第370回 鉄道総研月例発表会
日時 | 2024年11月21日(木) 13:00~17:10 |
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場所 | 日本工業倶楽部会館2階 大会堂 |
主題 | 車両技術に関する最近の研究開発 |
プログラムと発表内容
鉄道総研における車両に関する研究開発は、車両技術研究部、材料技術研究部、鉄道力学研究部の三研究部が主に担っており、安全性の向上を中心に、環境との調和、低コスト化、利便性の向上を目指して研究開発に取り組んでいる。ここでは、最近の車両関係の研究開発の取り組み全体を概観するとともに、主な成果について紹介する。
<参考文献>
・瀧上唯夫:鉄道総研の研究開発最前線 車両技術研究部,RRR,Vol.81,No.4,pp.3-6,2024
- 発表者
- 車両技術研究部長 瀧上 唯夫
車両の走行安全性評価では、車輪・レール間に作用する左右方向の力(横圧)と上下方向の力(輪重)を、ひずみゲージを多数貼付した輪軸を用いて測定する。本研究では、現行の車輪曲げひずみを用いた測定法よりも横圧の測定精度が向上する「せん断ひずみを活用した横圧測定法」、およびこれを応用した車輪・レール間の接触位置測定法を開発したので報告する。
<参考文献>
・本堂貴敏,國行翔哉,田中隆之,鈴木貢:輪重測定用孔内部のせん断ひずみを活用したPQ輪軸による横圧測定法,鉄道総研報告,Vol.35,No.9,pp.11-16,2021
・本堂貴敏:車輪板部のせん断ひずみを活用したPQ輪軸の転走試験,鉄道総研報告,Vol.37,No.2,pp.1-6,2023
・本堂貴敏:車輪とレールの間に作用する力を測定する,RRR,Vol.81,No.5,pp.34-39,2024
- 発表者
- 鉄道力学研究部 車両力学研究室 主任研究員 本堂 貴敏
高層ビル周辺では、局所的に強い風が吹く、いわゆるビル風が発生することが知られているが、その近傍を列車が走行する際の安全性評価手法は確立されていない。そこで、局所的な強風による車両の転覆に対する走行安全性評価手法を提案したので報告する。本手法は、高層ビル周辺やトンネル坑口、防風柵の切れ目等、局所的な強風が想定される場所における走行安全性評価や効果的な強風対策(速度規制や防風柵設置)の検討に利用することができる。
- 発表者
- 鉄道力学研究部 車両力学研究室 主任研究員 金元 啓幸
本研究では、地震時における脱線後までの車両挙動を評価可能な解析手法を確立することを目的に、その基礎検討として、停止車両を対象とした脱線前後の一連の車両挙動を表現可能な解析手法を提案した。また、本手法に車両間の連結構造の力学モデルを考慮することで複数車両の連結を可能とし、編成車両としての挙動を表現可能な手法に拡張した。さらに、試計算により車両間の相互作用が地震時車両挙動に及ぼす影響を検討したので報告する。
<参考文献>
・後藤恵一,飯田浩平,徳永宗正:脱線後までを考慮した編成車両の地震時挙動の解析手法,鉄道総研報告,Vol.38,No.9,pp.1-8,2024
- 発表者
- 鉄道力学研究部 構造力学研究室 主任研究員 後藤 恵一
鉄道車両用材料の中でも可燃物量が大きい旅客用腰掛の更なる難燃性の向上を目的として、従来の難燃剤よりも難燃性が高く、燃焼時に有毒なガスを発生させにくい、発泡系難燃剤の旅客用腰掛への適用を検討した。本検討では、旅客用腰掛の中でも最も可燃物量の大きい腰掛詰物に対して、発泡系難燃剤を配合した樹脂板を挿入した試験片を製作し、燃焼性試験を実施した。その結果、発泡系難燃剤を配合した樹脂板の挿入により、腰掛詰物の燃焼を抑制できることが確認された。
<参考文献>
・豊原匡志,山中翔,伊藤幹彌:イントメッセント系難燃剤を用いた鉄道車両用腰掛材料の難燃性向上,鉄道総研報告,Vol.37,No.7,pp.1-7,2024
- 発表者
- 材料技術研究部 防振材料研究室 副主任研究員 山中 翔
圧電素子は、振動などによる荷重の変動を受けた際に電気信号を発生させる特性がある。この特性を利用して、鉄道車両台車の車軸軸受を封入する軸箱上に設置される軸ばね防振ゴムに圧電素子を内蔵させることで、車軸軸受の損傷に起因する異常振動を検知する手法を検討した。本手法では、車軸軸受の損傷に起因して発生する圧電素子からの電力によって無線の送信機を駆動させる。これにより、損傷の発生を通知可能な車軸軸受損傷検知システムを作製したので報告する。
- 発表者
- 材料技術研究部 防振材料研究室 副主任研究員 太田 達哉
油浴潤滑方式を採用している新幹線電車用車軸軸受では、近年の新幹線網の寒冷地への拡大にともない、軸受内における油膜切れや焼付きを防止する観点から、現行油よりも低温流動性に優れる潤滑油が求められている。そこで、基油と添加剤の組成検討を行い、現行油と比べて低温流動性を向上させた車軸軸受油を開発した。本発表では、開発油の概要および実物の車軸軸受を用いた台上耐久試験結果等について報告する。
- 発表者
- 材料技術研究部 潤滑材料研究室 副主任研究員 生駒 一樹
鉄道車両のブレーキ摩擦材の摩擦・摩耗特性は、一般的には実物大台上試験により評価されるが膨大な労力と時間を要する。摩擦・摩耗特性にかかわる摩擦材の物性を小試験片から定量的に評価できれば、最も長い時間を要する材料選択の期間を大幅に短縮することが期待できる。そこで、小試験片表層の微小領域の切削力や異種界面の剥離強度を分析可能な表面・界面物性解析装置に着目し、新幹線用ブレーキ摩擦材に使用されている銅系焼結合金摩擦材を対象に材料強度を分析したので報告する。
<参考文献>
・西森久宜,狩野泰,阪井章悟,辻貴史:銅系焼結合金摩擦材の基材耐熱性が摩擦係数に与える影響評価手法,鉄道総研報告,Vol.35,No.8,pp.5-10,2024
- 発表者
- 車両技術研究部 ブレーキシステム研究室 副主任研究員 西森 久宜
踏面研摩子のフランジ側側面に固体潤滑材を一体成形することで、車輪フランジ部の摩耗低減と踏面部の増粘着を両立させる新しい踏面摩擦材(踏面調整子)を開発した。踏面調整子は踏面清掃装置によって垂直方向に作用することから、車輪径が変化した際の位置調整が不要で、摩耗率は増粘着研磨子と同等であった。塗油などが適用できない振子特急車両に搭載した結果、非搭載編成と比較して約40%車輪フランジの摩耗率が低下した。また、車輪フランジ部表面の摩擦係数の低下を確認した。
- 発表者
- 材料技術研究部 摩擦材料研究室長 半田 和行
新幹線等の高速車両では、車内の快適性向上の観点から車内騒音の低減が求められている。様々な騒音低減対策が検討されているが、その効果を事前に見積もるには車内騒音の予測が有効である。そこで、振動スピーカーを用いた簡易な実験による車内騒音予測手法を検討した。この手法は、シミュレーションモデルや詳細な模型を用いないため、技能や経験に左右されず予測を行えるといったメリットがある。本発表では、実車体を使って本予測手法を検証した結果について報告する。
- 発表者
- 車両技術研究部 車両振動研究室 研究員 槇田 耕伸
鉄道用駆動装置の歯車は、従来は歯形修正により歯車かみ合い振動を抑制して低騒音化を図っているが、歯形加工コストが増加する欠点がある。そこで、歯形修正を行わず鋳鉄の振動減衰性等を生かして低騒音化を実現する手法の開発を進めている。鋳鉄は鍛造工程を省略できるメリットもありコスト低減が期待できる。トップレベルの強度を持つ高強度球状黒鉛鋳鉄の鋳放し材に合金元素を添加し、ガス窒化処理により耐久性を向上して実用強度に目途を得た鉄道用歯車について、台上試験による騒音性能等、開発状況を報告する。
- 発表者
- 車両技術研究部 駆動システム研究室 主任研究員 笹倉 実
鉄道用ディーゼル車両においては、現在使用している軽油を次世代バイオディーゼル燃料に変更することで、カーボンニュートラルを達成できる可能性がある。そこで、本研究では、次世代バイオディーゼル燃料である炭化水素系バイオ燃料を対象とし、液体式ディーゼル車両と電気式ディーゼル車両を用いて、季節ごとに走行試験を実施し、燃費、排ガス等のエンジン性能を確認したので報告する。
<参考文献>
・高重達郎,奥野敬太:ディーゼルエンジン用バイオ燃料の現状,RRR,Vol.80,No.4,pp.50-55,2023
- 発表者
- 車両技術研究部 駆動システム研究室 主任研究員 高重 達郎
※本発表会の資料の著作権は鉄道総研に帰属します。
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