車軸—車輪はめ合い面のモデル化とシミュレーション

1.車輪とのはめ合いが車軸の超音波探傷に及ぼす影響

鉄道車両の車軸の定期検査で車輪を取り外さずに検査する場合、車輪座(車輪とのはめ合い面)のきずの有無を超音波探傷により確認し、車軸の健全性を確保しています。ところが、車輪がはめ合わされた状態で超音波探傷を行う場合、はめ合い面の粗さや摩耗等の状態に応じて車軸と車輪の接触面圧が変化し、エコー高さが変動します。また、新幹線電車の交番検査では図1に示すように、列車の編成のままの在姿状態で車軸の超音波探傷を行いますが、車両重量により車軸に作用する曲げ負荷を受けて車輪との接触状態が変化し、エコー高さが変動する可能性があります。

このような現象を解明するためには、車軸と車輪のはめ合い部における超音波の伝搬挙動に着目し、両者の接触状態がきずの検出性能に及ぼす影響を定量的に評価する必要があります。ここでは、はめ合い面の接触状態を表現するためのモデル化手法と、理論計算および超音波シミュレーションによるきずエコーの評価例を紹介します。

2.車軸と車輪のはめ合い面のモデル

車軸に車輪をはめ合わせる際には、車輪の内径が車軸の外径よりもわずかに小さくなるように機械加工した後、両者を所定の粗さに仕上げて圧入します。そのため、両者のはめ合い面(界面)は微視的には図2(a)に示すように、ある粗さを有する面同士が、直径差(締め代)により生じる面圧で接触した状態にあります。この状態は近似的に、KNKTの2種類のばね(界面剛性)を有する図2(b)の「スプリング界面」によりモデル化されます。これにより、はめ合い面に超音波が入射したときの超音波の反射や車輪への透過の程度を理論的に計算することができます。

車軸の車輪との界面に周波数5MHzの横波超音波が斜め入射したときの、入射角と反射率との関係の計算例を図3に示します。この例では、屈折角45°の横波を入射させた場合、車輪がはめ合わされていない場合と比べて、きずエコーの高さが約0.27倍にまで低下することが予想されます。

3.車軸の超音波探傷シミュレーション

超音波の伝搬挙動を評価するもう一つの手法として、超音波シミュレーションがあります。超音波の伝搬は「波動方程式」で表されることが知られており、車軸や車輪を要素分割のうえ「有限要素法(FEM)」を用いて計算すれば、超音波で探傷したときの挙動が再現されます。車軸と車輪の接触状態がきずエコーに及ぼす影響を評価するため、様々な深さのきずを有する車軸における接触面圧とエコー高さとの関係を超音波シミュレーションにより計算しました。

計算モデルの例を図4に示します(クリックすると計算結果がアニメで表示されます)。入射する超音波は周波数5MHz、屈折角45°の横波としました。車輪がはめ合わされていない状態(接触面圧が0)を基準とした、接触面圧によるエコー高さの変化を図5に示します。接触面圧50MPaで面圧0のときのおよそ半分のエコー高さとなり、それより高い面圧では面圧とエコー高さがほぼ反比例する結果が得られました。実際の車軸と車輪も数十MPaの面圧で接触しており、接触面圧はエコー高さに大きな影響を及ぼすと考えられます。

参考文献

  1. K. Makino, S. Biwa, “Influence of axle–wheel interface on ultrasonic testing of fatigue cracks in wheelset,” Ultrasonics, Volume 53, pp. 239–248, 2013(※)
  2. 牧野 一成:中ぐり車軸のきずを在姿状態で探る, RRR, Vol. 69, No. 12, pp. 4-7, 2012
  3. 牧野 一成:台車の非破壊検査を可視化する, RRR, Vol. 68, No. 5, pp. 10-13, 2011

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