第364回 鉄道総研月例発表会

日時 2023年12月15日(金) 13:00~17:00
場所 日本工業倶楽部会館2階 大会堂
主題 車両技術および浮上式鉄道技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

13:00~13:15
車両技術に関する最近の研究開発

 鉄道総研における車両に関する研究開発は、車両技術研究部、材料技術研究部、鉄道力学研究部の三研究部が主に担っており、安全性の向上を中心に、環境との調和、低コスト化、利便性の向上を目指して研究開発に取り組んでいる。ここでは、最近の車両関係の研究開発の取り組み全体を概観するとともに、主な成果について紹介する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.36 No.10「車両技術に関する研究開発の動向」
 鉄道総研報告 Vol.37 No.6「フェーズドアレイ超音波探傷法の台車部品への適用」
 鉄道総研報告 Vol.37 No.9「画像による地上からの車両床下状態確認手法」

発表者
車両技術研究部長 石毛 真

13:15~13:35
実物大車体構体とダンプトラックを用いた衝突試験によるFE解析の精度検証

 衝突事故時の安全性に優れた列車車体構造を設計する場合、数値解析による衝突安全性評価が有効であるが、その解析精度を確保することが重要となる。本研究では、衝突解析の精度向上を目的として、先頭車両の実物大部分車体構造を用いて、剛体壁への衝突試験と大型ダンプトラックへの衝突試験を実施し、双方の車体の衝撃変形破壊挙動などの基礎データを取得した。また、これらの試験を模擬したFE解析を実施し、試験結果と解析結果を比較検証したので報告する。

発表者
車両技術研究部 車両強度研究室長 沖野 友洋

13:35~13:55
1/10模型車両の加振試験による地震時の安全限界評価

 地震時における鉄道車両の安全性向上に資するため、実車試験に比べて多くの試験条件を安全に設定でき、地震時における車両挙動を評価する縮尺模型試験を行うことが可能な1/10模型車両を製作した。製作した模型車両を用いて、地震時を想定した大振幅での加振試験を鉄道総研が所有する大型振動試験装置上で行い、模型車両の車体床下構造の違いによる車両挙動や脱線が生じる加振振幅の差異を調べた。本発表では、加振試験および模型車両の安全限界の評価結果について報告する。

発表者
鉄道力学研究部 車両力学研究室 副主任研究員 葛田 理仁

13:55~14:15
横風に対する車両の安全性評価に用いる車体左右振動加速度の推定法

 転覆限界風速は、「総研詳細式」により評価されることが多い。この式では、転覆に影響する作用力の1つとして車体の左右振動慣性力を考慮し、その左右振動加速度を過去の走行試験結果から推定している。しかし、転覆限界風速の評価に用いるべき左右振動加速度と通常の走行時に測定される左右振動加速度では、発生状況等に相違があると考えられる。本発表では、縮尺模型試験やシミュレーションによりそれらの相違の影響を確認するとともに、軌道の通り変位から左右振動加速度を推定する方法を検討したので報告する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.37 No.7「横風に対する車両の安全性評価に用いる車体左右振動加速度の推定法」

発表者
鉄道力学研究部 車両力学研究室 主任研究員 金元 啓幸

14:15~14:30
休憩

14:30~14:50
雨天時を模擬した車両運動解析における車輪/レール接線力モデル

 車両の走行安定性および走行安全性の評価手法として車両運動解析が広く用いられている。車両運動解析では車輪/レール間を乾燥状態と仮定して実行されることが一般的となっており、雨天時を想定した実施例は少ない。この一因として、雨天時のように車輪/レール間が水潤滑状態となるときの接線力モデルが一般化されていないことが挙げられる。本発表では、雨天走行時の車両運動解析を実態に即した形で実施することができる実用的な車輪/レール接線力モデルを開発したので報告する。

発表者
鉄道力学研究部 計算力学研究室 主任研究員 山本 大輔

14:50~15:10
歯車装置の小歯車軸受へのつば付き円筒ころ軸受の適用

 鉄道車両の歯車装置にはすば歯車と組み合わせて使用される小歯車軸受は、損傷防止のために厳密なエンドプレイ値(軸受の組合せすきま)の管理が欠かせない。そこで、エンドプレイ値の調整幅を大きく設定できるつば付き円筒ころ軸受を用いた小歯車支持構造を試作した。試作構造を、従来の円すいころ軸受を用いた小歯車支持構造とともに、実機歯車装置における回転試験、および軸受単体での回転試験に供し、トルクや温度などの性能を調べたので報告する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.37 No.7「歯車装置軸受へのつば付き円筒ころ軸受の適用」

発表者
材料技術研究部 潤滑材料研究室 主任研究員 高橋 研

15:10~15:30
バイオ燃料を用いたディーゼルエンジンの台上試験による性能評価

 鉄道用ディーゼル車両においては、現在使用している軽油を次世代バイオディーゼル燃料に変更することで、カーボンニュートラルを達成できる可能性がある。そこで、本研究では、次世代バイオディーゼル燃料である炭化水素系バイオ燃料、及び、軽油と炭化水素系バイオ燃料の混合燃料を対象とし、列型ポンプ式ディーゼルエンジンとコモンレール式エンジンを用いて、台上試験機での出力、燃費、排ガス等のエンジン性能を確認したので報告する。

発表者
車両技術研究部 駆動システム研究室 副主任研究員 奥野 敬太

15:30~15:45
休憩

15:45~16:00
鉄道実装に向けた超電導と電磁気・磁気浮上に関する研究開発

 鉄道総研における浮上式鉄道の技術分野では、超電導の研究開発や磁気浮上式鉄道に関する基礎技術開発に取り組んでいる。超電導分野では、これまで培ってきた高温超電導の成果を活かし、基礎から応用、実証に至るまで一体的かつ効率的な研究を進め、鉄道分野での技術革新を目指している。ここでは、鉄道実装に向けた超電導き電ケーブルやその他超電導応用機器などの研究開発や、電磁気技術を活用した非接触ディスクブレーキ、磁気浮上式鉄道の保守に活用できる遠隔監視システムなどのいくつかの成果について報告する。

発表者
浮上式鉄道技術研究部長 富田 優

16:00~16:20
鉄道用超電導き電システムの検証試験

 超電導き電システムは、ある温度以下に冷却することで電気抵抗がゼロとなる超電導の特性を利用した送電システムである。直流電気鉄道では、き電線や帰線(レール)などの電気抵抗に起因して電圧降下や送電損失が発生する。超電導き電システムの導入により電圧降下を抑制することで、変電所の集約化、回生効率の向上や送電損失の低減などが期待できる。本発表では、鉄道への導入に向け開発を進めている超電導き電システムについて、冷却、通電などの基礎試験や、鉄道車両への送電試験などの検証試験結果を報告する。

発表者
浮上式鉄道技術研究部 超電導・低温研究室 副主任研究員 赤坂 友幸

16:20~16:40
付随車発電制動を実現する簡易励磁式非接触ディスクブレーキの提案

 車軸に鋼製のディスクを取り付け、電磁石により非接触で制動力を発生させる、ディスクブレーキ(渦電流ブレーキ)は、付随車に適用することで、電動機や歯車装置を用いずに電気ブレーキの利点である摩耗レスブレーキが可能になる。この装置を改良する取り組みとして、インバータを用いずに、コンデンサで発電制動を行う励磁方式を開発している。これにより電力回生や電源レス駆動などの機能を低コストで付加できる。本システムの実現性の検討のため、電磁界解析により基礎設計を行った結果について報告する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.36 No.6「リニアレールブレーキに向けたインバータレス励磁方法の開発」

発表者
浮上式鉄道技術研究部 電磁気研究室 副主任研究員 浮田 啓悟

16:40~17:00
浮上式鉄道用地上コイル温度遠隔監視システムの開発

 浮上式鉄道用地上コイルは列車を推進・浮上・案内する機能を持つ。巻線を樹脂でモールドした構成であり、樹脂の強度は温度の影響を受けるため、温度監視は重要である。そこで、低消費電力長距離無線LoRaを用いた温度遠隔監視システムを開発した。使用する無線は通信範囲が広いため、電波干渉やセキュリティが課題となる。対策として、同一データを異なるチャンネルで2回通信するダイバーシティ技術を導入した。また、通信データを暗号化して、受信機には第三者による改ざん検知機能を付加したので報告する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.34 No.11「低消費電力の長距離無線技術を用いた地上設備状態監視システムの構築」

発表者
浮上式鉄道技術研究部 磁気浮上研究室長 田中 実

※本発表会の資料の著作権は鉄道総研に帰属します。
 不許複製 ©2023 Railway Technical Research Institute