8. エアセクションにおけるトロリ線断線防止用複合架線

 非常停止ボタンが押された場合など、列車はやむを得ず停車しなければならないことがあります。電源系統の異なる2本の電車線が平行に架設されたエアセクション(AS)と呼ばれる特殊箇所に電車が停車した場合、パンタグラフすり板とトロリ線との間にアークが発生してトロリ線が断線することがあります。これを防ぐため、いくつかのハード対策が提案されてきましたが、高コストである、あるいはメンテナンスが困難であるなどの課題がありました。

そこで、在来線のシンプル架線を対象に、トロリ線断線防止用複合架線(AS複合架線)を開発しました。AS複合架線では、停車した電車のパンタグラフすり板とトロリ線との間にアークが発生しても、アークの熱によりトロリ線が伸びて保護線に張力が移行することでトロリ線が降下し、パンタグラフすり板と接触してアークを消弧するため、トロリ線断線を防ぐことができます(図1)。
 AS複合架線は、トロリ線上方50mmの位置に保護線を設け、両者を500mm間隔で金具により結合したシンプルな構造であり、通常の架線と同様に検測車によるトロリ線摩耗測定が可能で(図2)、低コストで省メンテナンスを実現しました。

 AS複合架線は通常の架線に比べて質量が増加しているため、集電性能の低下が懸念されます。
 そこでAS複合架線を実設備に架設し、パンタグラフの離線時間が目安値以下であること、トロリ線に異常な摩耗が生じないことを確認しました(図3)。