ATS-Dxの開発と自動運転システムへの応用

1.はじめに

 改正された技術基準省令57条(線路条件に応じた速度制限の実施)への適合と信号冒進防護機能を、現行ATS-Sxより強化するため、車上データベース(車上DB)を活用した車上速度照査式ATS-Dx(DN:JR北海道仕様、DK:JR九州仕様)を開発しました。ATS-Dxは、これまでのATS機能に加え、地上設備からの情報と車上データベースを活用して曲線等の速度制限区間と停止信号機に対する速度照査パターンを作成し、連続的に列車速度を監視する機能を実現しています(図1)。
 また、ATS-DKは国内初のATSによる自動運転システムとして応用され、JR九州香椎線にて実証運転が実施されています。

2.開発概要

 1999年度より基礎研究を開始し、2008年度までのシステム開発において、試作装置を用いた現車試験を行い、地上子情報および車上DBに基づく信号冒進防護機能や速度制限機能等を検証するとともに、装置の安全性評価を行い実用化に問題ないことを確認しました(表1)。ATS-Dxでは、既存のATS-Sxの車上子が使用できるとともに、速度パターンの発生・消去に用いる有電源の地上子では既設のATS地上子ケーブル等を利用できるようにしました。さらに、位置情報を車上装置に伝送するためのATS-Dx地上子は電源ケーブルレスにして導入コストの低減を図りました。また、現行ATS-Sxとの機能互換性を確保したことで、ATS-Dxへの段階的な移行ができます。開発した地上装置と車上装置の写真を図2に示します。
 なお、ATS-DxはJR北海道およびJR九州の在来線区間に実導入され、保安度向上に貢献しています。

3.自動運転システムへの応用

 2017年度よりATS-DKをベースとした自動運転システムの開発を開始し、量産版試作装置を用いた現車試験を実施するとともに安全性評価を行い実用化に問題ないことを確認しました(図3)。本システムは、国内初のATSによる自動運転システムとして、2020年12月24日よりJR九州香椎線にて運転士が乗務した状態での営業列車での実証運転を開始しました。現在、動力車操縦免許を持たない係員を前頭に添乗させる形態による自動運転を目指し、関係各社にて検討を進めています。

参考文献

  1. 新井英樹、佐藤和敏:車上速度照査式ATS-Xの基本システム開発、鉄道総研報告、第20巻、第10号、pp.5-10、2006.10
  2. 藤田浩由、新井英樹、佐藤和敏、門脇雅明、貞苅路也:車上データベースを用いたATS-Dxの開発、鉄道総研報告、Vol.24、No.3、pp.5-10、2010
  3. 藤田浩由、野村拓也、青柳孝彦、森田隼史:ATS-DKを活用した自動運転システムの開発、鉄道総研報告、Vol.35、No.10、pp.5-10、2021
  4. Hiroyuki FUJITA, Hideki ARAI, Kazutoshi SATO: Development of New Type Automatic Train Protection ATS-Dx with Permissible Speed Profile Using On-board Database, QR of RTRI, Vol. 51, No. 4, pp. 189-195, 2010
  5. Hiroyuki FUJITA, Takuya NOMURA, Takahiko AOYAGI, Shunji MORITA: Development of Automatic Train Operation System Based on Intermittent Type ATP with Continuous Speed Checks, QR of RTRI, Vol. 63, No. 3, pp. 187-192, 2022

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