割引きっぷの発売上限数の制御によるイールドマネジメント手法

1.概要

鉄道の収入確保のための取組みの1つとして、イールドマネジメントを適用した特急列車等の指定席用割引きっぷの発売上限数の制御が挙げられます。これは、席数限定の割引きっぷを発売し、その席数(発売上限数)を適切に設定することで、お客様の増加と過剰な安売りの防止を両立し収入増加を目指すものです。しかし、その効果の定量化は難しく、収入を最大にする発売上限数を理論的に算出できないという課題がありました。
そこで、各種のきっぷの需要と、希望のきっぷを買えなかった旅客の次善策の選択行動を推定して、割引きっぷの発売上限数を算出する手法を開発しました。

2.割引きっぷ発売上限数設定計画手法の概略

開発した手法の概略を図1に示します。本手法では、計算対象の日の需要を、便、乗車区間、きっぷの種類、予約タイミングごとに推定します。その上で、各購入希望者の購入行動を推定し、結果として購入される各きっぷの数および売上金額(=収入)を推定します。ここで、発売上限数の設定によっては、希望するきっぷを購入できずに次善策を選択するお客様が発生します。したがって、発売上限数はお客様の購入行動を左右することで収入に影響を与えると言えます。この購入行動などを定式化した数理最適化問題を解くことで、収入が最大になるような発売上限数を算出することができます。

3.需要や次善策選択行動の推定方法

2.で述べた手法を実現するには、①計算対象の日の需要を、便、乗車区間、きっぷの種類、予約タイミングごとに推定する方法、②次善策選択行動を推定する方法、の2つを構築する必要があります。
①需要の推定については、過去の販売実績データや計算対象の日の暦配列(曜日や連休など)から推定する手法を構築しました。推定される需要の例を図2に示します。
②次善策選択行動の推定については、実際に指定席の割引きっぷを利用したことがある人に対してWebアンケート調査を行い、その結果から、図3に示す4つの選択肢それぞれが選ばれる割合を算出するモデルを構築しました。このモデルは前後の便との時間差や高額なきっぷとの価格差を反映できるものであり、統計的妥当性も確認できています。

4.実際の販売への適用例

ここまでに述べた知見に基づいて、割引きっぷ発売上限数計画システムを開発しました。本システムは、特定の1日の全便の収入の合計を最大にするような、各便・各きっぷの発売上限数を算出するものです。図4に示す画面例では、ある便の、全きっぷの発売上限数を表形式で示しています。
そして、本システムの計算で得られた発売上限数を実際の指定席販売に試験的に適用しました。ある3連休に運行する特急列車に本システムの計算結果を適用し、その販売実績から主要駅間でのきっぷの売上(=収入)を計算して、試験適用2年前の3連休5回の平均と比較しました。その結果、図5に示すとおり、3連休全体では29%の収入増となりました。この増加率は対象列車の需要の伸びを上回っていることから、開発した手法が収入増加に寄与したと考えられます。

鉄道事業者の収入増加のためには、鉄道がお客様に選ばれ利用されることが必須です。そのための方法の1つとして、イールドマネジメントのさらなる応用、たとえばより魅力的なきっぷの設計や、混雑を緩和する柔軟な運賃・料金設定などが有効であると考えられます。今後も研究の深度化を進め、お客様の利便性向上と鉄道経営課題の解決を目指します。

参考文献

  1. 中川伸吾、鈴木崇正、松本涼佑、深澤紀子、尾崎尚也:鉄道の割引きっぷの発売上限数に着目したイールドマネジメントの一手法、電気学会論文誌D(産業応用部門)、第140巻、第11号、pp.891-892、2020.11
  2. 中川伸吾、鈴木崇正、松本涼佑、深澤紀子、尾崎尚也:割引商品の発売上限数に着目したイールドマネジメント手法、鉄道総研報告、第34巻、第2号、pp.11-16、2020.02