信号用電子機器の寿命評価手法

1.はじめに

 1980年代後半以降、連動装置、ATS、ATC、踏切制御装置などの鉄道信号設備に電子機器(以下,信号用電子機器)の採用が進み、高機能化や保全業務の効率化などの効果を発揮してきました。一方、信号用電子機器は予兆なく故障する場合があるため、従来はあらかじめ想定した故障発生の可能性が高くなる時期よりも前に、多大な時間と費用をかけて更新を行っていました。
 しかし、これまで鉄道の使用環境に即した信号用電子機器の寿命を評価する手法がなかったため、更新を行う時期の裏付けが曖昧な状況でした。もし、適切な方法による寿命評価を行い、更新時期を延長することができれば、メンテナンスコストを低減できます。そこで、鉄道総研では信号用電子機器の更新時期の適切な設定に寄与するような寿命評価手法の研究を行い、鉄道事業者が利用できる評価ツールを開発しました。

2.開発概要

 信号用電子機器は、一般に制御や外部との入出力を行うための複数の回路基板から構成され、各基板上には様々な種類の電子部品がはんだにより接合されています(図1)。踏切制御装置などの鉄道沿線で使用される信号用電子機器は、通電による動作ストレスに加え、温湿度、腐食性ガス、振動など、様々な環境ストレスの影響を受けることが想定されます。そこで、信号用電子機器が使用される環境と故障の実態を調査し、機器の寿命に影響する劣化要因は、通電による動作ストレスと温湿度の変化による環境ストレスが支配的であることを明らかにしました(図2)。
 さらに、調査結果を基に、信号用電子機器を構成する電子部品自体と基板のはんだ接合部で発生するクラックに着目して寿命を評価する手法を開発しました(図3)。
 この手法では、まず部品メーカが実施した信頼性試験結果を活用して使用環境条件に応じた電子部品の寿命を算出します。次に、温度変化に起因するはんだクラックを再現する加速試験によってはんだ接合部の寿命を算出します。そして、それぞれの算出結果から弱点箇所を特定して機器の寿命を予測します。
 本手法を、直射日光を遮る遮蔽板の有無によって使用条件が異なる2種類の器具箱内の踏切制御装置(踏切用列車検知装置)に適用して評価を試行しました。その結果、各条件での弱点箇所を特定と、予測寿命の算出が可能であることを確認しました(図4)。
 鉄道事業者は、本手法を表計算ソフトに実装した評価ツールと手順書を利用することで、鉄道沿線で使用される信号用電子機器の寿命を定量的に予測することが可能となり、機器の更新計画の策定に活用できます。また、信号用以外の電子機器にも応用が可能です。

参考文献

  1. 国崎愛子,藤田浩由,野村拓也,石井琢:鉄道沿線信号設備における電子機器の寿命評価手法,鉄道総研報告,Vol.34,No.7,pp.11-16,2020
  2. 藤田浩由,丹羽順一,新井英樹:電子連動装置の使用環境を考慮した寿命評価手法の開発,鉄道総研報告,Vol.32,No.5,pp.23-28,2018
  3. 藤田浩由,野村拓也,国崎愛子:鉄道沿線電子機器の劣化寿命を予測する,RRR,Vol.76,No.11,pp.24-27,2019
  4. 藤田浩由,新井英樹:信号用電子機器の寿命を診断する,RRR,Vol.75,No.4,pp.12-15,2018