施設研究ニュース

2019年1月号

急硬性グラウト材の後充填方式による路盤改良工法の開発

1.はじめに

 軟弱路盤上におけるバラスト軌道の保守量低減には,路盤改良が有効です.路盤改良の実施には4時間程度の施工間合いが必要となりますが,例えば,貨物列車の通過等によって十分な施工間合いが確保できない場合には路盤改良が適用できない場合があります.
 そこで,本研究では短時間合いでも施工が可能な路盤改良工法を開発し,営業線にてその施工性を確認したので報告します.

2.グラウト充填路盤改良工法(後充填方式)の概要

 短時間で路盤改良を施工するために,路盤改良を2段階(路盤置換え作業とグラウト充填作業)に分けて施工するグラウト充填路盤改良工法(後充填方式)を開発しました(図1).以下に,本工法の構築手順を示します.

 -手順1: 施工範囲のまくらぎ,道床及び路盤土を撤去・掘削します.
 -手順2: 掘削範囲(路盤部)に新品バラストを敷き詰め,タンピングランマ等で念入りに締固めます.
 -手順3: 通常の手順で軌道を復旧します.
 -手順4: 後日,充填管よりグラウト材を充填して路盤改良層を構築します.

 本工法で用いた路盤改良材は,既開発のグラウト充填路盤改良工法(同時施工方式)1)に用いた路盤改良材と基本的には同じですが,本工法では充填管からグラウト材を充填するため,グラウト材のゲルタイムを5分程度に遅延させたものを用います.本工法で用いた路盤改良材の一軸圧縮強さは,材齢1日で220kPa,7日で630kPaです.

3.現地試験施工

 営業線における現地試験施工により,本工法の路盤改良効果及び施工性を確認しました.なお,比較対象として,既開発のグラウト充填路盤改良工法(同時施工方式)も併せて実施しました.施工箇所は,R3000m,C25mmの本曲線中です.図2に各路盤改良工法の施工範囲を示します.路盤改良厚は,簡易動的コーン貫入試験で評価した原地盤の剛性を基に,多層弾性解析により決定しました.路盤改良厚は,図3に示す多層弾性解析の結果より,「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物」に記載の砕石路盤と同程度の路盤剛性が得られる300mmとしました.
 本工法の施工状況を図4及び図5に示します.後充填方式②(8.6m)におけるグラウト充填作業は,実掘削範囲から算出した充填計画量(約2900L)に対して実績充填量(約3000L)であり,計画量よりもやや多く充填されたものの,路盤の掘削精度を考慮すると概ね計画通りに施工できたと考えられます.また,充填時間は充填装置1セット(充填性能:約50L/min)で,充填と同時にグラウト材の練り混ぜを行っていたため,約1.5時間程度要しましたが,これについては短縮可能です.
 図6に路盤改良前と施工1ヶ月後,4ヶ月後の高低変位(外軌側)の比較を示します.同図より,問題なく施工できていることを確認しました.施工1ヶ月後に,後充填方式で施工した路盤改良層表面まで掘削して観察したところ,所定の道床厚が確保されており,良好に施工されていることを確認しました.

4.おわりに

 本試験施工より,施工延長8.6mに対して,充填管からのグラウト充填により,後充填方式で路盤改良層の構築を問題なく行えることを確認しました.

<参考文献>

1) 伊藤壱記,桃谷尚嗣,中村貴久,村本勝己:発生バラストを再利用した鉄道路盤の改良工法に関する研究,土木学会論文集E1(舗装工学),Vol68,No.3,2012.

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 伊藤壱記
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 桃谷尚嗣,中村貴久,木次谷一平

数値標高モデルを用いた落石ハザードマップの作成手法

1.はじめに

 落石は,斜面崩壊や土石流などの他の土砂災害とは異なり,降雨や地震により発生するとは限らず,また発生の兆候がほとんどわからないことから,その発生を予測することが困難な災害です.鉄道では,あらかじめ定められた基準値を超過する降雨,風速,地震等を観測した場合に列車の運行を規制する「運転規制」が導入されていますが,落石には前述のような特徴があり,運転規制のみで落石災害を防ぐことは難しいと言えます.このため,沿線の斜面において落石の発生が懸念される箇所の調査を行い,必要に応じた措置を講じることが重要です.

2.落石の調査と数値標高モデル

 落石の調査では,①空中写真や地形図をもとに斜面の大まかな状況(とくに露岩(図1)の有無など)を把握した後,②対象とする斜面について現地踏査を行い,落石の発生源の位置や規模を把握し,落下する可能性がある岩塊の大きさや,岩塊が落下した場合の経路,線路への落石の到達の可能性を推定します.しかし,鉄道沿線には多数の斜面が存在し,落石の発生源となる露岩や転石も非常に多く分布しているため,これらのすべてを調査するのは容易ではありません.
 一方で,近年の航空測量技術の進歩により,地形の詳細な形状を表現することができるようになりました.例えば,テレビ番組や書籍で,地形を赤色で立体的に表した地図(赤色立体地図1) )をご覧になったことがある方もいらっしゃるでしょう.このような地図を作るための基になるのが,「数値標高モデル(Digital Elevation Model;DEM)」という地面の標高の値をメッシュ状に配列した数値データです.この「数値標高モデル」を用いることで,従来は空中写真や地形図を用いて手作業で行っていた地形の特徴を定量化する作業(地形計測と言います)をコンピュータ上で簡易に行うことが可能になります.また詳細な地形を可視化できるため,現地踏査の際に用いる基図として有用です.
 今回紹介する落石ハザードマップ作成手法では,この「数値標高モデル」を入力すれば,落石の発生源を抽出し,線路への到達確率を求め,ハザードマップを出力するまでを自動的に実行できます.

3.数値標高モデルを用いた落石ハザードマップの作成手法

 落石ハザードマップ作成の流れを図2に示します.処理は大きく2つに分かれます.はじめに行うのは,落石の発生源となりうる露岩の抽出です.本手法では,斜面の傾斜が50度以上,かつ,斜面の形状が凸状である場所を「露岩」として定義しており,これらを1mメッシュのDEMを用いて計算し,露岩が分布すると推定される箇所を抽出します.次に行うのは,落石が線路へ到達する確率の計算です.まず,前述の手順で抽出された露岩から岩塊が落下した場合にたどると推定される落下経路を求めます.この落下経路上で2次元の地形断面図を作成し,既往の落石シミュレーション2) を行い,線路への落石の到達確率を求めます.このようにして求めた露岩,落下経路,線路への落石の到達確率を地形図上に表示し,落石ハザードマップとして出力します(図3).

4.おわりに

 本手法では,数十平方キロメートルにおよぶ広範囲であっても,数時間~数日程度で露岩の抽出から落石の到達確率までを計算し,ハザードマップを出力することが可能です.このハザードマップは,詳細な調査が必要な斜面を絞り込むというスクリーニング用の資料として利用するのに適していると考えています.すなわち,露岩がまとまって分布すると推定され,かつ線路への落石の到達確率が高い箇所について現地踏査を行い,落石の可能性や対策の必要性の検討を行う,という利用方法です.一方で,簡略な条件で露岩を抽出しているため誤抽出が避けられないこと,落下経路と到達確率はある条件の下で解析した結果であること,一般に公開や市販がなされていない1mメッシュのDEMを用いる必要があるなど,課題もあります.今後は出力結果の精度検証を行うとともに,解析手法の高度化を検討します.

<参考文献>

1) 千葉達朗,鈴木雄介,平松孝晋:地形表現手法の諸問題と赤色立体地図,地図,Vol.45,No.1,pp.27-36,2007
2) 吉田博,右城猛,桝谷浩,藤井智弘:斜面性状を考慮した落石覆工の衝撃荷重の評価,構造工学論文集,Vol.37A,pp.1603-1616,1991

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 長谷川 淳
担当者:防災技術研究部 地質研究室(現:構造物技術研究部 トンネル研究室)浦越 拓野

梁部材の有無が鉄道ラーメン高架橋の地震時挙動に及ぼす影響

1.はじめに

 2016年熊本地震では,鉄道構造物の柱や梁等の主要部材に大きな損傷はありませんでしたが,2基のラーメン高架橋が隣接する区間において,両構造物の損傷程度が異なる事例がありました.両者の構造諸元を比較した結果,線路方向における地中梁の有無という構造的な違いがあり,この差に伴う地震時挙動の違いによって損傷程度に差が生じた可能性が考えられました.そこで本研究では,熊本地震での被害事例をもとに,地中梁の有無が構造物の地震時挙動に及ぼす影響について評価しました.

2.対象構造物の概要とモデル化

 隣接する区間で損傷程度に差が生じたラーメン高架橋2基を対象構造物としました(図1).いずれも平成11年の設計標準に準拠して耐震設計されています.線路直角方向・線路方向ともに地中梁があるラーメン高架橋(構造物A)では目立った損傷が見られなかった一方,線路方向のみに地中梁の無いラーメン高架橋(構造物B)では,柱にひび割れや浮き程度の軽微な損傷が確認されました.
 そこで地中梁の有無に着目して,損傷程度に差が生じた要因を明らかにするために,線路方向について図2に示す2次元のフレームモデルを構築しました.部材や基礎の地盤抵抗のモデル化は現行の設計標準1), 2)に準拠しました.また,モデル化には一体型モデルと呼ばれ,地盤と構造物の相互作用を自動的に考慮できるモデルを用いています.地盤条件は両構造物で同一としました.構築したモデルを用いた数値解析により,振動特性とモーメント分布に着目した比較を行いました.

3.熊本地震における地震時挙動の比較

3.1 振動特性の比較

 まず,固有値解析およびプッシュ・オーバー解析を実施し,振動特性を比較しました.固有値解析による水平1次の固有周期は,構造物Aで0.51秒,構造物Bで0.59秒でした.また,プッシュ・オーバー解析による構造物天端の水平震度-水平変位関係を図3に示します.柱の降伏点での水平震度はどちらも0.5程度とほぼ等しい一方,降伏時の水平変位は構造物Aで81mm,構造物Bで147mmと大きく異なります.その結果,降伏点での割線剛性から算定した固有周期は構造物Aで0.8秒,構造物Bで1.0秒となります.以上より,両構造物は柱の降伏する水平震度がほぼ等しいものの,弾性時・降伏時の固有周期は構造物Bの方が大きいことが分かりました.
 次に,両構造物に対して地震応答解析を実施しました.入力地震動は,構造物付近で観測された地表面波形を等価線形化法により耐震設計上の基盤面に引き戻したものを用い,基盤入力としました.
 応答が最大となった柱上端のモーメント-曲率関係の履歴を図4に示し,地震動の卓越周期と構造物の周期帯の比較を図5に示します.図4より,構造物Aでは軸方向鉄筋が降伏しない程度の応答ですが,構造物Bでは鉄筋が塑性化するまで応答が進展しています.両者の応答の大小関係は実構造物で確認された損傷の大小関係と整合しています.これは図5に示すように,本検討で対象とした構造物・地震動では,地中梁の無い構造物Bの方が固有周期が地震動の卓越周期と近く,より大きな慣性力が生じたためです.以上より,両構造物の振動特性が異なったことが損傷程度に差が生じた一要因と考えられます.

3.2 地盤変位が応答に及ぼす影響の比較

 モーメント分布に着目して,両構造物に対する地盤変位の影響について比較しました.そこで,構築したモデル(全体系モデル)に対して高架橋を無質量として,慣性力が生じないモデル(地盤系モデル)を構築して動的解析を実施しました.地盤系モデルで生じる応答は地盤変位のみに起因すると考えます.
 各モデルの最大曲げモーメント分布を図6に示します.なお,本検討はモーメント分布形状の相対的な比較が目的なため,各モデルの最大値で正規化しています.地盤系モデルについて比較すると,構造物Aは地中梁位置で柱~杭のモーメント分布が不連続となり,柱にモーメントが生じていない一方,構造物Bは柱~杭で連続的に分布しています.以上より,地中梁が無い構造物Bでは地盤変位によるモーメントが柱にまで影響するため,この点も損傷程度に差が生じた要因であったと考えられます.

4.おわりに

 熊本地震を事例として,梁部材の有無がラーメン高架橋の地震時挙動に及ぼす影響について検討しました.その結果,対象とした構造物および地震動では,地中梁の有無に伴う振動特性,地盤変位による影響程度の両者の差によって損傷程度が異なる可能性を示しました.

<参考文献>

1) (公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震設計),丸善出版,2012
2) (公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(基礎構造物),丸善出版,2012

執筆者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 小野寺周
担当者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 和田一範,山田聖治