空気抵抗を利用した減速装置の開発

1.はじめに

 車体外側に空気の抵抗となる板(空気抵抗板)を出し、増加した空気抵抗によって列車を直接減速させる装置を、空力ブレーキ装置または空気抵抗増加装置とよびます。
 これまでに営業車で採用された例は国内外でありませんが、車輪を使った通常のブレーキ装置と比べて、高速走行時や雨・雪などのときも安定して減速できる利点があります。また、装置を軽量・コンパクトに作りやすいことや、列車の速度が高いほど強い力が得られること、さらには動力や制御が基本的に不要なことなども利点となります。
 本研究では新幹線の試験車向けに新しい空力ブレーキ装置を開発しました(図1)。

2.小型の空力ブレーキ装置

 空力ブレーキ装置は緊急時しか使わないため、信頼性や保守性など一般的な要求のほか、装置の小型化を主眼に開発しました。
 特長的な空気抵抗板の動作機構を図2に示します。内蔵した小型のエアシリンダーで空気抵抗板をわずかに開くと(約4°)、抵抗板1には走行による風圧で開こうとする回転力が働き、抵抗板2には風圧で閉じようとする回転力が働きます。このとき、抵抗板の迎え角から抵抗板1の回転力が抵抗板2よりも大きいため、2枚の抵抗板の回転軸を歯車で接続すると2枚の抵抗板を開く動作力が得られます。抵抗板の迎え角が増してほぼ垂直になると、2枚の抵抗板の回転力はほぼ釣り合って、その状態が保持されます。列車の停止後は小型のエアシリンダーを逆方向に動かすことで、抵抗板の格納が行われます。装置は上面から見て点対称に構成されているので、列車の走行方向が反転した場合も、制御の切り替えなどは行わずに、同じ原理で動作することができます。
 走行風を利用したこのような動作機構を用いることで、大きな動力源が不要となり、装置の厚さはわずか65mmに抑えられました。

 また、小型の空力ブレーキ装置を車両全体に分散して適切に配置することで、大型の空気抵抗板を1車両1か所に設置する場合と比較して、1.5倍から2倍の力を得られることがわかりました(図3)。

3.開発品の検証

 開発した小型空力ブレーキ装置を風洞実験で動作させた例を図4、図5に示します。試験風速は400 km/hです。動作指令の投入から0.39後には、速やかに抵抗板が展開して、安定した抗力が正常に得られています。
 本実験によって、平均的な抗力の大きさだけではなく、抵抗板が動作するときに生じる衝撃力の大きさや、動作時間などを把握しました。

4.おわりに

ここで紹介した小型空力ブレーキ装置は、JR東日本による改良が加えられ、新幹線試験車E956形に複数台が搭載されています。実車を使った走行試験からは貴重なデータが得られており、次世代の高速鉄道の安全性向上につながるものと期待されます。

参考文献

  1. 高見創:空気抵抗を利用して高速列車を減速する、RRR、Vol.77、No.10、2020
  2. 高見創:小型軽量な高速鉄道用空力ブレーキの開発、日本機械学会論文集、Vol.86、No.881、pp.5-10、2022(※)
  3. 浅野浩二:次世代新幹線の実現に向けて-これまでの研究開発と新幹線高速試験電車「ALFA-X」の製作-, JREA, Vol.62, No.5, pp.4-7, 2019

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