列車運行の省エネルギー化に関する研究

1.概要

近年、環境問題への意識が高まり、カーボンニュートラルを目指して、更なる省エネ化が重要視されています。列車の走行エネルギーは運転方法によって大きく変動するため、効率的な運転操作をすることで列車運行に関わる消費エネルギーを削減することができます。そこで、列車の回生電力融通を考慮した省エネブレーキの効果的な適用方法を開発し、列車運行電力シミュレータを用いて省エネ効果を確認しました。また、列車運行全体で省エネルギーとなるよう、列車ダイヤや運行管理手法を調整する手法を開発しました。

本成果に関する発表により、電気学会より2020年度に産業応用部門論文賞を、2023年度に優秀論文発表賞を受賞しました。

2.省エネブレーキの効果的な適用方法

① ブレーキ扱いの使い分けによる省エネ運転方法

省エネ運転を実現するためには、力行電力量を削減すると同時に回生電力が他列車で有効活用される機会を増やすことが重要です。回生電力が十分に融通される条件では、最大加速して、惰行をなるべく長く取り、強いブレーキで止まることが省エネとなります(図1実線「一括ブレーキ」)。一方で、在来線の車両は構造上、高速域での強いブレーキは機械ブレーキの割合が高く、省エネにつながりにくいという性質があります。これらのことから、列車の走行条件によっては、高速域は弱め、低速域は強めの段階的なブレーキ扱いが省エネとなると考えられます(図1破線「2段ブレーキ」)。そこで、シミュレーションによる回生電力融通状況の評価結果に基づいて、一括ブレーキと2段ブレーキを使い分ける省エネ運転方法を提案しました。

② 列車運行電力シミュレータを用いた試算結果

ある路線の終日の列車ダイヤに対して、補機電力が異なる外気温15℃相当と30℃相当の設定で、列車間回生融通を考慮した消費電力の計算が可能な列車運行電力シミュレータを用いた試算を実施しました。 運転士の実際のブレーキ操作を再現した場合を基準として、各列車の各駅間で省エネとなるブレーキ扱い(一括ブレーキまたは2段ブレーキのいずれか)を適用した場合の変電所供給電力量合計を比較し、約6~7%の省エネ効果を確認しました(図2)。

3.列車運行全体の省エネ化を図る列車ダイヤ・運転間隔調整手法

① 考案した列車ダイヤ調整手法

列車は、加速させる操作(力行)と減速させる操作(ブレーキ)と何もしない操作(惰行)の組み合わせで運転しており、主に力行時にエネルギーを消費します(力行電力)。
一般に、ある駅間において、列車を低速で走行させると、ニュートン力学の運動エネルギーの式から、当該駅間における力行に要するエネルギー(電力量)を削減する余地が生じます。利便性を極力低下しない範囲内で、低速で走行させることで、効率的に力行電力量を削減することができます。そこで、始発駅から終着駅までにかかる所要時間は変えない制約条件のもと、力行電力量の合計を最小化するように、列車ごとに各駅間の走行時分の組み合わせを求める、組み合わせ最適化問題ととらえて、力行電力量を削減するアルゴリズムを構築しました。

また、現在、ほとんどの電車はブレーキ時に発電して架線に回生電力を返すブレーキ(回生ブレーキ)を搭載したものになってきています。回生電力が発生しているときに、近くで力行している列車が存在すれば、回生電力は有効に利用されます(回生融通)が、存在しない場合には、回生電力は熱となって逸散し(回生絞り込み)、回生ブレーキによる省エネ効果が得られません。したがって、省エネのためには、個々の列車単独での走行時分の工夫だけでなく、近くを走行する列車同士の力行と回生のタイミングを合わせて、回生融通量が大きくなるようなダイヤを設定できるようになると効果的です。そこで、近くを走行する列車同士の力行とブレーキの重なる時間の合計を最大化するように、各列車の着発時刻をスライドする時間の組み合わせを求める、組み合わせ最適化問題ととらえて、回生電力を有効活用するアルゴリズムを構築しました。

図3に示す通り、この手法では、元となる列車ダイヤの始発駅から終着駅までにかかる所要時間を変えずに、力行電力量の削減と回生電力の有効活用を組み合わせるよう、元となるダイヤを調整します。

② 省エネ効果の試算例

実規模路線の日中時間帯、約40分間の列車ダイヤを対象に、提案アルゴリズムを適用し出力されたダイヤ(図4)について、列車運行電力シミュレータを用いて省エネ効果を試算しました。その結果、図5に示す通り、元となるダイヤと比較して、約6.3~10.5%の省エネ効果が見込めることを確認しました。また、提案手法の応用により、一部時間帯だけでなく終日を対象に、ダイヤを調整することも可能です。

③ 小規模遅延時の省エネを考慮した運行管理手法

多数の列車が運行される大都市通勤路線では、後続列車に遅延が発生すると、先行列車に対して運転間隔の調整を指示する運行管理が行われる場合があります。この間隔調整の時間や実施する駅などの運行管理の方法についても、遅延の縮小や混雑の拡大防止という従来の観点に加え、省エネの観点で調整できる余地がある場合があります。そこで、遅延が発生した当日の実績ダイヤ(間隔調整を含んだもの)に対し、①のダイヤ調整手法を適用することで、より省エネに繋がるような、間隔調整の実施駅と調整時間を導出する手法を考案しました。

実規模路線を対象に、夕方の1時間程度の列車ダイヤと5分程度の遅延に対して、提案手法を適用し、省エネに繋がる運転間隔調整手法と、それを実施した場合の運行ダイヤ(図4参照)を推定しました。提案手法の適用前後の運行ダイヤに対し、列車運行電力シミュレータを用いて省エネ効果を試算しました。なお、図6では遅延初列車を赤色で、運転間隔調整を手配する列車・駅間を太字で示します。その結果、提案手法による調整を行うことで、約2%の省エネ効果が見込めることを確認しました。

参考文献

  1. 武内陽子:回生電力融通を考慮した省エネブレーキの効果的な適用方法、第356回鉄道総研月例発表会、2022
  2. 国崎愛子、武内陽子:力行電力量の削減と回生電力の有効活用による列車ダイヤ省エネ化手法の開発,ITS/交通・電気鉄道合同研究会、電気学会、ITS-23-020/TER-23-087、2023
  3. 国崎愛子、武内陽子:省エネダイヤ作成手法における回生電力有効活用アルゴリズムの改良,交通・電気鉄道研究会、電気学会、TER-24-054、2024
  4. 国崎愛子、武内陽子:力行電力量の削減と回生電力の有効活用による終日の省エネダイヤ作成、2024年電気学会産業応用部門大会、5-13、2024
  5. 国崎愛子、髙田真由、武内陽子:省エネルギー化のために列車ダイヤを工夫する、RRR Vol.80 No.4、鉄道総研、2023
  6. 国崎愛子、武内陽子:小規模遅延時を対象とした省エネ運転整理ダイヤ作成手法の構築、鉄道総研報告 第38巻 第4号、鉄道総研、2024