ちょう架線支持滑車の抑制抵抗と集電特性への影響

架空電車線は良好な集電性能を維持するため、その張力が一定であることが望ましいとされています。しかし、電車線は温度変化により伸縮するため、一般に引留箇所には張力調整装置を取り付け、支持点を電車線の移動が可能な構造(滑車支持、可動ブラケット支持)にするなどして、引留区間(以下、ドラムと呼びます)内の張力を一定に保つようにしています。ところが、支持点の構造によっては摩擦力などの線条の移動を抑制する抵抗力(以下、抑制抵抗と呼びます)が発生するため、張力調整がうまく行われず、同一ドラム内でも径間毎の張力は必ずしも一定ではないと考えられています(図1)。

そこで、首都圏在来線で多く見られる滑車支持方式のき電ちょう架式電車線(図2)における張力分布を測定したところ、引留から離れたドラム中央付近の径間では温度によって張力が大きく変動していることがわかりました(図3)。また、ちょう架線の移動量を測定したところ、引留近傍以外ではほとんどちょう架線が移動していないことも確認されました(図4)。これらのことから、ドラム中央付近では径間内の架線は張力調整が行われず両端固定状態となり、温度変化に従って張力が変動しているものと考えられます。

張力が変動すると集電特性に大きな影響を与えると考えられるため、架線—パンタグラフ走行シミュレーションにて検討を行いました。その結果、パンタグラフの種類にもよりますが、概ね100km/h程度の速度までは-10℃~40℃の温度変化による張力変動が発生しても離線の目安値を超えないことがわかりました。ただし、著大な接触力変動が発生しており、トロリ線の局部摩耗を引き起こすことが懸念されるため、このような大きな張力変動は可能な限りその範囲を狭くすることが求められます。

また、滑車の抑制抵抗を減らすには、滑車の内径/外径を小さくする、軸接触面材質は適切なものを選択する、滑車金具の遊びを小さくする、などが有効であることが実験によりわかりました。