機械学習を用いた列車遅延予測手法

1.概要

ニューラルネットワーク(NN)やLong Short Term Memory(LSTM)と呼ばれる機械学習のモデルを用いて列車遅延を予測する手法を構築しました。過去の列車遅延の変化の傾向を事前に学習し、当日の状況に合わせ、以降の数十分先までの列車遅延を予測します。これにより、指令員の運行管理業務の支援や、列車遅延情報の提供等、旅客サービスを向上させることができます。

2.列車遅延を予測するまでの流れ

列車遅延を予測するためには、予測を実施する日より前の事前学習処理、当日の状況に合わせた予測処理、という2つの処理があります。事前学習処理においては、過去の実績データ(列車遅延、乗車率)をもとに、事前にデータ間の関係性を学習し、予測モデルを構築します。予測処理においては、予測時点の遅延や乗車率の状況を予測モデルへの入力とすることで、数十分先までの列車遅延や乗車率を予測します。

3.ニューラルネットワーク(NN)を用いた列車遅延予測

① ニューラルネットワークとは

ニューラルネットワーク(NN)は、人間の脳の神経細胞網の働きを計算機上で疑似的に扱えるようにモデル化したものです。一つ一つの神経細胞をパーセプトロンと呼ばれる計算モデルで表し、NNはパーセプトロンが複雑に結合したネットワークになります。
今回、パーセプトロンが層状に積み重なったフィードフォワードニューラルネットワーク(FNN)を用います。

② 列車遅延を予測するFNNの入出力

FNNへの入力は、予測列車と直前を走行する列車の5駅前までの発遅延(発遅延とは、ある駅で実際の列車が出発した時間の実績と、計画上の出発時間との差のこと)と、予測列車の5駅前までの乗車率です。直後を走行する列車が予測列車を追い越す場合、その列車の5駅前までの発遅延を入力とします。出力は数十分先までの予測列車の遅延になります。
図4では、入力は●時点の発遅延と、予測列車の駅B以降の各駅間の乗車率が入力になり、出力は黒色の〇時点の遅延になります。

4.Long Short Term Memoryを用いた列車遅延予測

① Long Short Term Memroyとは

Long Short Term Memroy(LSTM)はNNの技術を応用した、深層学習の一つのモデルです。時間とともに変化をするデータを扱うことを得意としています。
図5のように、LSTMはある時刻の出力が次の時刻への入力となっています。そのことで、過去の情報を反映した値を出力することができます。

② 列車遅延を予測するLSTMの入出力

列車の着遅延(着遅延とは、ある駅で実際の列車が到着した時間の実績と、計画上の到着時間との差のこと)、発遅延、乗車率を組合わせて、列車遅延を予測した場合の予測精度を比較した結果、最も精度が高かったのは、予測対象列車の直前の着遅延と発遅延とした場合でした。この場合の、LSTMの出力は直後の着遅延、発遅延です。
具体的な入出力を図6に示します。予測のタイミングを現在時刻とした場合、LSTMが出力した着遅延と発遅延は、次の時刻のLSTMへの入力となり、LSTMはその次の時刻の着遅延、発遅延を出力します。この処理を、予測対象時間内の着遅延、発遅延が全て出力されるまで繰り返します。

参考文献

  1. 辰井大祐、中挾晃介、國松武俊:ニューラルネットワークによる列車運行予測手法
  2. 辰井大祐、中挾晃介、國松武俊、坂口隆、田中峻一:深層学習を用いた列車遅延予測手法