非接触(ワイヤレス)給電システムの研究開発
1.概要
図1 磁界結合方式によるWPTの原理
バッテリー電車やハイブリッド気動車など、車載蓄電デバイスから走行用電力を供給する車両に対する給電システムの選択肢の一つとして、非接触給電(ワイヤレス給電:WPT)技術の研究開発を行っています。
WPTシステムは従来の接触式給電と比較し、
①課電部の露出がなく感電・漏電の危険性が低い
②摩耗がなくメンテナンス低減を図れる
という利点があります。WPTの方式として、大電力用途に適した磁界結合(磁界共鳴)方式を採用しています。これは、変圧器と同様の原理により、対向したコイルの間で変動磁場を介して電力を伝送するものです(図1)。したがって、車両の走行状態に関係なく電力伝送を行うことが可能で、地上側の給電コイルを連続的に敷設すれば、走行中の給電にも対応できます。
2.システム構成の特徴
図2 システム構成の概要
十分な電力伝送を行うためにはコイル通電電流の周波数を高める必要があります。開発システムでは国内法規の制約と高周波通電により増大する損失を抑制する観点から、10kHz弱に設定しています。
システム構成の概要を図2に示します。軌道上レール間に設置された給電コイルに、高周波インバータから単相高周波交流が供給されます。これにより発生する磁束が、車両床下に搭載された集電コイルと鎖交することで誘導電圧が生じ、電力を伝送することができます。このとき、電力伝送に寄与しない漏れ磁束も同時に生じますが、これによる皮相容量増大をコンデンサ挿入により補償する(LC共振)ことで、システムの力率・効率を最大化します。
鉄道環境においては、コイルの至近に磁性導体であるレールが存在しています。これはコイル間の磁気結合に影響を及ぼすだけでなく、高周波の漏れ磁束が鎖交すると大きな損失を生じます。これを低減するため、軌道中心に磁場を集中(図3参照)させることが可能な8の字(ⅮⅮ)形状コイルを採用しています。また、8の字形状であれば、左右レールと輪軸により構成されるループ回路に鎖交する磁束がキャンセルされるため、このループ電流による損失も抑制されます(図4)。
3.研究開発
原理実証システム
2014年に製作した原理実証システムでは、コイル間ギャップ(メカニカルクリアランス)を許容される最小値とし、車上集電コイルを低圧・薄型に設計することを優先しました。一般的な在来線車両1両につき、最大300kWを集電可能です。また、1台16.7kW集電可能なコイルパネルの搭載台数により、総集電電力を容易に調整可能なモジュラー設計を採用しています。また、地上給電コイルはケーブル1条のみからなる空芯の簡素な構成とし、敷設コストと保線作業への影響の低減を図っています。
所内試験線に給電コイルを敷設し、集電コイル3パネルによる50kW級電力伝送試験を実施しました。走行中を含め、設計通りの電力伝送が可能であることを実証しました(図5,6)。
集電電力密度の向上とコイル間ギャップの拡大
2021年には、より実用的なシステムの構築を目指し、コイル間ギャップを2倍に拡大すると同時に、車上集電パネルの専有面積を1/3、すなわち集電電力道度を3倍に向上した改設計システムを製作しました。大幅な性能向上を実現するため、大断面積のリッツ線ケーブルを使用し、高電圧に対応可能な樹脂モールド構造とした車上集電コイルを新たに設計しました(図7)。原理実証システムのような小さなコイルによるモジュラー構造では、電力伝送に寄与しないまくらぎ方向のコイル辺が大きなスペースを占めます。そのため、1パネルのレール方向寸法を可能な限り拡大することが求められました。新たに設計した車上コイルは、約1.5mのレール方向寸法で、150kWの集電性能を有しています。なお、一般的な在来線車両1両には最大7台搭載することができ、1MW級の集電に対応可能です。
本設計の構造をそのままに、レール方向寸法を縮小した50kW級コイルを製作し、車両取付状態での電力伝送試験(図8)にて設計通りの性能を確認しました。また、短尺地上コイルを使用した試験(図9)において、コイル間効率90%以上での電力伝送を実証しました。
参考文献
- 依田裕史,浮田啓悟:車上集電電力密度を向上した鉄道車両用非接触給電システム,鉄道総研報告,Vol. 36, No. 6, pp. 13-20, 2022
- 依田裕史,田口義晃:バッテリー電車による非電化区間の脱炭素化と給電システム,RRR, Vol. 80, No. 4, pp. 26-31, 2023
- H. Yoda, “Development of WPT systems for railway vehicles and study for low-frequency application,” in Proc. IEEE Wireless Power Technol. Conf. Expo., 2024, pp. 536–541(※)
- 浮田啓悟,坂本泰明:非接触で鉄道車両に電力を供給する,RRR, Vol. 78, No. 10, pp. 8-11, 2021
- 浮田 啓悟, 坂本 泰明, 柏木 隆行, 近藤 圭一郎, 若尾 真治:鉄道車両用非接触給電装置の集電コイルにおけるフェライトコア削減の検討,日本AEM学会誌, Vol. 28, No. 4, pp. 276-281, 2021(※)
- 依田裕史,坂本泰明,柏木隆行,笹川卓:車上集電電力密度を向上した鉄道車両用非接触給電システム,鉄道総研報告,Vol. 33, No. 5, pp. 17-22, 2019
- 浮田 啓悟, 柏木 隆行, 坂本 泰明, 近藤 圭一郎:磁気結合特性とレールにおける損失を考慮した鉄道車両用非接触給電装置のコイル設計法,電気学会論文誌D, Vol. 137, No. 6, pp. 518-525, 2017(※)
- 柏木隆行,浮田啓悟,坂本泰明,加藤佳仁:鉄道車両用非接触給電装置の電力供給性能検証,鉄道総研報告,Vol. 29, No. 11, pp. 35-40, 2015
- Ukita, K., Kashiwagi, T., Sakamoto, Y. and Sasakawa, T., “Evaluation of a non-contact power supply system with a figure-of-eight coil for railway vehicles,” presented at the 2015 IEEE PELS Workshop on Emerging Technologies: Wireless Power, Daejeon, South Korea, June 5-6, 2015(※)
- 柏木隆行,長谷川均,加藤佳仁,坂本泰明,浮田啓悟:非接触給電コイルにおける導体の近接効果による損失の検討,鉄道総研報告,Vol. 27, No. 7, pp. 29-34, 2013
- 柏木隆行,長谷川均,坂本泰明,加藤佳仁:在来方式鉄道用非接触給電装置に用いるコイルの構成,鉄道総研報告,Vol. 26, No. 5, pp. 41-46, 2012
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