列車内旅客行動シミュレータ

1.概要

 駅での整列乗車方法の変更等、乗降円滑化施策による遅延縮小効果を事前に検証する目的で、旅客の乗降状況を詳細に再現する列車内旅客行動シミュレータを開発し、列車運行・旅客行動シミュレータと連成動作させました。

2.背景

 大都市圏の通勤路線では、列車の混雑と、駅での乗降時間の延びに起因する慢性的な列車遅延が課題となっています。鉄道事業者では、列車遅延の防止を図るため、列車ダイヤの変更、駅での整列乗車方法の変更、駅ホームの拡幅といった施策を進めています。しかし、これらの施策による乗降時間や列車遅延の短縮効果を、事前に定量的に見積もる手法が確立されていないという課題があります。
 そこで、まず、Webアンケート調査を実施し、旅客の列車内での乗車位置の嗜好を明らかにしました。次に、これを反映した、駅乗降時の旅客挙動を推定する列車内旅客行動シミュレータを開発しました。そして、既開発の列車運行・旅客行動シミュレータと連成動作させ、駅での乗降方式の変更が、路線全体の列車遅延に与える影響を推定可能としました。

3.旅客の列車内での乗車位置の嗜好に関する調査

 Webアンケート調査を約1,000名に対して実施し、車内の混雑度に応じた、列車内の立ち位置の選択と、その選択理由について質問しました(図1)。その結果、車内の混雑度が比較的低いケースにおいては、①や③といった、ドア近くの座席側の立ち位置が、車内の混雑度が比較的高いケースにおいては、座席と座席の間の中央の通路が、立ち位置として選択されやすいことがわかりました。また、列車内の立ち位置を選択する理由として、降車駅で早く降車できること、周囲の旅客に押されず楽に立てることが、挙げられる傾向にありました。

4.列車内旅客行動シミュレータ(乗降推定機能)

 次に、旅客の乗車位置の嗜好を反映し、駅乗降時の各旅客の挙動を推定するシミュレータを開発しました。図2に乗降推定手順を示します。まず、乗降を推定する対象列車・駅・号車・扉を設定し、その扉における降車/乗車/継続乗車の旅客の位置の情報から、再乗車(一度、ホームに降り、再度乗車する行動)となる旅客を特定します。次に、降車シミュレーションとして、すべての降車旅客が車外に出るまでの旅客挙動を推定します。その後、継続乗車旅客が、車内の空いた座席や望ましい立ち位置に移動する挙動を推定します。そして最後に、乗車シミュレーションとして、すべての乗車旅客が車内に入るまでの挙動を推定します。これら一連の乗降挙動の時間ステップ数を、乗降に要する時間とします。

 降車/乗車旅客の挙動は、図3のように、車内・ホームを格子状に区切った図面上を旅客が移動することで表現します。各旅客の移動経路の推定にあたっては、現在の位置から移動先の位置までの最短経路を探索します。ここで、各エリアの周辺の旅客数を考慮し、移動距離が短く、かつ他の旅客が少ない場所を経由するようにします。また、継続乗車旅客のうち、多くの降車旅客が通過する位置に立っている旅客は、再乗車するものとして、一度、車外に出る挙動を再現しています。

5.列車運行・旅客行動シミュレータとの連成

 乗降時間の変化による路線全体での遅延縮小効果を推定するため、列車内旅客行動シミュレータを列車運行・旅客行動シミュレータと連成させました(図4)。列車運行・旅客行動シミュレータは、自動改札機で取得される旅客データと、計画ダイヤデータを利用して、各旅客の列車乗継経路、乗車号車を推定したうえで、これを全旅客集約し、列車の号車・扉毎の混雑や、列車遅延を推定するものです。この列車運行・旅客行動シミュレータに対して、列車内旅客行動シミュレータで推定された、列車の扉毎の乗降時間を反映し、列車の遅延を推定する機能を新たに構築しました。これにより、路線全体での列車遅延の増減や、旅客サービスへの影響が定量的に評価可能となりました。

6.今後の展開

 本手法を様々な路線、車両形式に適用し、提案手法の有用性を検証していきます。

関連ページ

参考文献

  1. 國松武俊,草部博輝,山田良平:列車運行シミュレータに対応した列車内旅客行動推定機能の開発,令和元年度電気学会産業応用部門大会論文集,2019
  2. 國松武俊,草部博輝,山田良平:列車内旅客行動推定機能による乗降状況の評価,令和2年電気学会全国大会論文集,2020