第347回 鉄道総研月例発表会

日時 2021年05月17日(月) から
場所 ウェブ配信(視聴無料)
主題 軌道技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容


軌道技術に関する最近の話題

持続可能な鉄道のためには、メンテナンスの省人化や低コスト化を強力に進めていく必要がある。鉄道総研ではRESEARCH2025がスタートし、デジタル技術を活用した取り組みや、そしてそれを支えるための現象解明など、様々な視点から研究開発を進めている。ここでは最近の軌道に関する研究開発の取り組み状況について紹介する。また、軌道関連の国際規格も取り扱う件数が増えてきており、それの進展状況について報告する。

発表者
軌道技術研究部長 片岡 宏夫


破砕・細粒化過程を考慮した経年バラストの粒度推定手法

バラスト軌道に用いられるバラストは列車荷重やつき固め補修の繰返し作用により破砕・細粒化し、粒度分布が変化する。一般的に経年したバラストほど軌道沈下が増加しやすくなるが、バラストの破砕・細粒化過程はこれまでに十分に解明されていない。そこで、経年したバラストの現地調査により粒度分布を把握し、要素試験によりバラストの破砕・細粒化の要因を考慮した粒度分布の推定手法を開発したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 主任研究員 中村 貴久


既設線省力化軌道用路盤改良の設計方法および試験施工

バラスト軌道における保守コストの省力化を目的に、バラスト道床を構成する砕石の隙間にセメント系の固化材をてん充した既設線省力化軌道が開発され、首都圏を中心に敷設されている。これにより、保守コストは大幅に削減されたが、一部の軟弱な路盤上に敷設された既設線省力化軌道では、敷設から数年で補修が必要となる場合がある。そこで、軟弱な路盤上に敷設する既設線省力化軌道を対象に、「あとてん充方式」のグラウト充填路盤改良工法を開発した。本工法の概要、設計方法および現地試験施工について紹介する。
 鉄道総研報告 Vol.34 No.4 「既設線省力化軌道と同時に施工可能な路盤改良工法の開発」

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 副主任研究員 伊藤 壱記


スラブ軌道てん充層の劣化進展予測

一部のスラブ軌道のてん充層ではCAモルタルに劣化が生じており、定期検査に基づいて補修が行われている。一方、スラブ軌道を長期にわたって使用していくため、将来補修が必要となる可能性があるてん充層に対して、計画的に補修することが求められている。そのため、てん充層の劣化を予測し、補修の対象となるてん充層を選定する必要がある。そこで、CAモルタルに対する複合劣化試験(凍結融解試験および圧縮疲労試験)を実施し、得られた結果に基づいて、てん充層の劣化進展を予測する方法を提案したので紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 主任研究員 高橋 貴蔵


腐食したレール締結装置の余寿命推定

レール締結装置はその敷設数が多く、また、取り替えが比較的容易であることから、基本的には永久構造物ではなく取り替え可能な部品として設計されている。一方、トンネル等の腐食環境下では、レール締結装置の腐食が進行することによる部材強度および寿命の低下が懸念されるため、その敷設環境状況を考慮した耐用年数を検討しておくことが重要である。本件では、著しい腐食環境下に敷設されているレール締結装置について、主要部材である締結ばねを対象とし腐食の程度に応じた余寿命を推定したので紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 研究員 太田 晋一


鉄道設備のデジタルメンテナンスを推進する次世代LABOCS

鉄道設備管理のため、軌道や土木、電力、信号等のそれぞれの分野で、台帳データや検査データといった多様なデジタルデータが記録・管理されている。これらのデータを、分野を跨いで一元的に管理することで、鉄道設備全体としてのメンテナンス効率化が期待される。そこで、現在、軌道保守管理データベースシステム(LABOCS)をベースに、多様なデータを一元的に管理できる次世代LABOCSの開発を進めているので、その開発経過を報告する。
 鉄道総研報告 Vol.35 No.4 「キロ程ベースでの位置情報一元化による鉄道設備統合管理システム」

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 副主任研究員 吉田 尚史


列車巡視の省力化のための線路周辺画像解析エンジンの開発

線路の保守状態や線路周辺環境の変化等を総合的に把握することを目的として、徒歩または列車に添乗して線路巡視が行われているが、従事員の減少や設備の老朽化を背景として、巡視等業務の省力化・効率化と線路設備の安全確保の両立が求められている。これらに対して、営業車等の先頭に設置したステレオカメラで取得した画像を解析して列車巡視業務を支援するための技術開発を進めている。ここでは、列車巡視支援のための基礎技術として開発した線路周辺画像解析エンジンと鉄道事業者における導入例について紹介する。
 鉄道総研報告 Vol.33 No.2 「画像解析技術を活用した軌道のリスクベースメンテナンス法の開発」
 RRR Vol.76 No.11 「線路沿線画像を軌道の保守・管理に活用する」

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室長 三和 雅史


列車前方画像を用いた遊間・木まくらぎ検査システムの開発

遊間や木まくらぎ検査は、保線技術者が現地にて目視、計測器による測定等を行うため、多くの労力が必要となる。一方で、検査を自動化する場合、高額な検査装置はコストの負担が大きく、簡易かつ低コストの検査手法が求められる。そこで、4K以上の解像度を有するビデオカメラを用いて列車前方より撮影した画像から、遊間量や木まくらぎの劣化度をAI技術を用いて測定及び判定するシステムを開発した。本発表では、システムの概要と現地試験から得られた判定精度について報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 研究員 糸井 謙介


テルミット溶接部の曲げ疲労強度向上方法の開発

テルミット溶接法は東海道新幹線開業当初に、曲げ疲労強度の低い国産溶接部が多数損傷し、それ以降、新幹線軌道への適用が制限されている。一方、現在新幹線の現場溶接法として適用されているガス圧接法はレール移動を伴うため適用に制限があり、エンクローズアーク溶接法では、技術者不足の課題に直面している。そこで、テルミット溶接法の新幹線の高速区間への導入を目標として、曲げ疲労強度を向上させて疲労破壊に対する余裕度を持たせるための施工方法を開発したので紹介する。
 鉄道総研報告 Vol.35 No.4 「曲げ疲労強度の向上が可能なテルミット溶接工法の開発」

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 主任研究員 寺下 善弘


レールガス圧接の加熱変形解析モデルの構築

レールガス圧接法は日本国内の主要なレール溶接法であるが、未だに押抜き割れなどの溶接不良が生じ、レール折損等の原因となっている。ガス圧接部の接合強度は部材の変形量に依存するが、これらは接合条件である圧縮量、加圧力および加圧タイミングによって大きく異なり、これらの因子が接合部への変形挙動に与える影響について定量的に評価されていない。そこで、本研究では、ガス圧接部の加熱変形解析モデルを構築し、変形状況と接合強度の関係について定量的に把握したので報告する。
 鉄道総研報告 Vol.30 No.10 「レールガス圧接施工プロセスの脱技能化」
 RRR Vol.74 No.9 「来し方行く末 レールのガス圧接」

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 副主任研究員 伊藤 太初


騒音の左右差を用いたレール破断検知手法

無線式列車制御による信号システムの導入が進み、軌道回路によらないレール破断検知手法が求められている。車上式のレール破断検知手法については台車装荷の空中超音波や軸箱加速度を用いる方法などを提案しているが、車体装荷のセンサでレール破断を検知できれば設置・管理の上でより簡便なシステムを構築できる。そこで、車体装荷のマイクを用いて車上騒音によりレール破断を検知する手法を提案したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 研究員 相澤 宏行


構造物境界部における縦まくらぎによる軌道変位抑制効果

PCまくらぎに関する現地測定および数値解析を実施し、設計変動輪重係数として、一般部では2.0が妥当であることを実証するとともに、通勤車両のみの走行線区では1.6を提案した。これらに基づき、各種性能試験を踏まえ、在来線一般部用の縦まくらぎを開発し、営業線の開渠前後の構造物境界部に敷設した。1年間経過観察の結果、3号PCまくらぎに比べて縦まくらぎにより動的あおり量や高低変位が2/3程度に抑制されることを実証したので報告する。
 鉄道総研報告 Vol.32 No.6 「荷重環境の実態調査に基づく低廉な縦まくらぎの開発」

発表者
鉄道力学研究部 軌道力学研究室 主任研究員 渡辺 勉


レール頭頂面黒色皮膜の形成におよぼす環境的要因の影響

一部の山間線区において、レール頭頂面上に落葉が原因と推定される黒色皮膜が形成され、車輪の空転・滑走を引き起こすことが知られている。そこで、過去に車輪の空転・滑走が発生した線区のうち、沿線環境や列車運行条件が異なる数線区を選定し、落葉時期に黒色皮膜および沿線環境の調査を実施した。その結果、レール頭頂面の黒色皮膜形成には沿線樹木の種類、天候および列車運行頻度等の要因が影響をおよぼすことが明らかになったので報告する。
 RRR Vol.76 No.5 「落葉による車輪の空転・滑走メカニズムを解明する」

発表者
材料技術研究部 潤滑材料研究室 主任研究員 鈴村 淳一