信号設備の管理へのデジタルツインの活用

1.はじめに

人口減少や鉄道の利用動態などの社会情勢の変化は、鉄道の運営コストに関する課題を顕在化させています。信号設備の管理における新設、更新や維持管理においても例外でなく、費用対効果が高い装置や工法、保守方法、管理方法が求められています。装置やシステムの低コスト化に関して様々な研究・開発が行われていますが、今後は、設計や保守情報の管理業務の労力を低減し、トータルのコストを低減するための研究・開発も必要になると考えます。

2.信号設備の工事に関する課題

工事の実施にあたっては、信号設備に関する図面や台帳等の情報に対する参照や更新が行われます(図1)。これらの情報は異なる形式(CAD、スプレッドシート、テキスト等)の複数のファイルが関係する場合がありますが、現在はこれらの情報からの情報の抽出や反映は個別に行われており、相互の矛盾をチェックする仕組みはありません。また、同じ設備の情報に対して同時期に複数の作業が行われる場合、情報の更新や参照のタイミングによっては、情報が示す設備の状態と実態に乖離が生じる場合があることが課題です。このような課題に対しては、1990年代から情報の一元管理や設備管理システムの提唱がおこなわれてきましたが、導入や普及は進んでいない状況です。

3.信号設備のデジタルツイン

デジタルツインは、システムの構成要素の相互関係や物理モデル、現実空間の情報を用いて現実空間のシステムの「双子」を計算機空間上に構築するものです。信号システム研究室では、軌道回路や転てつ装置などの具体的な設備の電気的、機械的特性に基づくデジタルツインの取り組みを進めています。これらに加えて、前述の信号設備の工事に関する課題を解決するため、設備に関する種類や工事・修繕履歴の管理、設備間のつながり、位置関係などを取り扱うデジタルツインについて、その要件や期待される効果などを検討しています。

提案するデジタルツインのイメージを図2に示します。仮想空間上に構築した共通データを用途別の複数のアプリで参照することで現実空間の信号保安設備の対応や現実空間で行われる検査や設計などの管理業務などとのインタラクションを確保することを目指しています。

4.今後の展望

信号設備に関する情報を一元的に管理するデジタルツインは、工事や保守に伴う設備情報の管理(図3)のほか、新たなシステムを導入する際の効果や課題の抽出といった事前検証の手段としての利用も考えられます。今後は、デジタルツインの実現を目指したモデルの記述方法やアプリケーションとの連携方法などの具体的な実現手段の検討と構築、軌道回路や転てつ装置などの物理シミュレーションの拡充などに取り組んでいきます。

キーワード

デジタルツイン、設計支援、設備管理、シミュレーション

参考文献

  1. 潮見俊輔:デジタルツインを活用した信号保安設備の管理、日本信頼性学会誌、Vol.44、No.5、pp.270-275、2022