架線・バッテリーハイブリッドLRVの研究開発

1.はじめ

回生エネルギーの有効利用による様々な効用の実現を目指して、1999年から架線と車載蓄電によるハイブリッド電源形電車の研究開発を進めてきました。2003年8月には、リチウムイオン二次電池を搭載した中古路面電車改造によるエネルギー回生形バッテリートラムの試験車両”りっちぃ・とらみぃ”を公開しています。2005年度より3年間は、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託を受け、これまでの研究で得られた技術的成果を設計に反映した営業線を走行可能な架線・バッテリーハイブリッドLRV (Light Rail Vehicle)LH02形電車 愛称:”Hi-tram(ハイ!トラム)”(図1)を開発製作しました。

2.本研究の開発要素

本研究における主な開発要素は以下の通りです。

1.車載バッテリーシステム

  • 大容量化:72kWh (600V×120A×1h)
  • 安全の確保と分散配置(コンパクトな艤装)
  • バッテリー充電残量および容量劣化推定アルゴリズム
  • バッテリーの温度上昇抑制(冷却設計)

2.駅停車中のバッテリー急速充電

  • 剛体架線による接触充電方式
  • 部材組み合わせ試験による接触点の溶着防止
  • 車軸軸受の電食防止

3.架線集電と車載バッテリーのハイブリッド制御用電力変換装置

  • 急速充電に対応した大パワー:600kW (600V×1,000A)
  • 駆動パワー:300kW(全軸駆動による高加減速と最大回生)
  • 架線とバッテリーのハイブリッド制御アルゴリズム

3.走行試験の概要

車両落成後、鉄道総研構内試験線での各種性能確認試験を経た後、2007年11月から翌2008年3月まで4ヵ月半にわたり札幌市交通局軌道線(札幌市電)において冬季寒冷地の走行試験を行い、成功裏に終えました。2009年11月にJR四国予讃線と高徳線にて鉄道線における走行試験を実施し、速度80km/hまでの安定走行を確認しました。これらの結果、今後の地方公共交通活性化へのキーワードとなる「在来鉄道(都市間鉄道)と都市内鉄道(路面電車)との相互直通運転」や、「低床トラムトレインの実現」へ向けた技術開発が大きく前進しました。

4.ハイブリッドLRVの適用例

ハイブリッドLRVの導入により、それぞれのケースにおいて以下の様な運用の実現が期待されます。

1.トランジットモール・市街地

  • 600kW級の車載バッテリーによる架線レス走行

2.市街部・非電化線区

  • 中間数駅ごと、または折返し駅等でのバッテリー急速充電走行

3.電化線区(専用軌道・JR在来線・民鉄)

  • 回生失効※2のない省エネハイブリッド走行
  • 相互直通運転(インターオペラビリティ)(図2)
  • 鉄道線 ~ 軌道線
  • 電化路線 ~ 非電化路線

架線ハイブリッドLRVの開発で培った車載蓄電技術を在来鉄道車両へと展開し、2012年度よりJR九州とともに在来線交流電車のバッテリーハイブリッド化の開発を共同で実施しています。

※2 回生失効
電力回生ブレーキをかけた際に、回生電力を受け取る負荷がなく架線電圧が上昇し回生機能を停止することで、電力回生ブレーキが作用しなくなることです。空気ブレーキなど他のブレーキに頼ることになります。
Hi-tramでは、その場合でもバッテリーに回生できるので、エネルギーを有効に利用できます。

関連ページ

参考文献

  1. 小笠正道、田口義晃:複電圧架線ハイブリッド型の電力変換回路と制御法の開発,鉄道総研報告,第22巻,第9号,pp.29-34,2008.09
  2. 小笠正道、田口義晃:架線レスLRVのバッテリー温度上昇抑制方法の開発,鉄道総研報告,第22巻,第9号,pp.41-46,2008.09
  3. 田口義晃、小笠正道:架線ハイブリッド電車用リチウムイオン電池の充電率推定手法,鉄道総研報告,第26巻,第10号,pp.35-40,2012.10