局所的短時間強雨に伴う突発的な浸水被害の回避を目的とした列車停止・旅客避難支援システム

1.はじめに

 近年増加している局所的な短時間強雨(いわゆるゲリラ豪雨)によって、鉄道路線沿線では突発的な浸水被害のリスクが高まっています。そこで、このような状況における輸送指令の意思決定支援を目的として、突発的な浸水被害を最大限回避するための最適な列車停止位置と、万が一の場合に備えた車内旅客の安全な避難経路を、迅速に算出するためのシステムを開発しました。

※本システムは、鉄道総研が開発した「局所的短時間強雨等に対応するリアルタイムハザードマップシステム」を構成するサブシステムの一つです(図1)。

2.列車停止位置・旅客避難支援システム

 本システムの入力データは、外部機関による局所的な短時間強雨の予測データに基づき算出された、鉄道路線沿線における浸水発生予測箇所と、各箇所での浸水発生予測時間です。そしてデータ入力後、まずは、浸水被害の危険度に応じた鉄道路線のグループ分け、およびそれに基づく運行中の各列車のグループ分けが、上下線それぞれで実施されます。次に、列車停止位置の算出を行いますが、各列車グループの浸水被害の危険度が最小限となるように、各グループそれぞれで異なった基準に従い計算を行います。また、万が一の場合に備えた旅客の避難経路は、浸水被害の危険度が最も高い列車グループ(図2:DH列車グループ)に対してのみ、算出をします(図2)。
 鉄道路線上のエアセクションや交通量の多い踏切については、列車を停止させないように設定することも可能です。また、高架区間など特別な区間の設定も可能です。

 列車停止位置と旅客避難経路の計算結果は、システムのGUIに表示することができます。本システムは動的なシステムなので、最適な停止位置が算出された各列車は、それぞれの停止位置まで進行して停止します。そしてDH列車グループの列車については、最適な避難経路も表示されます。また、各浸水発生予測箇所は、浸水発生時刻までの残り時間に応じて色分けされており、時間の経過とともに色分けは変化します(図3)。
 過去の局所的短時間強雨の実績データを用いたシミュレーションでは、一般的なスペックのPCで数秒~十数秒で計算できることを確認しており、緊急時でも有益な情報を迅速に提供することが可能です。

本研究の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)によって実施しました。

  1. 奥田大樹,鈴木崇正,深澤紀子:局所的短時間強雨の被害回避のための列車停止・旅客避難支援システムの開発,鉄道総研報告, 第35巻, 3号, pp.29-34, 2021