レーダー情報を用いた雪の乾湿の推定

1.はじめに

鉄道の雪害は大雪の時にのみ発生するわけではありません。雪害の種類によっては降雪の性状(乾いているか、湿っているか)によって、少量の降雪でも雪害の原因となります。例えば、架線やパンタグラフへの着雪は、湿った雪が降っているときに発生しやすいといわれています。首都圏のような降雪量が少ない非豪雪地域で降雪が観測される場合、多くは気温0 ℃付近の湿った降雪となっています。そのため、降雪自体の頻度は少ないものの、湿った雪が降った場合、パンタグラフへの着雪等が大きな輸送障害の原因となることもあります。したがって、この種類の雪害への対策として、雨か雪か、あるいは雪の中でも湿っているか乾いているかを判別することが防災上、重要となります。

2.雨/雪の判別手法

地上での降水が雨か雪か、あるいは乾いた雪か湿った雪かを判別するためには①上空で雪粒子が融け始める高度(気温0℃の高度)を 見つけ、② 雪粒子が気温0℃の高度から地表面まで落ちるまでに融解する量を計算する必要があります(図1)。

0℃高度の情報は、地上における気温などの観測値から推定することが難しいため、上空の降水粒子を観測できる気象レーダーを利用する必要があります。気象レーダーは、ある仰角をもって水平方向にアンテナを回転させて情報を取得します。気象レーダーから離れるほど高い高度の降水粒子を観測するため、降水が雪から雨に変わる層(融解層)を電波が通過するところで観測値の分布に「ブライトバンド」とよばれる特徴的な領域(図2)が見られます。この領域の上端高度を0℃高度と推定します。こうして見つけた0℃高度から落下する雪粒子の融解を物理モデルで計算することで、地上で降水が雨か雪か、あるいは乾いた雪か湿った雪か判別することが可能となります。

図3は、新潟市で実際に観測した降水種(雨滴、融解粒子、雪片)の時間変化(5分ごとに観測した降水粒子の総個数に対する、降水種ごとの個数の割合)を示しています。図4は開発した手法で推定した地上での降水粒子の含水率(粒子の全体の重さに対する液体の重さの割合)です。降水粒子の種類が雨から融解粒子(湿った雪)、雪片(乾いた雪)に変化していった様子が確認できます。

3.本手法の活用法

開発した手法を利用することで、地上での雨/雪および雪の乾/湿の判別が定量的に可能となります。

参考文献

  1. 高見和弥、鈴木賢士、山口弘誠、中北英一:冬期の降水形態の判別を目的とした偏波レーダーを用いた0℃高度推定手法、土木学会論文集B1(水工学)、76巻、2号、I_205-I_210、2020年 (※)
  2. 高見和弥, 佐藤亮太, 高橋大介, 鈴木賢士. (2021). レーダー情報から雪の乾湿を推定して鉄道の雪害対策に役立てる, RRR, 78(6), pp.12-15.

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