幹線鉄道の駅勢圏推定手法

1.概要

駅周辺において、その駅を利用する旅客や貨物が存在する地理的な範囲を「駅勢圏」と呼びます。交通計画研究室では、駅周辺に居住する人を対象に実施した、交通機関選択行動に関するアンケート調査のデータをもとに、特急列車など幹線鉄道の駅勢圏を推定する手法を開発しました。

2.駅勢圏の考え方

これまで駅勢圏は、駅を中心とする半径1kmや500mなどの円形であるとみなされるケースが多くありました。しかし、駅に停車する列車本数が多いなど駅の利便性が高い場合や、駅に向かう道路や路線バスが整備されているなど駅のアクセス性が高い場合は幹線鉄道の利用率は高まると考えられます。反対に、高速バスなど対抗交通機関が整備されている地点では鉄道以外の交通機関の利便性が高まることから、その周辺における幹線鉄道の利用率は低くなると考えられます。またその駅勢圏の範囲内でも、駅に近いほどその駅の利用率は高く、遠ざかるにつれて利用率は低下していくと考えられます。この幹線鉄道の利用率の高い範囲を駅勢圏と捉えると、それは一定の半径を持つ円ではなく、交通機関のサービス水準などに応じた複雑な形状をしていると考えられます(図1)。

3.駅勢圏の推定手法

幹線鉄道の駅周辺における、駅からの距離や交通機関のサービス水準などに応じた幹線鉄道の利用率を把握するため、いくつかの幹線鉄道の駅周辺に居住する人を対象としたアンケート調査を実施しました。そのデータをもとに、さまざまな交通機関のサービス水準と幹線鉄道の利用率の関係をモデル化しました。これにより、駅周辺に広がる空間における幹線鉄道の利用率を地点ごとに求められるようになりました(図2)。駅勢圏の範囲内であると見なす幹線鉄道利用率の閾値は一定ではなく、推定対象の地域や推定の目的などに応じて任意に定めます。

4.駅勢圏推定システム

駅勢圏の推定計算を容易に実行できるよう、地理情報システム(GIS)をベースとした駅勢圏推定システムを開発しました(図3)。幹線鉄道をはじめとする各種交通機関の空間データや、運行本数や費用などのサービス水準に関するデータなどを入力することにより、開発した駅勢圏推定モデルを用いて駅勢圏を推定することが可能です。

5.本手法の活用

本手法を活用すると、例えばある幹線鉄道の駅における運行本数や運賃・特急料金などのサービス水準を変化させた場合の駅勢圏の変化や、高速バスの運行本数が増えるなど対抗交通機関の輸送施策が変化した場合の影響を推定することができます。

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参考文献

  1. 鈴木崇正、渡邉拓也、松本涼佑、深澤紀子:地理情報データを活用して特急列車の利便性を評価する、RRR、Vol.78、No.7、2021.7
  2. 鈴木崇正、松本涼佑、深澤紀子:特急列車の近距離利用を対象とした駅勢圏の推定、鉄道総研報告、Vol.32、No.12、2018.12