遅延の影響度・影響人数評価に基づく遅延対策支援システム

1.概要

 日々収集、蓄積される列車遅延データ(運行実績データ)を分析し、遅延が波及する範囲の大きさを「影響度」として、遅延により目的駅到着が遅れる旅客人数を「影響人数」として定量化することで、列車ダイヤを評価する手法を開発しました。これにより、ダイヤ改正での余裕時分の付加、待避駅の変更等、遅延対策の実施が効果的な列車や駅が定量的に抽出可能となり、ダイヤの定時性向上と、鉄道事業者の輸送計画業務の効率化に繋がります。また、これらの手法を実路線に適用し、抽出された遅延対策の優先箇所が妥当であることと、遅延対策を実施したダイヤ改正後に、実際に遅延が縮小したことを確認しました。

2.背景

 近年、各路線で日々、慢性的に発生する列車遅延が課題となっています。特に、複数路線を跨る直通運転等により、ひとたび発生した遅延が、広範囲・長時間にわたり継続する状況も発生しています。このような広域型の遅延は、多くの旅客に迷惑をかけるため、優先的に対策を打つことが必要です。
 鉄道事業者も、日々の運行状況を調査、分析し、ダイヤ改正で余裕時分を付加する等の遅延対策を行うことで、ダイヤの定時性向上に努めています。運行状況の分析には、主に運行管理システムに日々蓄積される、列車遅延データが活用されます。従来の分析手法として、一定期間の列車遅延の平均値や中央値を算出し、ダイヤ図の列車スジを着色する「色付きダイヤ図」が使用されています。これにより、慢性的な遅延箇所は判別できますが、具体的にどの箇所(列車・駅の組合せ)に対して、余裕を付加する等の遅延対策を講ずるのが効果的か、遅延対策の立案のための手掛かりを得るのは困難、という課題がありました。

3.遅延の影響度に基づく評価手法

 遅延対策においては、遅延が他の列車や駅へ広範囲に波及する箇所を優先して対策すれば、少ない遅延対策で効果的に遅延を縮小できることが経験的に知られています。そこで、まず、ある箇所での遅延が波及した範囲の「列車・駅・到着または出発」の組合せの数を、遅延の「影響度」として新たに定義しました。次に、日々の実績遅延データから、各箇所の遅延が波及した範囲を特定したうえで、遅延の影響度を算出します。そして、一定期間(1ヵ月等)の影響度の平均値や中央値を算出します。この値が大きい箇所が、遅延対策による効果が大きく、ダイヤ改正等で優先して遅延対策を検討すべき箇所となります。

4.遅延の影響人数に基づく評価手法

 一方で、影響度による評価手法は、遅延が波及した箇所数に基づくもので、実際に各列車に乗車していた旅客の数や、遅延により列車の乗継に変化が生じ、間接的に影響を受けた旅客の数が反映されないという課題があります。そこで、旅客の視点による遅延の評価手法として、ある箇所での列車遅延により目的駅到着が遅れた旅客の数を「影響人数」として定量的に評価する手法を構築しました。
 影響人数の算出には、ダイヤデータや実績遅延データに加え、自動改札機等で収集される旅客データ(出発駅、目的駅、利用時刻の組合せ情報)を使用します。旅客の列車乗継経路を推定し、目的駅到着が遅れた旅客を抽出したうえで、列車遅延箇所と旅客とを対応付けることで、影響人数を推定します。

5.遅延対策支援システムの開発

 構築した影響度評価手法、影響人数評価手法を搭載した、ダイヤ作成担当者向けのソフトウェア「遅延対策支援システム」を開発しました(図1)。本システムにより、効果的な遅延対策の検討・立案を、従来の5分の1程度の期間で行うことが可能となり、定時性・利便性の向上と、鉄道事業者の業務の効率化が同時に実現できます。

6.実路線への適用と検証

 提案手法を、実在する3路線に適用した結果、影響度や影響人数が大きく算出された箇所は、ダイヤ担当者が認識していた要遅延対策箇所と一致することを確認しました。さらに、本手法により抽出された箇所に対し、ダイヤ改正時に遅延対策として、余裕時間の付加や着発番線の変更を実施したところ、対策箇所とその周辺での遅延が縮小し、提案手法の妥当性と有用性を確認しました(図2)。

7.今後の展開

 本手法を様々な路線に適用し、提案手法の有用性を検証していきます。また、本手法をベースに、人身事故等のダイヤ乱れ時における、運転整理の評価手法についても検討をしていきます。

参考文献

  1. 國松武俊,国崎愛子,中挾晃介,坂口隆:遅延の波及範囲の観点による列車遅延データ分析手法,J-Rail2020,2020
  2. 國松武俊,国崎愛子,中挾晃介,坂口隆:旅客の影響人数に基づく列車遅延の影響評価手法,令和3年電気学会全国大会論文集,2021