転てつ装置の転換動作シミュレーション

1.はじめに

分岐器の可動部を動作する機能(転換機能)、保持する機能(鎖錠機能)を持つ転てつ装置は、列車や車両の走行の安全を保つための信号設備の一つです。転換機能や鎖錠機能を確保するためには、転てつ装置が所定の性能や機能を有することを確認、検証することが必要です。しかし、これまでは分岐器と転てつ装置の実機を組み合わせた試験以外の検証手段がなく、状態の変化に対する検証やそのコストが課題でした。

2.転てつ装置と分岐器を組み合わせた機能,性能の確認

転てつ装置と分岐器を組み合わせた性能、機能の確認項目として、分岐器の転換負荷や転てつ装置の異物検知性能などが挙げられます。

分岐器の転換負荷に関する試験は、転換不能(転換動作の途中停止)の防止を目的として行います。雨上がり後などの潤滑が十分ではない状態になった場合でも電気転てつ機が出力できる転換力に対して転換負荷が小さい状態を保つことを、実際の分岐器と組み合わせたときの転換負荷を測定することで確認します(図1)。

また、異物検知性能に関する試験は、分岐器のトングレールと基本レールに挟まる異物を検出する機能を有することを確認するために行います。トングレールと基本レールに実際に異物を挟み、そのときの電気転てつ機や回路制御器(接着照査用)の出力や、トングレールの変位を確認します(図2)。また、どの位置に異物が介在しても検知ができるように、回路制御器(接着照査用)の配置や数量を試験結果から決める場合があります。

3.転てつ装置と分岐器の運動モデル

転換動作中の転換負荷や、転換動作後に異物介在したときのトングレールの変位をシミュレートするため、マルチボディダイナミクスを適用した転てつ装置と分岐器の運動モデルを構築しました(図3)。転換負荷や異物介在時のトングレール変位は、レールの弾性変形やトングレールに作用する摩擦力の影響を受けますので、トングレールを複数のBodyに分割した上で、各Bodyを弾性梁要素として構成した、柔軟多体系(Flexible multi-body system)としてモデル化している点が特徴です。また、転てつ装置と分岐器は動作中に部材間の接触や分離を伴う、ガタを有したシステムですので、接触判定や接触力の計算コストを減らすための工夫も行っています。

4.適用例 —異物検知装置の設置位置の評価—

開発した手法の適用例として、異物を検知する回路制御器(接着照査用)の設置位置を変更した場合の、トングレールと基本レール間に介在した5mm厚の異物の検知可否を計算した結果を図4に示します。複数の異物検知装置を設置する場合、異物がどの位置に挟まっても検出できるように検出範囲が連続し、かつその検出範囲が広くなるように設置位置を設定することが基本となります。この例では、トングレール先端と、トングレール先端から2.0m地点にそれぞれ電気転てつ機と回路制御器(接着照査用)を設置することにより、5mm厚の異物を検知できる区間がトングレール先端から2.8m地点まで連続して確保できる、という結果が得られました。

このように、転てつ装置のシミュレーション技術は、設計段階で転換負荷や異物検知機能などの転てつ装置の性能や機能を確認するために用いることが可能です。

キーワード

転てつ装置、転換負荷、異物検知、運動解析、マルチボディダイナミクス、柔軟多体

参考文献

  1. 潮見俊輔、押味良和、佐藤輝空、椿健太郎、高﨑建:転てつ装置の密着力・密着度が特異となる現象の解明、鉄道総研報告、Vol.35、No.10、pp.35-40、2021
  2. 潮見俊輔、押味良和、沼田紘司:分岐器および転てつ装置の異物検知性能の解析、日本機械学会論文集、Vol.84、No.861、p.17-00568、2018