省エネ運転に関する研究

1.概要

近年、エネルギー資源の安定供給確保と地球温暖化防止のために、省エネが重要視されています。列車の走行エネルギーは運転方法によって大きく変動するため、効率的な運転操作をすることで列車運行に関わる消費エネルギーを削減することができます。
本研究室では、省エネとなる効率的な運転操作や運転整理に関する研究開発を行っています。
そこで、列車の回生電力も考慮した省エネ運転曲線(以下、「ランカーブ」)を提案する手法を開発しました。また、列車の遅延が発生した場合において、駅間走行時分を調整することで、省エネ効果が得られるような運転整理ダイヤを提案する手法を開発しました。

2.省エネランカーブ

① 概要

鉄道はダイヤがあらかじめ定められており、運転士は設定された駅間走行時分に合わせた運転操作をしています。列車は、加速させる操作(力行)と減速させる操作(ブレーキ)と何もしない操作(惰行)の組み合わせで運転しており、主に力行時にエネルギーを消費します(力行電力)。
現在、ほとんどの電車はブレーキ時に発電して架線に回生電力を返すブレーキ(回生ブレーキ)を搭載したものになってきています。回生電力が発生しているときに、近くで力行している列車が存在すれば、回生電力は有効に利用されます(回生融通)が、存在しない場合には、回生電力は熱となって逸散し(回生絞り込み)、回生ブレーキによる省エネ効果が得られません。したがって、省エネのためには、個々の列車単独での運転操作の工夫だけでなく、近くを走行する列車同士の力行と回生のタイミングを合わせて、回生融通量が大きくなるような運転操作ができるようになると効果的です。
そこで、回生融通を考慮して、路線全体で列車運行に関わる消費エネルギーを最小化するような、ダイヤ上の各列車・各駅間のランカーブを求めるアルゴリズムを開発しました。

② アルゴリズムの特徴

列車運行に関わる消費エネルギーを最小化するような、ダイヤ上の各列車・各駅間のランカーブの組み合わせを求めるという課題を、組み合わせ最適化問題ととらえました。
まず、ダイヤ上の走行時分を遵守しながらブレーキノッチを変更することで、実際に走行可能な複数の運転操作方法(以下、「運転パターン」)を、ダイヤ上の各列車・各駅間に対して準備します。同一走行時分での運転パターンとランカーブの例を図1に示します。
以上のデータ準備とモデル化を用いて、列車運行に関わる消費エネルギーを最小化することを目的 関数とし、列車間の距離に依存する抵抗値を用いてき電損失を表した回生融通に関する電力のやりとりを制約条件として、定式化しました。

③ 試算結果

実規模路線に対して、提案アルゴリズムで求めたランカーブによる省エネ効果を試算しました。走行可能な複数の運転パターンの準備には、対象路線の営業列車で記録されたブレーキ扱いデータを用いて、過去の運転操作を参考にして6パターン(A~F)を設定しました。
鉄道総研で開発した列車運行電力シミュレータを活用して試算した結果、図2に示す通り、運転パターンA~Fを組み合わせた省エネ運転では、通常の運転操作と比較して、約5.5~7.5%の省エネ効果が見込めることを確認しました。また、省エネ運転では通常の運転操作よりも、回生融通電力を考慮して力行と回生のタイミングを合わせるような運転パターンを選択しているため、回生絞り込み量が小さくなる傾向があることも確認しました(図3参照)。

3.走行時分調整による省エネ運転整理ダイヤ

① 概要

2章は計画時の列車ダイヤを対象とした省エネ運転を想定していますが、実際には列車の遅延など、列車ダイヤが乱れることがあります。そこで、列車の遅延が発生した場合において、簡易な数理最適化計算を用いて、高速かつ効率的に省エネ効果が得られるアルゴリズムを開発しました。
一般に、ある駅間において、何らかの理由で走行時分が通常より長くなっても構わない状況となった場合には、走行速度を下げられる余地が生じます。これは、ニュートン力学の運動エネルギーの式から、当該駅間における力行に要するエネルギー(電力量)を削減する余地が生じることを意味します。そこで、列車が遅延した場合に、運転間隔調整などのために駅で停車する時間を、駅間走行時分に割り振り、その分だけ走行速度を抑えることを考えました。
図4に示す通り、この手法では、終着駅に到着する時刻は変わらずに旅客利便性を保ったまま、省エネ効果を得られる走行時分調整方法を提案し、省エネ運転整理ダイヤを作成することができます。

② アルゴリズムの特徴

前述したとおり、理想的には一般に駅間走行時分を延長するほど省エネとなりますが、実際には駅間によって距離や勾配、速度制限などの線路条件が異なるため、一律に走行時分を伸ばすだけでは省エネ効果は最大化できません。したがって、走行時分を伸ばしたときの力行電力量の減少量が大きく、より高い省エネ効果が見込める駅間に優先して割り振ることで、効率的に省エネとなる運転整理ダイヤが得られます。
そこで、駅間走行時分を延長したときの力行電力量減少量を最大化するように、運転間隔調整などを行う列車ごとに駅間走行時分を割り振る駅間の組み合わせを求める、組み合わせ最適化問題ととらえました。この数理モデルでは、個々の列車で独立した計算となることから高速に解を求めることができ、リアルタイムに省エネ運転整理ダイヤを提案できます。

③ 試算結果

実規模路線に対して、提案アルゴリズムで省エネ運転整理ダイヤ(図5参照)を求め、列車運行電力シミュレータを用いて省エネ効果を試算しました。なお、図5の赤色およびピンク色で示している列車・駅間が、駅間走行時分を調整したものです。
図5中のある1列車のランカーブを抜粋比較したものを図6に示します。駅間走行時分を延長することで、力行最高速度が低くなるとともに、駅間での再力行がないランカーブ となっています。
その結果、図7に示す通り、省エネ運転整理ダイヤでは、通常の運転整理ダイヤと比較して、約1.2~1.9%の省エネ効果が見込めることを確認しました。

参考文献

  1. 武内陽子、田口東、小川知行、森本大観:き電回路の簡易模擬とブレーキパターン選択による列車運行エネルギーの最小化、自動車/交通・電気鉄道合同研究会、電気学会、VT-20-077/TER-20-073、2020
  2. 小久保達也、国崎愛子、武内陽子、田中峻一:省エネ効果ランキングに基づいた走行時分変更による省エネ運転整理ダイヤ作成、交通・電気鉄道/リニアドライブ合同研究会、電気学会、LD-21-008/TER-21-008、2020
  3. 国崎愛子、武内陽子、小久保達也、田中峻一、小川知行、生出珠之助、明石太輔:力行電力変化量に基づいた走行時分変更による省エネ運転整理ダイヤ作成、交通・電気鉄道/マイクロマシン・センサシステム合同研究会、電気学会、TER-21-031,MSS-21-024、2020