道路交通流の円滑化のための踏切交通流シミュレータ

1.はじめに

国土交通省が2021年10月に発表した「踏切道安全通行カルテ」によれば、ピーク時の遮断時間が40分/時以上の「開かずの踏切」の数は、大都市圏を中心に全国で539ヶ所にのぼります(図1)。このような、列車が頻繁に通過する踏切では、道路交通渋滞が問題になっています。
そこで、鉄道の定時性を確保しつつ道路交通の円滑化を図るため、踏切遮断が道路交通に与える影響を評価する踏切交通流シミュレータを開発しました。

2.シミュレータの構成

開発したシミュレータは、①踏切内交通シミュレータ(図2)、②街路シミュレータ(図3)の2つから成ります。
①踏切内交通シミュレータは、踏切通行者の行動を模擬するものです。踏切の構造や開閉時刻などを入力とした上で、0.5秒を1ステップとして、各ステップにおいて各通行者が前ステップからどのように動くかを計算して更新していくものです。通行者同士の相互回避行動や、通行中に鳴動開始した場合の加速・Uターンといった行動特性をふまえた計算が可能です。
②街路シミュレータは、一定範囲の道路ネットワーク上の自動車交通を模擬するものです。この中で踏切は、交通容量低下をもたらすボトルネックとなります。各踏切の交通容量には、踏切内交通シミュレータで計算した自動車の通行可能台数を用います。これにより、各踏切での渋滞量などを算出することができます。なお、この街路シミュレータは、名古屋大学で開発され、(株)道路計画が運用している交通流シミュレータINSPECTORをカスタマイズしたものです。

3.用途

開発したシミュレータは、一例として、列車走行制御の評価に活用できます。列車の加減速制御による踏切鳴動時分の短縮(たとえば、上下列車の踏切通過タイミングを合わせる制御による短縮)によって、道路交通の円滑化が期待できます。本シミュレータは、その円滑化の効果を定量化し、有効な列車走行制御の実現に寄与します。なお、列車走行に対する制御パターンの作成は、本シミュレータによらず別途行う必要があります。
また、踏切内交通シミュレータは単独で、踏切の改良施策、たとえば歩道拡幅などの効果の検証にも活用できます。

参考文献

  1. 厚田和也、中川伸吾、熊澤一将:道路交通流の阻害低減のための踏切群制御手法、鉄道総研報告、第35巻、第3号、pp.17-22、2021.03