模型走行実験による車両着雪対策の空力検討

1.はじめに

新幹線が冬期の積雪地域を走行する際、車両の下回りに付着した雪や氷の塊が落下して高速度で飛散すると、線路周囲の機器に衝突して設備を損傷させる場合があります。この対策として、一般的には軌道側の融雪装置を用いて駅等での停車時に着雪の除去作業が行われますが、走行ダイヤへの影響や融雪コストの課題などがあります。 このため、本研究は高速車両の空力を利用した台車内の着雪抑制を目的としています。研究を進めるにあたっては、新たに開発した模型列車走行装置を用いて、軌道に積雪した条件の走行を再現し、雪粒子の流れと台車への付着状況を調べている点に特長があります。

2.模型列車走行装置

模型走行装置は、縮尺約1/11の模型軌道を屋外の高架橋上に、直線で約380m敷設したものです(図1)。模型列車の最大長さは6両-13.2m、最高速度は27.8m/s (100km/h)です。車両は実物と同じように車輪が回転して、レール上を走行します。ただし、車両側にモーターやブレーキ装置はなく、先頭車と後尾車に接続した特殊なロープを地上の牽引装置で制御することにより、短い区間での加速と減速を実現しています。

本実験装置は、列車周りの流れを調べる一般的な風洞実験と異なり、実際に列車が軌道上を走行することで車両床下のクエット流れや車輪の回転風を再現できることに加え、列車の移動に伴って地上側に生じる列車風や圧力変動も再現できる特長があります。また、積雪を模擬した粒子(模擬雪)を軌道上へあらかじめ散布することで、列車走行による模擬積雪の飛散現象(図2)と台車内への雪の浮遊運動、さらには対策箇所の雪の付着状況を調べることができます。

 
模型列車走行実験の様子

※上記の動画は外部の動画サイトの埋め込みリンクです。

3.走行風を利用した着雪対策

本研究では送風ファンなどの駆動源は用いずに、高速走行時の走行風を利用した着雪対策を検討しました(図3)。この対策は、台車側面に設けた開口部(インテーク)から走行風を直接取り込み、取り込んだ風を車輪下流付近の着雪が成長しやすい箇所等へ噴き出すものです。これにより、対策箇所の着雪を直接的に抑制するとともに、台車内への雪粒子の流入を抑えることを目的としています。

対策の有無で着雪状況がどのように変化するかを、模型走行実験で調べた例を図4に示します。ここで、カラーバーは模擬雪の付着濃度を表し、色が赤いほど実際の着雪量が多いことに相当します。
対策無しの場合、台車内に流入した雪粒子が滞留しやすい横隅付近(図4の白枠部分)で着雪量は多い傾向が見られます。一方、対策有りの場合、インテークから取り込まれた走行風によって、同部分の着雪量は低減されることが推測されます。

参考文献

  1. 高見創、新木悠斗、室谷浩平、石井秀憲、鎌田慈:走行風を利用した新幹線台車周りの着雪対策、鉄道総研報告、Vol.36、No.9、pp.5-10、2022.9
  2. 高見創:研究開発七つ道具-模型列車走行装置、RRR、Vol.78、No.11、pp.37、2021.11