,隙間の無い健全な供試体1体の打音試験データ(計149測点)を学習データに,隙間を模擬した供試体1体の打音試験データ(計232測点)を判定データとしました.図5より,機械学習を用いない方法では,実際の隙間範囲の大半を隙間なしと誤判定していますが,教師なし機械学習を用いる方法では,概ね正しく隙間の有無を判定できていることが分かります.

4.おわりに

 本稿では,軽量型スラブ軌道用打音試験装置と教師なし学習による隙間判定手法について紹介しました.今後は営業線で測定したデータから,多くの隙間判定結果を取得するとともに更なる精度向上に取り組みます.

参考文献

1) Inaba, K., Tanigawa, H., Naito, H.:A study on evaluating supporting condition of railway track slab with impact acoustics and non-defective machine learning, Construction and Building Materials,Vol 373(2023), 137905,2023.04

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 野田遼斗
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 稲葉紅子

発行者:後藤 恵一 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:上田 将司 【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道構造】