離線アークが集電材料に及ぼす影響の解明と対策

電車が走行するための電力は、トロリ線からパンタグラフすり板を介して供給されます。電力を安定して車両へ供給できるように、トロリ線を含む電車線の構造やパンタグラフの構造が研究されています。しかし、電車の速度増加にともない、わずかなトロリ線の凹凸にパンタグラフが追随できなくなり、トロリ線とパンタグラフすり板間でアーク放電が発生します(図1)。また、これ以外にもトロリ線の表面に異物が介在している場合や何らかの原因でトロリ線からパンタグラフすり板が離れる場合にもアーク放電が発生します。
アーク放電が発生しても電車への電力供給は継続されますが、その発生量の増加とともにトロリ線やすり板の摩耗が早くなることがわかっています。また、アーク放電が継続してしまうと、トロリ線に大きなダメージを与えてしまいます。

トロリ線やパンタグラフすり板のアーク放電による摩耗がどのようなパラメータ(電車の電流、速度、パンタグラフすり板のトロリ線への押付力など)に支配されているのかは、現在も研究が進められていますが、溶融ブリッジの影響が大きいことがわかってきました。
また、アーク放電の継続とトロリ線の断線に関してもトロリ線の種類と許容アーク電流値の関係が明らかになりつつあります。

トロリ線とパンタグラフすり板間で発生するアーク放電現象に着目して、アーク放電がトロリ線やすり板の摩耗に及ぼす影響、アーク放電発生時に放出されるアーク光(陽光柱からの光)のスペクトルの解析、アーク放電の検出装置の開発などの研究や開発も進めています。研究の一例として、図2にアーク放電がすり板に及ぼす影響を、高速度カメラを用いて解析した際の写真を示します。

トロリ線は張力が印加されており、トロリ線の温度が上昇すると軟化が始まり、最終的にその張力に耐えられなくなり断線します。したがって、高温のアーク放電がトロリ線の1点で継続して発生すると、トロリ線は断線します。
アーク放電を速やかに消す(消弧という)ためには、トロリ線とすり板の離線状態を何らかの方法で解消することが考えられます。そこで、電車線の構造に工夫を施し、アーク放電でトロリ線の軟化が始まった際にトロリ線とすり板の間に生じた間隙を解消する構造を開発しました(図3)。
図3のようにトロリ線に金具を介して保護線を架設します。このような構造にすることで、トロリ線が軟化した際に、金具に回転力が加わり、トロリ線とすり板の隙間を埋めてアーク放電を消弧することができます。このような構造を、2組の電車線が架設されているエアセクションと呼ばれる箇所で導入し、トロリ線の断線を防ぐ方法を提案しています(AS複合架線)。

ここで紹介した研究開発の他に、紫外線検出式離線測定装置の開発、許容アーク電流値の算出手法の研究なども進めています。詳しくは参考文献をご確認ください。

参考文献

  1. 早坂高雅、久保田喜雄:開離時アーク放電が集電系材料の質量と表面状態に及ぼす影響, 電気学会論文誌D部門, Vo.132, No.2, pp.163-169(2012)
  2. 早坂高雅、清水政利、赤木泰文:離線アーク光の検出を目的とした波長変換ユニットの開発, 電気学会論文誌D部門, Vol.134, No. 6, pp. 618-624(2014)
  3. 早坂高雅、赤木泰文:開離時アーク放電がトロリ線表面に及ぼす影響, 電気学会論文誌D部門, Vol.135, No.4, pp.327-337(2015)
  4. 早坂高雅、清水政利、赤木泰文:An Estimation Method of Contact Strips Wear by Measurement of Arc Light, J. Rail and Rapid Transit, Vol. 230, No.4, pp.1227-1233(2016)
  5. 和田祥吾、早坂 高雅:交流アークによるトロリ線の連続許容アーク電流値の導出手法, 電気学会論文誌D部門, Vol. 140, No.11, pp.834-840(2020)
  6. 伊東 和彦、和田祥吾、早坂 高雅、宮口浩一、川原敬冶、前田佳伸:エアセクションにおけるトロリ線断線対策用複合架線の開発,電気学会論文誌D, Vol.140 No.6 pp.424-432 2020」
  7. 近藤 優一、和田 祥吾、早坂 高雅、伊東 和彦:複合架線によるエアセクション箇所のトロリ線断線対策の提案,鉄道総研報告,Vol.34 No.9 2020」