30. コンクリートの膨張劣化を促進する影響要因

 コンクリートの劣化のひとつにエトリンガイトの遅延生成(Delayed Ettringite Formation:DEF)があります。DEFは、コンクリート中に生じるエトリンガイトと呼ばれるセメント水和物質が、高温環境下で分解した後に経年で再生成し、コンクリートの膨張ひび割れを引き起こす現象です。

 鉄道のコンクリート構造物では従前から知られているアルカリシリカ反応とDEFの複合劣化が疑われる事例(図1)が見られますが、従来はDEFが生じやすい促進環境を対象として研究されてきており、一般的な環境下のコンクリート構造物でDEFが発生する可能性、及びアルカリシリカ反応のDEF発生への影響の有無はわかりませんでした。

 そこで、この影響を検討したところ、アルカリシリカ反応が生じるとコンクリートのpHが低下し、DEFによるコンクリートの膨張が生じやすくなることがわかりました(図2)。
 また、硫酸塩量や水分供給量が極端に多くない一般的な環境下でも、アルカリシリカ反応と複合してDEFによる膨張が生じ、また実構造物と類似の膨張ひび割れが生じたことから、一般的な環境下のコンクリート構造物においても同様の複合劣化によるひび割れが生じることがわかりました(図3)。
 施工時に高温履歴を受けた構造物等ではDEFが発生し、コンクリートのpHの低下がこれを促進させる可能性があるため、補修時にDEFの影響を考慮する必要があることがわかりました。