軌道面の流れを再現した物体飛散が可能な風洞試験

1.概要

新幹線車両が走行する際の軌道面には、車両の通過に伴う流れが誘起されます。バラスト軌道面では、この流れによりバラストが飛散しないように、樹脂の散布やバラストスクリーンの設置等の対策が行われています。現状では、これらの対策により、バラストが飛散することはありませんが、今後の新幹線の延伸や速度向上を考慮すると、対策方法の改良や新たな開発が求められます。そこで、バラストやバラストスクリーンのような軌道面の物体の飛散についての研究開発に活用できる風洞試験手法を開発しました(図1)。

2.特徴

この風洞試験の特徴は以下の通りです。 ①実物のバラストを用いた軌道模型を風洞の測定部に設置し、軌道模型の下流側を飛散防止ネットで覆うことで、物体を飛散させてもよい風洞試験が可能になりました(図2)。 ②風洞の上流床面にラフネスブロックを配置し、バラスト軌道模型上に、新幹線車両が通過する際の軌道面の流れを再現しました(図3)。

この風洞試験を利用することで、 ①バラストの飛散のような、危険を伴う試験の実施が可能になります。 ②現地試験と比較して、安価に試験を行うことができます。 ③現地試験を実施する前の予備試験として、活用できます。

3.バラストスクリーンが浮き上がる可能性に関する検討
  ※現実には存在しない条件も含む

レール間中央のバラストスクリーンに加わる空気力を、バラストスクリーンの高さや角度を変えて測定し、バラストスクリーンが風によって浮き上がる(バラストスクリーンの上流側が浮き上がり、回転を始める)可能性を回転安定度(列車風によるモーメントと自重によるモーメントの比)を用いて検討しました。なお、空気力測定では、現実には存在しない条件も含めて実施しました。その結果、一定の条件(高さ-20mm角度20°、高さ0mm角度20°:[注]これらは、現実には存在しない条件)で、バラストスクリーンは浮き上がる(回転安定度が1以上になる)可能性のあることがわかりました(図4)。

4.バラスト飛散の様子
  ※現実には存在しない条件で実施

風を吹かせて、バラストの様子を高速度カメラで撮影しました(※バラストをまくらぎより40mm高くした場合。列車速度374km/h相当。現実には存在しない条件)。動画より、様々な形状のバラストが動く様子を確認できました。

動画1 バラスト飛散の様子

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。

5.物体の飛散が可能な風洞試験

物体の飛散が可能な風洞試験の一例として、ビート板をおいて風を流したところ、ビート板は、飛散防止ネットで停止しました。この風洞試験方法を活用することで、安全に、物体が飛散する試験を行えることがわかりました。

動画2 物体の飛散が可能な風洞試験

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。

関連ページ

参考文献

  1. 吉田眞、内田雅夫、矢口直幸、御船直人:高速走行時のバラスト飛散防止対策、鉄道総研報告、Vol.6、No.6、pp.27-36、1992.
  2. 井門敦志:車両側および地上側からの計測による車両床下流れの評価、鉄道総研報告、Vol.23、No.7、pp.39-44、2009.07.
  3. 岩﨑誠、井門敦志、山崎展博、宇田東樹、若林雄介:新幹線車両の床下流れの特性、鉄道総研報告、Vol.29、No.5、pp.11-16、2015.05.
  4. 井門敦志:大型低騒音風洞における鉄道の技術開発の変遷、RRR、Vol.79、No.3、pp.4-9、2022.03.