Wi-SUNによるモニタリングシステムの研究

1.はじめに

列車を安全に走行させるためには、構造物、軌道、電力、信号通信等の設備を適正な状態に維持する必要があります。そこで、Wi-SUNと呼ばれる日本発の近距離無線通信技術や多数のセンサーから効率よくデータを伝送できるネットワーク制御技術を、鉄道設備の状態監視に適用するための研究開発を実施しています。

2.鉄道環境における通信ネットワーク基盤システムの適用条件

鉄道設備のモニタリングの現状等から、鉄道向けのアプリケーションを開発する上で考慮すべき諸条件を整理しました。また、これら諸条件を踏まえて各鉄道設備のモニタリングに要求されるセンシング項目やセンシング頻度、環境条件などの適用条件をまとめました(表1)。

3.鉄道総研構内試験線沿線における伝送特性の検証試験

鉄道総研の構内試験線沿線に加速度センサーを搭載したWi-SUN規格の無線機を11台設置して、鉄道環境における基本的な伝送特性の検証試験を実施しました(図1)。

4.車上におけるセンシングデータ取得試験

「Wi-SUNセンサーによる鉄道車両の走行時の加速度データの取得」ならびに「鉄道車両の走行時の通信状態の確認」を目的に、鉄道総研の試験用電車を用いた実証試験を実施しました(図2、動画1)。

動画1 試験用電車を用いた走行試験

5.模擬盛土におけるセンシングデータ取得試験

「Wi-SUNセンサーによる盛土崩壊時の加速度データの取得」、ならびに「雨中および盛土崩壊時の通信状態の確認」を目的に、鉄道総研の大型降雨実験装置を用いた実証試験を実施しました(図3、図4)。

6.実フィールドにおける検証試験

Wi-SUNを用いたプロトタイプシステムを開発し、実際の鉄道沿線斜面に設置して約1年間の検証試験を実施しました。その結果、99.99%の到達率でデータを収集できることを確認し、鉄道環境で十分に活用可能な性能を有していることを実証しました。

7.今後の計画

今後も引き続き、鉄道環境におけるWi-SUNを用いた通信ネットワーク基盤システムの有効性を評価・検証する予定です。

*本研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「ソーシャル・ビッグデータ利活用・基盤技術の研究開発」により得られたものです。

参考文献

  1. 羽田明生、川﨑邦弘、岩澤永照:鉄道業務用通信ネットワークの設計手法、2015年電子情報通信学会総合大会、D-1-3、2015
  2. Zhi Liu, Toshitaka Tsuda, Hiroshi Watanabe, Nagateru Iwasawa, Akio Hada:“Sensor Data Characteristics in the Wireless Train Track Unusual Notification”, The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers, Technical Committee on Communication Quality, 2015
  3. 岩澤永照、羽田明生、流王智子、川村智輝、野末道子、川﨑邦弘:鉄道現場における Wi-SUN を利用した状態監視システム の適用可能性の検証、情報処理学会研究報告、Vol.2015-ITS-62、No.1、2015
  4. 岩城詞也、流王智子、岩澤永照、野末道子、川村智輝:鉄道沿線斜面における無線センサーネットワークの構築、第24回鉄道技術連合シンポジウム(J-RAIL2017)、S2-6-2、2017
  5. 野末道子、中村一城、流王智子、岩澤永照、岩城詞也、川村智輝、木下裕介、加辺徹:鉄道設備モニタリングへのWi-SUN技術の適用について ~ 鉄道士構造物を対象として~、信学技報、Vol.117、No.352、RCS2017-257、pp.41-46、2017
  6. 野末道子、流王智子、岩澤永照、岩城詞也、川村智輝、中村一城、加辺徹、高橋夏樹:鉄道向け状態監視用センサーネットワークのM2M クラウドアプリケーション開発、情報処理学会第80回全国大会、1D-05、2018
  7. 野末道子、岩澤永照、流王智子、川村智輝、川﨑邦弘、岩城詞也:鉄道環境におけるWi-SUN センサーネットワークの活用、鉄道総研報告、第32巻、第5号、pp.17-22、2018
  8. 中村一城:鉄道環境におけるWi-SUN活用に向けた取り組み、鉄道総研第321回月例発表会、2018