アルミニウム合金製電車線柱の耐震設計

電車線柱(以下、電柱)には、一般的にコンクリート柱と鋼管柱が使用されています。コンクリート柱は、省メンテナンスですが、質量が大きいことから、施工に必要な重機が大型になるなどの課題があります。一方で、鋼管柱は、コンクリート柱に比べて軽量ではあるものの、腐食を防止するための塗装が定期的に必要となり、メンテナンスに手間がかかります。これらに対して、アルミニウム合金は軽量かつ耐腐食性が高いため、電柱に適用することで、施工性や保守性の向上が期待されています(表1)。 電柱は、地震による倒壊や列車の走行空間への支障を防ぐため、一般に「電車線路設備耐震設計指針・同解説」(以下、耐震設計指針)に基づいて耐震設計が実施されます。しかしながら、アルミニウム合金製の電柱(以下、アルミ柱)は、耐震設計に必要な設計情報が十分ではありませんでした。具体的には、固有周期の補正乗率、曲げモーメントの限界値、加速度応答スペクトルの三つです。これらの設計情報について提案しました。

アルミ柱はコンクリート柱や鋼管柱に比べて軽量であるため、電柱に取り付けられた線条や金具など(以下、添架物)の質量による固有周期への影響が大きくなると推定されます。そこで、添架物によるアルミ柱の固有周期増加率を理論計算によって算出し、鉄道総研構内に建植したアルミ柱(図1)の振動実験結果と比較しました(図2)。その結果、理論計算による計算結果は実験結果と近い値となり、理論計算の妥当性が確認されました。そこで、理論計算に基づいて添架物が固有周期に与える影響を補正する乗率の計算式(固有周期補正乗率式)を提案しました(図3)。なお、固有周期補正乗率式は、素材に関わらずコンクリート柱や鋼管柱にも適用できます。

コンクリート柱や鋼管柱では、耐震設計における曲げモーメントの限界値は設計値の2倍とされています。この限界値と地震時に発生する電柱の曲げモーメントを比較することにより安全性を評価します。コンクリート柱の場合には、曲げモーメントの限界値に至る前にひび割れの発生によって剛性が低下するため、その影響を補正してコンクリート柱の固有周期を算定しています。なお、鋼管柱は曲げモーメントの限界値まで剛性が低下しないため、この補正は行いません。 アルミ柱は、曲げモーメントの限界値が定まっておらず、それまでの荷重-変位特性も不明でした。そこで、6000系アルミニウム合金を素材とするアルミ柱の交番載荷実験を行い、アルミ柱の地際モーメントと変位の関係を得ることとしました(図4)。その結果、設計値の2.3倍程度まで地際モーメントと載荷点変位の関係は線形であり、設計値の2.9倍程度の荷重が加わると、荷重が頭打ちとなって変位量が大きくなる傾向となりました。この結果より、鋼管柱と同様に、アルミ柱の曲げモーメントの限界値は設計値の2倍とし、剛性低下を考慮した固有周期の補正は不要としてよいと判断しました。

耐震設計指針には、アルミ柱の応答加速度を簡便に推定できる加速度応答スペクトルが示されていません。そこで、アルミ柱と類似した構造のアルミ合金製照明ポールの減衰比0.01を用いてアルミ柱の加速度応答スペクトルを作成しました(図5)。

以上により、耐震設計指針に基づいたアルミ柱の耐震設計が可能となります。ただし、6000系以外のアルミニウム合金を素材とする場合には、別途、検討する必要があることに留意が必要です。

参考文献

  1. 鉄道総合技術研究所:電車線路設備耐震設計指針・同解説、鉄道技術推進センター、2019

※鉄道技術推進センター会員ページからダウンロード可能です。