施設研究ニュース
2026年1月号
高解像度カメラの広角撮影による多点同期変位測定
1.はじめに
鉄道橋りょうのたわみは,列車の走行安全や乗り心地に大きく影響するため,古くから設計・維持管理における重要な指標として用いられてきました1).従来の変位計やレーザードップラー式速度計2)による測定では,橋の下に機器を設置する必要があり,河川橋や架道橋では作業や交通遮断が困難となる場合があります.近年は,高解像度で低価格化したビデオカメラを用い,非接触で多点のたわみを簡易に測定する手法が注目されています.一方,デジタル画像相関法は正面撮影を前提としており,斜め方向からの撮影では射影歪みが問題となります.この歪みを補正しつつ変位へ変換する手法は確立途上です.高解像度カメラ(4K〜12K)の普及により,遠隔・広角撮影で広範囲を計測可能となった一方,広角レンズでは画像端部に歪曲収差が生じるという課題があります.
本研究では,1台の高解像度カメラと一般的な広角レンズを用い,撮影および分析手法の工夫により,列車通過時の橋りょう変位を多点同期で効率的に測定する方法を検討しました3).
2.広角測定による橋りょうの変位推定方法
図1に,本研究で提案する撮影動画の処理フローを示します.撮影では複数の評価点を画角内に収めて動画を取得し,分析ではデジタル画像相関法のサブピクセル推定により画素移動量を求めます.広角レンズ特有の射影歪みおよび歪曲収差を補正し,橋りょうの変位に変換する方法を用います.
デジタル画像相関法は,画像の輝度パターンを基に変形前後の対応領域を探索して変位を推定する手法です.粗探索では正規化相互相関により整数画素位置を推定し,サブピクセル推定では関数フィッティングにより1画素未満の分解能を得ます.撮影画像は2次元のため1台のカメラでは3次元変位の完全推定は困難ですが,列車通過時の変位は主に鉛直方向で,線路方向は相対的に小さいため,本研究では仰角40°以下で撮影し,線路方向の変位による誤差を10%以下に抑えて2次元変位を推定するように工夫しました.カメラで斜めから物体を撮影した際,画像の形や位置が実際と異なって見える射影歪みが発生します.評価点毎に異なるこの射影歪みを補正するために,カメラと評価点の位置関係を考慮した独自技術により補正します.さらに,歪曲収差については,画像中心と周辺部の拡大倍率差に起因する樽型ひずみを,歪曲収差率から補正量を算出しました.詳細については文献3)をご覧ください.
3.実橋りょうへの適用
図2に,提案手法を適用した実橋りょうAの一般図と評価点を示します.対象はスパン60 mの複線単純トラス橋で,曲線半径は4000 mです.縦桁・横桁の床組を有した構造で,横桁間隔は12 m,軌道はバラスト軌道です.カメラは起点側の橋脚付近に設置し,Blackmagic URSA Mini Pro(解像度12288×6480 pixel,60 fps)を使用しました.評価点は画像内の特徴的な箇所であれば自由に設定可能ですが,本稿では床組の縦桁・横桁交差部9点の結果を紹介します.
図3に撮影画像を示します.評価点はボルトやマンホールなどエッジが明瞭な箇所を選定し,撮影距離は13〜60 m,空間解像度は1〜6 mm/pixel,サブセットサイズは128 pixel平方としました.
図4に,下り線列車通過時(速度277 km/h,10両編成列車)の各評価点の鉛直変位を示します.撮影画像から得られた変位波形(図4の適用前)には,約15 Hzの微振動が含まれました.これは橋脚近傍に設置したカメラの自己振動と考えられます.地盤や支点反力に起因する高周波・低周波振動の影響を考慮し,15 Hzのローパスフィルターで高周波成分を除去しました.その結果(図4の適用後),下り線側下弦材で約3 mm,上り線側で約1.5 mmのたわみが確認され,スパン中央ほど変位が大きい傾向が見られました.多点同期計測により,鉛直変位に加えてねじり特性や部材変形特性の把握も可能であることを確認しました.
図5に妥当性の検証結果を示します.評価点6および9の鉛直変位について,非接触式速度計(U-doppler)と画像解析(DIC Proposed)を比較した結果,波形と最大値(約3 mm)は概ね一致しました.列車通過前後にはDICで0.2〜0.3 mmの自己振動が確認され,縦桁のような微小変位ではS/N比の低下により影響が顕著になることが分かりました.
4.おわりに
本稿では,鉄道橋りょうの列車通過時変位を多点同期で測定する技術について紹介しました.本手法により,1台の高解像度カメラによる広角撮影画像から橋りょう全体の変位挙動を評価することが可能です.今後は,鉄道沿線から10〜20m程度の距離にカメラを設置した場合に影響を受ける地盤振動や,風・車両などによる外乱を補償するためのキャンセリング手法の研究に取り組みます.
参考文献
1)国土交通省監修・鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(変位制限),丸善,2006.
2)上半文昭:構造物診断用非接触振動測定システム「 Uドップラー」の開発,鉄道総研報告, Vol. 21, No. 12,pp. 17-22,2007.
3)徳永宗正, 北川晴之, 池田学: 高解像度カメラの広角測定を用いた鉄道橋りょうの列車通過時変位の多点同期測定によるモード同定, 構造工学論文集 A, No.70, pp.289-302, 2024.
執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 徳永宗正
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 北川晴之
スラブ軌道各部補修の手引きの改訂
1.はじめに
1965年から本格的な開発が進められたスラブ軌道は,山陽新幹線の新大阪~岡山間の建設以降,新幹線の標準軌道として本格採用され,保守の省力化に大きく寄与してきました.しかし,一部の区間では厳しい環境条件のもとで部材の補修を余儀なくされた区間もありました.
そこで,比較的損傷・劣化の事例が多いとされるてん充層および軌道スラブの外周部に見られる欠損や,軌道スラブのひび割れ等について,その補修方法や補修要否の判定の目安についてまとめられた「スラブ軌道各部補修の手引き(1989年12月)」が発刊されました.その後も,スラブ軌道の持続的な維持管理を行うことを目的として,劣化損傷した突起の対策工,入手が困難になった額縁補修用補強材の代替品,劣化範囲が広範囲に及ぶてん充層を対象とした大断面補修工法,寒冷地に適用可能な隙間補修用CAミルクの開発等,様々な検討結果を本手引きに反映してきました(図1).
近年は,主に寒冷地に敷設されているスラブ軌道を対象として,現地で確認されている軌道スラブ断面修復部の再劣化の状況等から,軌道スラブの欠損およびひび割れに対するより効果的な補修方法を開発しました1).本稿では,それらの検討結果を追加した本手引きの改訂内容について紹介します.
2.寒冷地における軌道スラブ断面修復部の劣化メカニズム
寒冷地の明かり区間に敷設されている軌道スラブ(タイプレート式)では,凍害によって主に外周部に欠損が生じる場合があります.そのような箇所では,本手引きに示されている樹脂モルタルを断面修復材として用いる断面修復や,エポキシ樹脂による表面被覆等の補修が行われていますが,経年した補修箇所では断面修復部の剥落等の再劣化や表面被覆部におけるより深い欠損が生じています.
そこで,樹脂モルタルによる断面修復を模擬したコンクリート供試体の凍結融解試験および付着試験を実施したところ,凍結融解の繰り返しによって,徐々に断面修復部における断面修復材(樹脂モルタル)-軌道スラブ間の付着強度が低下することが分かりました.図2に断面修復部の劣化メカニズムを示します.
一方,軌道スラブの外周部に見られる欠損を想定し,軌道スラブ側面からタイプレートの縁までを欠損させた供試体に対して締結部の水平載荷試験(図3)を実施したところ,設計荷重に対して耐力上の問題はないことを確認しました.
3.軌道スラブの新たな補修方法の提案
上記を踏まえ,寒冷地における軌道スラブの欠損に対しては,断面修復を行わず,軌道スラブの劣化の進展を抑制することを目的として,「シラン・シロキサン系表面含浸材」を塗布することを提案しました.
シラン・シロキサン系表面含浸材は,コンクリート内の水分の蒸発を阻害せず,コンクリート表面に撥水機能を付与することが可能な補修材料です.別途実施した,軌道スラブから採取した角柱供試体の凍結融解試験により,シラン・シロキサン系表面含浸材を塗布することで相対動弾性係数がほとんど低下せず(300サイクルで90%以上),凍結融解抵抗性が向上することが分かりました.
なお,寒冷地における軌道スラブのひび割れに対しても,ひび割れ幅が0.5mm未満の場合はシラン・シロキサン系表面含浸材を塗布することとしました.ひび割れ幅が0.5mm以上かつ2.0mm未満の場合は,シリコーン樹脂系または弾性ポリマーセメント系の水蒸気透過型弾性被覆材を塗布します(ひび割れ幅が2.0mm以上の場合は,ひび割れ部の形状に応じて,低粘度樹脂の注入等を併用します).
この他,寒冷地のトンネル内や温暖地に敷設され,凍害以外の要因によって欠損が生じた軌道スラブの断面修復用の補修材として,樹脂モルタルよりも比較的安価なポリマーセメントモルタルの適用を提案しました.ここでは,トンネル内に敷設される軌道スラブ(座面式)の肩部のはつり面にクロス状の溝を設けたうえで,ポリマーセメントモルタルで断面修復することにより,材齢2時間で列車を通過させることができることを確認しました(図4,図5).
4.おわりに
本稿で示した軌道スラブに対するより効果的な補修方法は,本手引きの第Ⅲ章および第Ⅳ章に追加されます.本手引きの改訂版の発刊は2026年4月頃を予定しています.
本手引きが,スラブ軌道を維持管理されている皆さまの業務の一助となれば幸いです.
参考文献
1) 北条優,高橋貴蔵,髙橋成汰:軌道スラブ種別および劣化機構に対応した補修方法,第28回鉄道工学シンポジウム論文集,Vol.28,No.1,pp.62-94,2024.7
執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 渕上翔太
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 高橋貴蔵,藤川理沙子
塩化カリウム溶液によるスレーキング抑制効果の検討
1.はじめに
スメクタイトのような膨潤性粘土鉱物を含む軟岩は,乾燥とその後の吸水により細片化(スレーキング)しやすいことが知られています.スレーキングはトンネルの盤ぶくれや斜面崩壊等の要因となる場合があり,これらの対策として地山にロックボルトを打設することがあります.ロックボルトを打設する際には削孔水を使用したボーリング掘削を行うことが多いですが,削孔水が孔壁周辺の岩石のスレーキングを促進させ,孔壁の崩壊や孔の閉塞等が生じる可能性があります.既往研究では,スメクタイトを含む岩石を高濃度の塩化カリウム(KCl)溶液に浸漬することでスレーキングをある程度抑制できることが報告されています1).ただし,岩石の乾燥程度とKCl溶液のスレーキング抑制効果の関係については十分には検討されていません.そこで本研究では,岩石の乾燥程度やKCl溶液の濃度がスレーキング抑制効果に及ぼす影響を把握することを目的とした,岩石の強度試験を実施しました.
2.試験方法
試験対象として,スメクタイトを18%程度含有する1),新潟県上越市の露頭から採取した新第三紀の泥岩を用いました.この露頭は渓床に位置し,さらに採取後の岩石はラップを用いて梱包したため,試験に供するまで岩石はほぼ飽和状態であったと考えられます.
試験の流れを図1に示します.まず,採取した岩石から直径25mm,高さ50mmを標準とする円柱形供試体を作製し,これらを恒温恒湿槽(温度20℃,湿度60%)で乾燥させました.乾燥時間は,異なる飽和度の供試体を用意するため,乾燥なし,1時間,4時間の3通りとしました.その結果,供試体の飽和度は,乾燥なしで約100%,1時間乾燥で約86%,4時間乾燥で約73%となりました2).乾燥後,供試体を72時間浸漬しました.浸漬溶液は純水,1mol/L KCl溶液(1M KCl),2mol/L KCl溶液(2M KCl)の3種類を用いました.乾燥時間と浸漬溶液の各組合せ(表1の9パターン)について,それぞれ3供試体を用いました.浸漬後,超音波パルス透過法によってP波速度を測定した後,一軸圧縮試験を実施しました.ただし,一軸圧縮試験の実施が困難な供試体については針貫入試験を実施し,P波速度または針貫入勾配と一軸圧縮強さとの関係2)から一軸圧縮強さを推定しました.
3.試験結果と考察
3.1 浸漬後の供試体の状態
浸漬後のスレーキング程度の整理結果を表2に,パターン1,4,7,8,9の浸漬後の供試体の例を図2に示します.パターン1では,供試体の外観にほとんど変化がみられませんでした.パターン4,8,9では,供試体に割れ目や上下端部の欠損がみられるものの,概ね円柱形の原形を留めていました.パターン7では,最もスレーキングが顕著で,供試体は多数の小片に分離していました.また,パターン2,3,5,6では,供試体にほとんど変化がみられないか,割れ目や上下端部の欠損が少しみられる程度でした.
3.2 岩石試験の結果
各試験パターンにおける浸漬後の一軸圧縮強さ(3供試体の平均値)を図3に示します.乾燥なしの場合,一軸圧縮強さは平均して2.5~3.0MPaであり,どの溶液に浸漬した場合も乾燥時間が長いほど一軸圧縮強さが低下しました.特にパターン7では,一軸圧縮強さが0MPaにまで低下しました.一方,同じ乾燥時間で比較すると,KClの濃度が高いほど一軸圧縮強さが大きい結果となりました.すなわち,KCl濃度が高いほどスレーキングによる強度低下を抑制できることが確認されました.これらの結果は,概ね目視で確認されたスレーキング程度と同じ傾向でした.また,パターン6に比べてパターン9では一軸圧縮強さが大きく低下していたことから,飽和度73%程度まで乾燥させた場合,その後浸漬する溶液中のKClの濃度を2mol/L程度まで高めても,十分に強度の低下を抑えられていないと考えられます.
4.今後の展望
本試験結果から,KCl溶液にはスメクタイトを含む岩石試料のスレーキングやそれに伴う強度低下を抑制する効果があり,KClの濃度が2mol/L以下の範囲では,濃度が高いほど効果が大きいことが確かめられました.この性質を活用し,スレーキング性を有する軟岩からなる地山にロックボルト用のボーリング孔を削孔する際にKClを含む削孔水を用いることで,孔壁周囲の岩石のスレーキングを抑制できることが期待されます.特に,地山の初期飽和度が低く,削孔水による著しいスレーキングの発生が懸念される場合は,2mol/L程度以上の濃度のKCl溶液がスレーキングの抑制に有効と考えられます.ただし,実現場への導入には,KCl溶液による塩害を考慮した詳細な濃度の設定方法の検討が必要であり,これに関しては今後の検討課題です.
参考文献
1) 西金佑一郎,石田良二,橋本みゆき:各種溶液によるスレーキング抑制効果に関する検討,日本応用地質学会令和6年度研究発表会講演論文集,pp.43-44,2024
2) 久河竜也,西金佑一郎,石田良二,橋本みゆき:塩化カリウム溶液によるスレーキング抑制効果に関する検討,第51回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,pp.297-302,2025
執筆者:防災技術研究部 地質研究室 西金佑一郎
担当者:防災技術研究部 地質研究室 久河竜也
発行者:田中 博文 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:西脇 博也 【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地盤防災研究室】
