浮上式鉄道の車両運動解析

1.概要

浮上式車両は、在来方式車両(鉄車輪・レールによる鉄道の車両)と比較して、車両の運動を考えるうえで2つの大きな相違点があります。

1つ目は、在来方式車両の台車枠~軸箱間の軸ばね・軸ダンパに相当する1次支持系が、浮上式車両では非接触の電磁気的なばね(磁気ばね)によって構成されている点です(図1)。

2つ目は、磁気シールド効果向上や低重心化による車両運動特性向上・空気抵抗低減等を目的として、先頭台車を除き、車体間に台車を配置する連接台車方式を採用している点です(図2)。

このように在来方式車両とは異なる特性を持つ浮上式車両を対象として、乗り心地向上策、長大編成の運動特性解明等に関して、計算機シミュレーションと模型実験装置(下記関連ページ参照)を併用して研究を実施しています。

2.振動制御による乗り心地の向上

浮上式鉄道をより快適な交通機関とするため、台車~地上間の電磁気特性を含む1次支持系と、車体~台車間の空気ばね・ダンパから構成される2次支持系のそれぞれに振動制御を適用し、浮上式車両の更なる乗り心地向上を目指しています。

新たな振動制御手法の一例として、図3に予見制御の原理を示します。予見制御とは、車両の先頭台車の振動情報を後方の車両の振動制御に用いるフィードフォワード制御です。台車の運動の再現性が高い浮上式車両において有効な制御則であり、このような新しい制御則の浮上式車両への適用可能性を検討しています。

3.電磁力との連成シミュレーション

浮上式車両の磁気ばねには、車両の重量や走行速度などによりばね定数が変化すること、ばねの作用方向と復元力・モーメントは複雑に連成する関係があること、大変位では非線形の特性となることなどの特性があります。

そこで、浮上式車両運動シミュレーションでは、この磁気ばねの特性を再現した電磁力計算モデルと、大変位での挙動解析が可能なマルチボディダイナミクスモデル(図4)とを組み合わせた連成計算手法を構築しました。電磁力の計算は繰り返し演算が多く時間を要するため、並列計算手法を導入することで計算速度の向上も図っています。

本研究の一部は、国土交通省の交通運輸技術開発推進制度の助成を受けて実施しました。

関連ページ

参考文献

  1. 鈴木江里光:浮上式車両の乗り心地改善のための振動抑制に関する研究,第223回 鉄道総研月例発表会講演要旨,2009
  2. 米津武則,星野宏則,鈴木江里光,渡邉健:浮上式車両の大変位挙動解析のための電磁力連成モデルの構築,鉄道総研報告,Vol. 26, No. 5, pp. 5-10, 2012
  3. 渡邉健,星野宏則,鈴木江里光,米津武則:浮上式鉄道における編成車両の運動特性,鉄道総研報告,Vol. 25, No. 3, pp. 23-28, 2011
  4. 鈴木江里光,渡邉健,星野宏則:浮上式車両模型実験装置による車両運動の基礎特性試験,鉄道総研報告,Vol. 22, No. 11, pp. 5-10, 2008
  5. Suzuki, E., Watanabe, K., Hoshino, H., Yonezu, T. and Nagai, M., "A Study of Maglev Vehicle Dynamics Using a Reduced-Scale Vehicle Model Experiment Apparatus", Journal of Mechanical Systems for Transportation and Logistics, Vol. 3, No. 1, pp. 196-205, 2010(※)

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