第329回 鉄道総研月例発表会
日時 | 2019年04月17日(水) 13:30〜17:00 |
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場所 | 東京 日本工業俱楽部 大会堂 |
主題 | 軌道技術に関する最近の研究開発 |
プログラムと発表内容
(関係研究部 軌道技術研究部 材料技術研究部 鉄道国際規格センター)
鉄道総研では、持続可能な線路の実現に向けて、
・軌道メンテナンスの省力化・自動化
・地域鉄道の維持管理コスト低減
・レールの維持管理
に注力し、研究開発を進めている。本報告では、上記に基づいて進行中の最近の研究開発の概要を紹介する。
- 発表者
- 軌道技術研究部 部長 片岡 宏夫
地域鉄道には、少ない改良費で効果の高い軌道構造強化策が必要である。ロングレール化は継目の除去により保守費を削減できるため、費用対効果が高いが、現状の構造は基幹線区向けであるために高価であり、低廉な構造の開発が必要となる。しかし、低廉軌きょうを用いてロングレール化する手法が確立されていない。そこで、本研究では木まくらぎ定尺区間の一部をPCまくらぎに交換してロングレール化する軌道構造を開発した結果を報告する。
- 発表者
- 軌道技術研究部 軌道構造研究室 副主任研究員 西宮 裕騎
地域鉄道のバラスト軌道においてロングレール化するため、まくらぎ3本に1本をPCまくらぎ化した軌道条件を検討しているが、ロングレール化にあたっては必要な道床横抵抗力を確保することが不可欠である。そこで、経年により細粒土が混入したバラスト軌道の道床横抵抗力の特性を評価した上で道床横抵抗力を増強する方法を検討し、低コストで道床横抵抗力の増強する方法として、PCまくらぎ化した箇所の道床肩部をセメント安定処理する方法を開発したので報告する。
- 発表者
- 軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 副主任研究員 伊藤 壱記
2018年は40℃を超える猛暑を記録する等、近年は気温が上昇傾向にある。鉄道総研では、レール温度管理の精度向上を実現する技術として、地理・気象データを活用したレール温度予測システムの開発を進めている。これは、建物の影やレールと太陽の位置関係、気温・風速・湿度等の気象条件からレール温度の経時変化を場所毎に連続して推定し、レール温度予測マップを作成するものである。本発表では、本システムの概要を紹介するとともに、レール温度を実測し、予測精度の検証を行った結果について報告する。
- 発表者
- 鉄道力学研究部 軌道力学研究室 副主任研究員 浦川 文寛
日本で線ばね形レール締結装置が導入されて30年が経過し、現在スラブ軌道や弾性直結軌道といった直結系軌道でも使用されているが、レールのふく進抵抗力を十分考慮しない設計を行うと橋梁の支承を破壊する等の問題を生じる恐れがある。また、弾性直結軌道で軌道支持ばねを低下させた場合、軌道構造設計標準に基づく性能照査を満足せず走行安全性に問題が生じる可能性がある。そこで、レール締結装置の特性の観点から、直結系軌道に線ばね形レール締結装置を適用する際の設計上の留意点を紹介する。
鉄道総研 施設研究ニュース No.343 「S型弾性直結軌道用の線ばね形レール締結装置の検討」
- 発表者
- 軌道技術研究部 軌道構造研究室 主任研究員 弟子丸 将
近年、線ばね形レール締結装置を敷設した軌道において、線ばねクリップの折損が報告されている。折損事例は沿岸部やトンネル内などの腐食性の高い環境で多い傾向にあることから、線ばねクリップの腐食に伴う断面積の減少が折損要因の一つとして挙げられる。そこで、線ばねクリップに適用可能な、長期防食性の期待できる表面材料を提案した。また、対策品を営業線に敷設し追跡調査を行った。本発表では、これらの概要について報告する。
鉄道総研報告 Vol.26 No.2 「腐食環境における線ばね形レール締結装置の表面処理方法の選定」
- 発表者
- 材料技術研究部 防振材料研究室 主任研究員 坂本 達朗
新幹線が高速で通過する分岐器には、高マンガン鋼製のノーズ可動クロッシングが使用されているが、高マンガン鋼は超音波による内部の探傷検査が困難なことから、定期的な解体検査および累積通過トン数に伴う交換を実施している。そこで、鉄道総研では検査の効率化および交換周期の延伸による保守コストの低減を目的として、超音波探傷検査が可能なレール鋼製のノーズ可動クロッシングを開発した。本開発品の実用化に向け、新幹線車両が通過する軌道への試験敷設等を実施したので、その結果を報告する。
鉄道総研報告 Vol.29 No.8 「新幹線用レール鋼製ノーズ可動クロッシングの開発」
RRR Vol.71 No.12 「レール鋼を用いた新幹線用ノーズ可動クロッシング」
- 発表者
- 軌道技術研究部 軌道構造研究室 室長 及川 祐也
レールの疲労寿命は曲げ疲労試験によりレール発生応力と破断に至るまでの載荷繰り返し数の関係から推定されている。先行研究では、載荷繰り返し数200万回以下の領域における疲労強度に関するデータを蓄積してきた。しかしながら、より高精度な寿命推定を行うためには載荷繰り返し数200万回以上の高繰り返し数領域におけるデータが必要である。そこで、本検討では高繰り返し数領域における曲げ疲労試験を実施し、疲労寿命推定に用いるS-N曲線を再設定した。さらに、この結果を用いて疲労寿命を推定したので報告する。
- 発表者
- 軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 研究員 水谷 淳
動的な軌道変位を測定できる軌道検測車は高価なため、地域鉄道事業者が導入するのは難しく、大手鉄道事業者でも検測車運用の関係で構内線等では静的な軌道変位を測定している。鉄道総研では、車両の走行に伴う動的な軌道変位のうち、走行安全性の低下の要因になることの多い軌間及び平面性変位を測定できる低コストな装置の開発を進めている。本発表では、装置を搭載した車両の走行に伴って測定を行えるように、装置の遠隔操作や測定区間を把握する方法など、実用化に向けた機能向上の取り組みについて報告する。
RRR Vol.76 No.2 「車両走行時の軌道の変形を診る」
- 発表者
- 軌道技術研究部 軌道管理研究室 主任研究員 坪川 洋友
レール波状摩耗は、沿線の騒音・振動低減や軌道変位進み抑制等の観点から、適切に管理すべき対象である。鉄道総研では、近年、レール波状摩耗の発生機構の解明に向けた研究開発に取り組んでいる。本研究では、その一環として、営業線で長期にわたって測定したレール凹凸データを分析し、レール波状摩耗の進展過程をモデル化した。さらに、その進展モデルに基づき、レール波状摩耗の成長を抑制し、レール削正周期を延伸するためのレール削正方法を検討したので、その結果を報告する。
鉄道総研報告 Vol.29 No.8 「波状摩耗管理のための可搬型レール凹凸連続測定装置の実用化」
RRR Vol.76 No.2 「レール表面の細かな凹凸を診る」
- 発表者
- 軌道技術研究部 軌道管理研究室 主任研究員 田中 博文
軌道に関する国際規格は、ISO(国際標準化機構)のTC269/SC1(鉄道専門委員会/インフラストラクチャ分科委員会)およびTC17/SC15(鋼専門委員会/鉄道レール、レール締結装置、車輪及び輪軸分科委員会)が国際標準化活動を受け持っており、鉄道総研が国内審議団体を担っている。本報告では、日本から提案している合成まくらぎ、レール溶接と併せて、現在国際規格開発が行われている軌道品質評価、コンクリートまくらぎ、レール締結装置および鉄道レールに関する進捗状況を紹介する。
- 発表者
- 鉄道国際規格センター 計画 主査 寺下 善弘