新たな床構造の開発

新幹線のような高速鉄道車両の台車直上における車内騒音は、100~300Hzの周波数帯域において、特に高いレベルを示し、台車系からの振動に起因する固体伝搬音が支配的であることがわかっています。これまでの床構造に関する固体伝搬音対策の代表的なものとして、図1中央図に示すように、床板と床構体(床根太)の間に防振ゴム等を挿入して弾性支持する「浮床構造」が挙げられ、最近の新幹線車両にも採用されています。そこで固体伝搬音対策として、新たな床構造の開発を行っています。

1.分割床板

これまでの大きな面積の床板を分割して、弾性支持することにより床板からの放射音を低減する対策を提案しました(図1右図)。この対策は、床板を小面積に分割した上でそれぞれを弾性支持し、分割床板と防振ゴムからなる振動系のパラメータを調整することにより、振動の大きい範囲のみに局所的に対処することなどが可能となります。また、隣り合う分割した床板同士の振動に位相差をつけることにより、放射音のキャンセレーションを引き起こし、床板全体からの放射音の低減を図ります(図2)。実際に固体伝搬音模擬用加振装置を用いて得られた床板の振動データを使用して、分割した床板パネルの隣り合うパネルの振動に位相差を与え放射音圧分布を解析的に求めることにより、放射音を低減できる可能性があることを示しました(図3)。

2.吊り床構造

構体の振動特性を改めて確認すると、側構体の上下方向の振動は、床構体より小さいことが分かりました。そこで、床板を側構体から吊り下げる「吊り床構造」を考案しました。図4に示す通り、これまで床根太を介し床構体に固定されていた床板を、側構体から「吊り部材」により吊り下げます。その結果、床板は床構体で支持されないため、床板への振動入力は側構体からのみとなり、床板からの放射音が小さくなることが期待できます。吊り部材の構体あるいは床板の取り付け部に振動絶縁物を入れ、さらに振動低減効果を図ることもできます。

図5に示す通り、試験車体に吊り床構造を試作して定置加振試験を実施しました。固定床と吊り床の放射音響パワーの比較を図6に示します。50~500Hzを中心に吊り床の放射音響パワーが10dB前後小さくなっていることが確認されました。このように床板からの放射音が低減したことで、車内騒音の低減が期待できます。

参考文献

  1. 朝比奈峰之、山本克也、秋山裕喜、佐藤裕之、間々田祥吾:分割床板による高速鉄道車両の車内騒音低減対策、鉄道総研報告、Vol.29、 No.9、pp.29-34、2015.9
  2. 後藤友伯、山本克也、朝比奈峰之:車内騒音の固体伝搬音低減のための吊り床構造の開発、鉄道総研報告、Vol.31、 No.6、pp.41-46、2017.6

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