新幹線等特急列車の臨時列車運行計画策定支援手法

1.概要

新幹線等の有料特急列車では、日や時間帯によって変化する旅客需要の波、すなわち需要波動(図1)に合わせて臨時列車を運行することがあります。しかし、鉄道旅客には様々な属性や移動目的を持った人々がいて、暦配列や沿線の大規模イベントといった様々な要因の影響を受けて需要が変動するため、需要波動を正確に予測することは困難でした。そこで、独立成分分析(ICA: independent component analysis)という手法を用いて、日ごとの需要波動を推計して、臨時列車の適切な運行計画の策定を支援する手法を構築しました。

2.独立成分分析

独立成分分析(ICA)は、複数の独立な波動が線形に混合しているとき、元の波動である基礎波動と、混合されたときの寄与率である重みに分離する手法(図2)で、音声解析や画像認識分野で適用が進んでいます。本研究では新幹線等特急列車の指定席の輸送実績データを対象に、その日々の需要波動を様々な波動が混じりあった混合波動とみなして、この独立成分分析を適用しています。

3.独立成分分析を適用した需要波動推計手法

(1) 前処理

新幹線等特急列車の需要には、社会情勢や経済情勢等による緩やかかつ単調な需要変動を表すトレンド成分(図3)と、季節などの影響による一定期間ごとに繰り返される周期成分(図4)が含まれています。予測の精度を上げるため、まずはじめに指定席輸送実績データ等に対し前処理として、これら2つの成分を統計的な手法を用いて取り除きます。

(2) 独立成分分析(ICA)と重み予測式

次に、残った成分に独立成分分析を適用し、日によって不変の「基礎波動」と、各日の需要波動に対する各基礎波動の「重み」に分離します。
そして、得られた重みと将来の暦配列やイベント情報との関係性から、重み予測式を構築します。

(3) 将来のある一日の需要波動予測

得られた重み予測式に、将来のある日の暦配列とイベント情報を入力すると、その将来のある日の重みが算出できます。これに基礎波動を組み合わせ、さらに(1)で一旦とりのぞいたトレンド成分と月次周期成分を戻すことによって、将来のある一日の時間帯別の旅客数を予測することができます(図5)。
この手法を用いて実路線を対象とした予測を行い、高い精度の結果を得ることができました(図6)。

4.臨時列車運行計画策定支援システム

3.で述べた需要波動推計手法を実装した臨時列車運行計画策定支援システム(図7)では、ある一日の需要波動の予測値に基づき、その一日の計画ダイヤ上の全列車について駅間ごとの指定席の乗車率を算出します。①臨時列車(各駅の着発時刻等がすでに決まっている、いわゆる影スジ)の運行/運休の設定をシステム上で変更しその場合の各列車の乗車率を計算する機能と、②システムが運行を推奨する臨時列車を自動計算する機能、の2つの機能があり、臨時列車の設定判断を支援することができます。

参考文献

  1. 松本涼佑、奥田大樹、深澤紀子:幹線鉄道の臨時列車運行計画の策定支援にむけた日・時間帯単位の需要波動の予測手法、電気学会論文誌D、Vol. 140、No. 10、pp. 769-781、2020.10
  2. 松本涼佑、奥田大樹、深澤紀子:幹線鉄道の臨時列車運行計画策定支援システムの開発、鉄道総研報告、Vol. 35、No. 3、pp. 5-10、2021.03
  3. 松本涼佑、奥田大樹、深澤紀子:幹線鉄道の輸送計画策定支援に向けた旅客需要波動の予測手法、鉄道総研報告、Vol. 31、No. 10、pp. 17-22、2017.10