スーパー繊維の鉄道への応用

1.はじめに

高強度・高弾性なスーパー繊維には、耐熱・難燃、高熱伝導、低熱膨張など特徴を合わせ持つ繊維があり、さまざまな用途に応用できる可能性があります。鉄道でも、高架橋柱の耐震補強にアラミドや炭素繊維シートが使われていますが、さらに様々な特徴を活かし、放熱材料や架線材料などの新しい応用について、研究、開発しています。

2.スーパー繊維の特徴

一般に、約2GPa以上の高強度で、約50GPa以上の高弾性率な繊維を「スーパー繊維」と呼び、ポリエステルなどの汎用繊維と区別されます。代表的なものに、有機系のアラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、無機系の炭素繊維などがあります。強度面だけでなく、耐熱性に優れ、燃え難い、高い熱伝導性、負の線膨張性を合わせ持つ繊維があり、機能性を付加した材料の開発が期待できます。

3.放熱材料への応用

電子機器では小型化、高密度化、高性能化が進み、熱処理が課題となります。スーパー繊維のような結晶性高分子では、絶縁物ながら繊維方向にスチール以上の高い熱伝導率を持つ材料があります。そこで、絶縁性で高耐熱、難燃なPBO繊維を基材とした放熱シートや基板を試作しました。PBO繊維基板は、従来のガラス繊維基板に比べて、表面実装された抵抗素子の温度上昇を抑えられました(図1参照)。

4.架線材料への応用

  • 高強度なトロリ線:新幹線では、高速化にともない波動伝搬速度を向上させ離線の発生を抑えるため、軽量で高強度なトロリ線が望まれます。そこで、スーパー繊維の中で最も高強度、高弾性を誇るPBO繊維を芯材としたトロリ線模擬複合線材を試作して引張強度を評価した結果、繊維割合10~15%程度でCS、PHCトロリ線と同等以上の強度が得られました。
  • 低熱膨張線材:トロリ線、吊架線では、気温変化や通電による温度変化で伸縮が発生し、敷設や保守管理において課題となります。スーパー繊維には、分子構造などから繊維方向の線膨張係数が負や小さい繊維があります。そこで、負の線膨張係数で弾性率が高いPBO繊維に銅をメッキして導電性を付与した撚線を試作して熱収縮を評価した結果、温度変化を与えても伸縮がない低熱膨張線材を実現できました(図2参照)。

参考文献

  1. 上條弘貴:「スーパー繊維を鉄道に応用する」、RRR、Vol.68、No.11、P.6-9、2011.11
  2. 上條弘貴、福田典子、小笠正道:「高熱伝導性有機材料を用いた電子部品・パワー素子の放熱部材の開発」、鉄道総研報告、第25巻、 第8号、P.35-40、2011.8
  3. 上條弘貴、福田典子:「高熱伝導有機繊維を用いた基板の放熱特性」、第21回鉄道技術・政策連合シンポジウム(J-RAIL2014)、S7-5-1、2014.12
  4. 上條弘貴:「銅−PBO繊維複合トロリ線模擬材料の引張強度」、平成23年電気学会全国大会講演概要集第5分冊、5-602、2012.3
  5. 上條弘貴:「メッキによる銅−PBO繊維複合材料の試作」、平成19年電気学会産業応用部門大会講演概要集第3分冊、3-25、p.199-200、2007.8
  6. 上條弘貴:「トロリー線やちょう架線にスーパー繊維を応用する」、RRR、Vol.69、No.10、P.16-19、2012.10