90GHz帯ミリ波による鉄道線路内監視システム

1.はじめに

90GHz帯のミリ波は、他のミリ波帯の電波に比べて大気中の減衰が小さく、優れた伝搬特性と広い帯域利用特性を備えています。さらに、波長が3mmと短いため、レーダー等に活用した場合に高い位置検出精度でのセンシングが可能となる利点を有しています。

鉄道総研では、前述した特性を生かした90GHz帯のミリ波レーダーを鉄道沿線に設置するとともに、レーダーと制御装置・中央処理装置間を光ファイバ無線(RoF)技術で接続し、線路内の障害物を検出するシステムを提案しています(図1)。

90GHz帯のミリ波は、これまで鉄道で利用されたことのない周波数帯域であることから、鉄道環境における電波伝搬特性の把握や、列車を安全に停車させるための許容検出時間、レーダーによる検出結果からレールや電化柱、沿線の建物などの既存の地物と障害物を区別する方法など、鉄道環境への導入に向けた種々の検討を行っています。

2.試作レーダーを用いた鉄道環境における検知実験

鉄道総研所内試験線において、試作した90GHz帯レーダーによる検知実験を行いました。

(a) 地物の検出実験

地物の検知実験を行った結果、電化柱や留置した車両、周辺の構造物等を検知できることが確認できました(図2)。これは、鉄道環境における90GHz帯ミリ波レーダーによる初めての事例となります。

(b) 人の検出実験

ホーム付近の線路内に侵入した人の検知実験を行った結果、線路内への2人の人の侵入を検出し、その移動にも追従できることを確認しました(動画1)。さらに、約200m遠方から複数の人物を約50cmの分解能で区別できることを確認しました(図3)。

 
動画1 線路内に侵入した人の検知例(2人)

(c) 非金属物の検出実験

約200m先のレール上に置かれた非金属物(コンクリート塊)が、検出できることを確認しました(図4)。

以上より、これまで鉄道で使われていない90GHz帯の電波資源を活用して、線路内の障害物を検出可能であることを示すことができました。

3.今後の予定

これまでの実験結果で、鉄道環境において90GHz帯ミリ波により、遠方から人や障害物の検知が可能であることを確認できたことから、今後は、敷地内への人の侵入や、線路内での人の位置把握などの具体的事例を対象に、実用化に向けた深度化を図っていく予定です。

※ 本研究は、総務省における電波資源拡大のための研究開発「90GHz帯リニアセルによる高精度イメージング技術の研究開発」により実施したものです。

参考文献

  1. Kazuki Nakamura, Kunihiro Kawasaki, Nagateru Iwasawa, Daisuke Yamaguchi : Application of the 90GHz Band Millimeter-Wave in the Railway, WCRR2016
  2. 中村一城、川﨑邦弘、岩澤永照、山口大介:新たな周波数帯のミリ波で線路内の障害物を検出する、RRR、Vol.73、No. 2、pp.24-27、2016.02
  3. 川﨑邦弘、中村一城:ミリ波技術の鉄道応用に関する動向、鉄道総研報告、Vol.30、No.1、pp.51-54、2016.01
  4. Kazuki Nakamura, Kunihiro Kawasaki, Nagateru Iwasawa, Daisuke Yamaguchi, Keiichi Takeuchi : The Monitoring System Using 90GHz Band for Railway, STECH2015
  5. 中村一城、川﨑邦弘:鉄道における90GHz帯の活用、JREA、Vol.57、No.8、pp.7-10、2014
  6. 中村一城、川﨑邦弘、柴垣信彦、川西哲也、米本成人:90GHzを用いた線路内監視手法の検討、第51回鉄道サイバネシンポジウム論文集 論文番号626、2014
  7. 中村一城、川﨑邦弘、竹内恵一、米本成人、河村暁子、二ッ森俊一:90GHz帯ミリ波の伝送特性と線路内監視システムへの適用検討、鉄道総研報告、第28巻、第4号、pp.29-34、2014.04
  8. 中村一城、川﨑邦弘、竹内恵一、米本成人、河村暁子、二ッ森俊一:鉄道環境における90GHz帯ミリ波の電波伝搬特性、信学技報、Vol.113、No.333、MWP2013-53、pp.33-38、2013