施設研究ニュース
2024年12月号
鉄道連続桁式橋りょうの衝撃係数の簡易評価方法
1.はじめに
鉄道連続桁式橋りょうは,高速道路,河川や港湾を跨ぐような箇所で多く採用されている構造形式です.高速鉄道の場合,連続桁の列車通過時の動的応答においては高次モードが複数発生し,その動的応答を推測するには動的応答解析を実施する必要があります.
本研究では,高速領域を対象とした連続桁式橋りょうの衝撃係数の簡易算定法を提案することを目的として,動的応答解析などに基づき高速列車通過時の連続桁の動的応答の特徴について考察したうえで,列車通過時の連続桁の衝撃係数の簡易評価方法について検討した結果を紹介します1).
2.数値解析
本研究では,新幹線車両と構造物との動的相互作用解析プログラムDIASTARS IIIを用いました.
図1に,橋りょうの力学モデルの概念図を示します.橋りょうは,連続桁を弾性梁要素によりモデル化しました.表1に,解析パラメータおよび解析ケースを示します.図2は箱型断面形状および桁高とスパン長の関係です.合成桁(図中のG)およびPC桁の断面は寸法のうち桁高のみを可変として,曲げ剛性,単位長さ重量を設定しました.
図3は動的解析から得られるたわみの衝撃係数です.代表的な例として,スパン数3,スパン比1.0(rLb =Lb2/Lb1),車両を相互作用モデル(VBI),移動荷重モデル(ML)とした場合の結果です.衝撃係数は最低速度50 km/hの結果を静的応答とみなして算出しました.図から,たわみの衝撃係数には,固有値解析から得られる各固有振動モードの共振速度において複数の極大点が見られ,1次,3次モードに対応する共振速度で衝撃係数が急増して1以上の値となることがわかります.
図4は,たわみの衝撃係数にスパン数が与える影響の代表的な例として,スパン数2と5におけるLb1=50m,スパン比1.0の結果です.図から,図3に示すスパン数3の場合と併せてこれらのケースにおいては,1次モードの固有振動数は同じであり,対応する共振速度は180 km/h程度です.2次モード以上の固有振動数はスパン数の増加とともに小さくなることから,共振速度が400 km/h以下の領域となる固有振動モードが増加しています.また,スパン数2の場合は衝撃係数は2次モードの共振速度で増幅する一方で,1次モードでは増幅していません.スパン数3の場合は衝撃係数は1次,3次モードの共振速度で増幅する一方で,2次モードでは増幅していません.スパン数5の場合,衝撃係数は1次もしくは2次モードの共振速度で増幅する一方で,この共振速度時の衝撃係数は,スパン数2,3の場合と比較して小さくなっています.これはスパン数が増えるほど複数輪軸の応答が干渉して打ち消し合うためと考えられます.
3.連続桁の衝撃係数の簡易評価方法
提案する連続桁の衝撃係数の簡易評価方法では,RC標準2)の単純梁を仮定した衝撃係数の解析結果に,連続桁の特徴を考慮したパラメータとして有効固有振動数fe,有効スパンLeを適用します.有効固有振動数は,卓越する振動モードの固有振動数を採用します.スパン数が奇数の場合は最低次の振動モード,スパン数が偶数の場合は2次モードに着目します.たわみの有効スパンは,2径間の場合は長い方のスパン長,3径間以上の場合は中央径間および側径間のスパン長の平均値です.
図3,4では,連続桁のたわみの衝撃係数について,提案方法(緑線)と鋼合成標準3)(黒線)の方法も示しています.鋼合成標準3)の方法は,300km/h以下の共振速度より低い速度領域においては解析から得られる衝撃係数の増加の全体的な傾向と一致しており,概ね安全側の評価を与えています.一方で,スパン数3で,Lb1=50mの場合のように1次モードの共振速度が300km/h以下となり共振現象が発生する場合には,鋼合成標準3)の方法はこの現象を考慮していないことから過小評価を与えています.提案方法は,ほとんどの速度領域で動的応答解析から得られた衝撃係数の傾向を捉えられており,かつ安全側の評価を与えています.
図5に,簡易評価手法の推定精度を示します.新幹線の桁のたわみについて,既往の測定結果および解析結果と提案評価法の結果を比較しています1).図から,鋼合成標準3)の方法は特に衝撃係数が1を超える場合に過小評価する傾向にあります.RC標準2)の方法は安全側ではあるものの,特に衝撃係数が1を超え共振が発生する場合に過度に衝撃係数を大きく評価する傾向にあります.提案方法は,動的応答解析結果および実測結果に対してはほとんどの場合で-0.1から+0.5程度の範囲で衝撃係数を評価しており,安全側でありながらも鋼合成標準3),RC標準2)の方法よりも精度が高い傾向にあります.
4.まとめ
本稿では,高速領域を対象とした連続桁式橋りょうの衝撃係数の簡易算定法を紹介しました.連続桁橋りょうの設計実務や維持管理に有効活用していただければ幸いです.
参考文献
1) 徳永宗正,池田学:鉄道連続桁式橋りょうの列車通過時動的応答特性と簡易評価法,土木学会論文集, Vol. 79,No. 1,pp. 22-00185,2023.
2) 国土交通省監修・鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物) 第Ⅱ編 橋りょう,2023.
3) 国土交通省監修・鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物) 第Ⅲ編 鋼・合成構造,2024.
執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 徳永 宗正
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 池田 学
踏切とバラスト軌道との境界部におけるレール損傷の要因調査
1.はじめに
レール損傷に対し,軌道構造上の注意すべき箇所として,連接軌道等の踏切とバラスト軌道との境界部があげられます.踏切境界部に隣接したバラスト軌道では浮きまくらぎが発生しやすいことは知られており,列車通過の際,その近傍のレールの応力振幅が増大します.かつ,踏切に敷設されたレールはレール底部の腐食が進行しやすいこと(図1)から,レール底部の腐食と浮きまくらぎによる応力振幅への影響が合わさることによってレール折損リスクが高まる可能性が考えられます.ここでは,過去に踏切境界部でレール底部からき裂が発生してレール折損に至った事例について調査結果を紹介するとともに,当該箇所を対象として,浮きまくらぎを考慮した車両走行シミュレーションによりレールの発生応力を推定し,踏切境界部近傍におけるレール疲労寿命について考察しました.
2.踏切境界部のレール折損の事例
過去に踏切境界部でレール底部のき裂の発生からレール折損に至った1つの事例について調査しました.調査結果の概要は以下の通りです.
・折損は踏切内の,踏切端部から2締結目の位置で発生した.
・踏切端部から終点方4m程度はバラスト軌道であり,折損時は浮きまくらぎが10mm程度確認されていた.
・レールは敷設から10年8か月経過し,累積通過トン数は約2.3億トン(年間0.2億トン)であった.
・検査履歴として,レール底部腐食量が2mm程度検知されていた.一方,逆側レールで3mm以上の大きな底部腐食量が確認されていた(但し、踏切境界から5m程度離れていた).
3.レール折損箇所のレール底部応力
上記レール折損箇所におけるレール底部応力を車両走行シミュレーション1)を用いて推定することしました.なお,ここでの推定結果は,あくまでも条件を仮定した上での一例です.
折損箇所の軌道構造を参考に設定した車両走行シミュレーションの軌道モデルを図2に示します.上記したように,踏切端から起点方へ2締結目直上で折損しているため,その近傍をモデル化することとしました.踏切端から終点方の6本目までの範囲において浮きまくらぎの存在が確認されたため,解析条件として、その範囲に浮き量0,5,10mmを設定しました.まくらぎ間隔は,現地の状況を反映し0.6mとしました.図中のS1~S3(S2がレール折損箇所と想定)におけるレール底部応力を算出しました.
図3に折損箇所(S2)における車輪位置の変化に伴うレール底部応力を示します.グラフの横軸は1車輪目の位置を示しており,S2(折損箇所)直上通過時は5mの位置となります.いずれの浮き量の条件においても1車輪目がS2の直上を通過した場合,20MPa程度の引張応力が発生しています.その後,終点方のバラスト軌道を列車が通過した際において浮きまくらぎが存在しない場合,20MPa程度の圧縮応力が発生し,10mmの浮き量が存在する条件の場合,70MPa程度の大きな圧縮応力が発生することが分かります.これは,バラスト軌道の浮きまくらぎ箇所において列車通過時にレールが大きく沈みこんだ(変形した)ことで,踏切上のレールにおいてアップリフトによる上に凸の曲げ変形が生じ,レール底部に大きな圧縮応力が発生したものと考えられます.レール底部については100MPa程度の引張の残留応力が生じていることが知られており,列車通過時に生じる圧縮応力によって引張の応力範囲内で応力変動が生じ,当該レールの疲労破壊による折損に影響したものと考えられます.
次に,図4に各測点における応力振幅をまくらぎ浮き量の条件ごとに示します.浮きまくらぎが存在する場合,大きな応力振幅が発生することが分かります.浮きが無い状態と比較して,位置と浮き量によっては2~3倍程度大きな応力振幅が発生しています.また,踏切端から離れるにつれて,応力振幅は減少しています.
4.疲労寿命推定
レールの疲労寿命は,当該折損の各条件と累積疲労被害則2)に基づいて以下のように推定しました.
① レール底部の応力振幅は,図4に示したS2の応力振幅の値を使って設定しました.
② 累積疲労被害の算定において,過去に底部腐食量と底側部腐食量を変数として算出した以下の50%破壊確率S-N曲線を用いました2).
S=-100 log10N-2.1ftfs+830
ここで,S:応力振幅(N/mm2),N:繰り返し数(回),ft:底部腐食量(mm),fs:底側部腐食量(mm)当該踏切に敷設されていたレールの腐食量測定結果を踏まえてftおよびfsを2mmとしました.
③ 累積疲労被害が1になるまで(レール折損を引き起こすまで)に要した通過トン数を,年間通トン数(2200万トン)で除することで寿命(敷設から折損までの寿命)を示しました.
寿命推定結果を表1に示します.レール撤去時の底部腐食量が2mmでまくらぎ浮き量が10mmであった場合の寿命は12.3年となり,本検討箇所におけるレール折損(10年8か月)との若干の差異はありますが妥当な寿命となりました.このように、浮きまくらぎと腐食の影響が合わさることによって,踏切境界部のレール折損のリスクは高まりますので、保守管理上注意が必要です.
5.まとめ
過去に踏切境界部でレール底部のき裂の発生からレール折損に至った事例について調査し,当該箇所を想定した車両走行シミュレーションによりレールに発生する応力および疲労寿命を推定しました.
参考文献
1) 石田誠,三浦重,河野昭子:軌道動的応答モデルとその解析結果,鉄道総研報告,Vol.11,No.2,pp. 19–26,1997
2) 細田充,片岡宏夫,高須豊,弟子丸将,腐食・電食環境下におけるレールの余寿命評価,鉄道総研報告,Vol.27,No.4,pp.5-10,2013
執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 細田 充
担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 水谷 淳,弟子丸 将
合成開口レーダによる地表面モニタリングへの降積雪の影響の検討
1.はじめに
鉄道事業者は,鉄道の安全・安定輸送を確保するために,沿線の斜面や構造物の定期的な検査や巡視等を行っています.沿線には数多くの斜面や構造物が存在し,かつ鉄道用地外の斜面からも土砂流入等が発生しますので,このような検査や巡視等の作業はコストや労力が大きいです.このため,斜面や構造物を広域かつ低コストにモニタリングする技術の必要性が高まっています.本稿では,広域のモニタリングが可能なリモートセンシング技術の一つであるSAR解析技術の概要と,積雪地域の構造物に対してSAR解析技術の適用を行った例をご紹介します.
2.合成開口レーダ(SAR)について
合成開口レーダ(SAR:Synthesis Aparture RADAR)は,地表面にマイクロ波を照射し,その反射波を受信することで,地表面の物性や起伏,傾斜などを観測する電波センサーです1).このセンサーを搭載した人工衛星を一般にSAR衛星と呼称します.地表面の可視画像を取得する光学衛星と異なり,白黒の画像(通称SAR画像:図1)が得られますが,光学衛星では撮影できない夜間や曇りなどの悪天候時も撮影可能です.
SAR画像を用いて地表面の変位を解析する技術を,干渉SAR解析といいます.SAR画像には,反射したマイクロ波の散乱強度(電波の強さ)と位相(何波長分の長さか)が記録されます.干渉SAR解析は,図2に示すように,同一軌道のSAR衛星から照射されたマイクロ波の位相情報を利用して,2時期間での位相の差分を,衛星から見た(視線方向の)地表面の変動として解析する技術のことです.差分が正であれば沈下,負であれば隆起する向きの変動を意味します.
干渉SAR解析は,大気中の水蒸気などによる誤差の影響を受けますが,2時期間の干渉解析を複数枚(20枚以上)組み合わせて統計処理を行うことで誤差を低減した,時系列干渉SAR解析が提案されています.本稿では,時系列干渉SAR解析の一種として,複数枚のSAR画像の中で安定してマイクロ波の反射が強い点(PS点:主に構造物上で検出される)の変位量を解析するPSInSAR解析を用いました.
3.非積雪期・積雪期のSAR解析の構造物への適用例
鉄道総研塩沢雪害防止実験所(新潟県南魚沼市)建屋を対象に,積雪の生じない時期(4月~11月)の20枚のSAR画像を使用したPSInSAR解析の結果を図3に示します.塩沢雪害防止実験所建屋は,実際には動いていない(変位量0mm)と仮定します.解析では,±2.5mm程度の範囲で変動していることから,数mm程度の誤差が生じることを確認しました.
積雪期を含む期間(9月~4月)の20枚のSAR画像を使用したPSInSAR解析の結果を図4に示します.PS点の検出数は,非積雪期の解析では16点でしたが,積雪期を含む解析では7点と減少していることがわかります.これは,構造物上や周辺の積雪によって地表面の状態が変化したことにより,電波の反射が弱くなったことが原因と考えられます.さらに,積雪が観測されると5~10mm程度衛星に近づく向き(隆起)の変位が解析される傾向が見られました.これは,建屋上に積雪があるためと考えられますが,現地で観測された積雪深(最大2.5m程度)とは対応していないことがわかりました.このように,積雪によりPSInSAR解析で得られた変位量の誤差が大きくなる可能性があることがわかりました.
4.まとめ
本稿では,PSInSAR解析を構造物モニタリングに適用した例を紹介しました.PSInSAR解析を降積雪がない時期に実施しても解析結果に一定の誤差を含むこと,解析期間に積雪期を含むと構造物がSAR衛星によって検知されにくくなること,積雪期に隆起する向きの変位と解析されることがわかりました.現状の精度でPSInSAR解析を構造物モニタリングに適用した場合,誤差により管理基準を上回る変動が解析され,空振りの出動回数が増加することが懸念されます.今後,誤差を低減するために,降積雪の影響を含むPSInSAR解析の誤差要因についてさらに詳細に分析を行うとともに,誤差の影響を極力受けずにPSInSAR解析を用いたモニタリングが適用可能な条件について検討を行う予定です.
参考文献
1)大内和夫,リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎[第2版],東京電機大学出版局,pp.4
2)国土地理院HP,干渉SARの基本,https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/sar_mechanism.html
(2024年11月18日閲覧)
執筆者:防災技術研究部 気象防災研究室 京增顕文
担当者:防災技術研究部 気象防災研究室 辻滉樹,鎌田慈
発行者:後藤 恵一 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:幸野 真治 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 軌道力学研究室】