架線着霜発生予測プログラム

1.はじめに

気温が低く、かつ湿度が高い、冬の晴れた夜間には、トロリ線(架線)に霜が発生することがあります。架線に霜が付着した区間を電車が走行すると、パンタグラフと架線との間に霜が挟まることにより離線が発生し、これに伴うアーク放電がパンタグラフの損傷などといった事故を発生させることがあります(図1)。この対策として、初列車運行前に「霜取り列車」と呼ばれる臨時列車を運行している区間があります。霜取り列車の運行判断を適確に実施するためには、霜の発生予測が重要となります。そこで、前日に得られる気象情報を用いて、架線着霜発生予測プログラムを開発しました。

2.架線着霜発生予測プログラム

架線着霜とは、空気中の水蒸気が架線表面に凝結し、霜となって成長することです。これは、夏にコップに冷水を注ぐとコップ表面に結露するのと同じメカニズムです。つまり、架線表面が放射冷却により、霜が発生する温度(霜点温度)よりも低い温度となると、架線表面へ水蒸気が凝結して霜が成長します(図2)。観測により霜が発生している時間帯と架線温度が霜点温度を下回っている時間帯が一致していることが確認できました(図3)。また、霜が発生する日は前日の夕方から翌朝まで水蒸気濃度がほぼ変わらないという特徴があることがわかりました。

霜の発生には水蒸気の動きが重要であることがわかったため、架線着霜発生時の気象条件と霜の発生メカニズムに基づく架線着霜発生予測手法を考案しました(図4)。本予測手法に必要なのは、4つの情報(夕刻の気温と湿度の観測値、翌朝の予想最低気温と天気の予報値)だけです。本予測手法による架線着霜発生の的中率は、天気予報が100%的中した場合は90%、一般的な天気予報の的中率を考慮した場合でも70%であることを確認してます。

本予測手法を簡便に使ってもらえるように、架線着霜発生予測プログラムとしてアプリケーション化しました(図5)。本プログラムには、実際の霜の発生を記録していくことで、図4のパラメータαとβを調整して的中率が向上する学習機能があります。

4.本手法の活用法

本手法による予測結果を用いることで、客観的な指標に基づいた霜取り列車の運行やノッチ制限の要否の判断が可能となると考えられます。

参考文献

  1. 鎌田慈、宍戸真也、根津一嘉:簡易な架線着霜予測手法 ─架線着霜による被害と岐阜県中津川における検証─、雪氷、Vol.80、No.5、pp.427-440、2018
  2. 鎌田慈、宍戸真也、遠藤徹、飯倉茂弘:架線着霜現象の解明と発生予測手法の検討、鉄道総研報告、第22巻、第1号、pp.5-10、2008.01