非接触式空中超音波による車上式レール破断検知システム

1.はじめに

 現在、鉄道の多くの路線では、レールに流れる信号電流を利用した軌道回路により、列車の位置を制御しています。一方、無線式の列車位置制御手法が開発され、一部、鉄道事業者で既に導入されています。軌道回路の代わりに無線式列車制御システムを導入した場合には、軌道回路に代わるレール破断検知手法が必要となります。しかし、地上に新たに設備を構築するのはコストを要しますので、本研究では、車両がレール破断箇所を走行した場合に、車上からレールの破断を検知する手法を確立することを目標に、非接触空中超音波(以下、「空中超音波」という)に着目し、レール破断検知技術としての適用可能性について検討しました。

2.空中超音波によるレール破断検知手法の検討

 レール破断検知への適用を想定した空中超音波システムは、図1に示すように鉄道車両の台車枠に取り付けた超音波センサーからレールに非接触で超音波を送信し、輪軸を挟んで同様に台車枠に取り付けた超音波センサーにて受信するものとなっています。以下では、超音波を送信および受信するためのセンサーを、それぞれ「送信プローブ」および「受信プローブ」と言います。非接触で入射された超音波はレールを伝播していくため、健全な箇所であれば受信プローブで超音波を連続して受信できます(図1a)。一方で、レール破断が発生した箇所では、超音波が途中で遮断され受信プローブに伝わらないため(図1b)、レール破断を検知することが可能になります。一方で、空中超音波は、空気を経由し対象物に入力されるため、低感度という不利な点があります。そこで、市販の超音波探傷器では感度不足であるため、一般的な超音波探傷で用いられるパルス波より強力なバースト波を送受信できる高出力、高感度のパルサ・レシーバ(超音波送受信機)と外付けプリアンプの使用が必須となります。本研究で使用した非接触空中超音波探傷装置は、図2に示すように制御用パソコン、パルサ・レシーバ、外部プリアンプおよび送受信プローブで構成されております(ジャパンプローブ:ジャパンプローブ (online)、 http://www.jp-probe.com/(※)

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3.試験線におけるレール破断検知手法の検証試験

 図3に空中超音波システムを設置した試験車両の台車の外観を示します。台車の前後に送信プローブおよび受信プローブを設置し、超音波を送受信しながら試験走行しました。図4に試験車両の走行位置と超音波の受信強度の関係を示します。健全部では、十分な受信強度が得られており、提案したシステムによるレールへの超音波の送信およびレールからの受信が走行中においても可能であることがわかります。また、継目部や開口部が存在する位置では、健全部の0.4倍以下に受信強度が低下しています。ちなみに、走行区間には13箇所の継目部があり、12番目(⑫)と13番目(⑬)の継目部の間においてレールを切断して開口部を設けています。そのため、継目部および開口部を合わせて14箇所の不連続部が存在し、いずれの不連続部においても、受信強度が0.4以下になっています。このシステムによって、レール破断の判定を行うためには、例えば、検査する区間の継目部の数を予め把握しておき、検査走行した際に受信強度が一定値以下となる箇所をカウントして比較することによって、後者の数が多くなっている場合、レール破断部が存在していると判断できます。但し、曲線部においてきしり音が発生している場合は超音波の波形が著しく乱れることもわかっており、今後の実用化への課題と言えます。

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参考文献